No.14 俺もお前も
フィーが何であんな状態になるのかを知ったのはフィーがいなくなってしばらくしてからだった。
家で虐待を受け、学校で俺にいじめられていたフィーはどんな気持ちで生きていたのか――
「お前のせいでフィーがどれだけ苦しんだと思ってる」
――もちろん俺のせいでも。
自分で放った言葉が自分に突き刺さる。
そんなエンの心情を知ってか知らずかギニアはより一層ニヤニヤとしながらこちらを見る。
「さあ? それに苦しんだというより毎日いい思いができてよかったのでは? あの子、毎回毎回いい声で鳴いてくれるんですよ。そりゃもう思い出すだけで今が仕事中だと忘れてしまいそうな程で」
思い出す様に宙を見上げ、ため息を吐いている。
その語り口はまるで良い思い出のよう。
その言動がエンをさらに苛立たせる。
――怒らせようとしてるなら乗ってやるよ。
「これ以上話しても無駄みたいだな」
「ええ、私めもそう思います」
土埃を立てながら全速力で走り出す。
姿勢を低くして下から上に鉤爪を振り上げる。
ギニアが初めて固有武器を出し、鉤爪を止める。
固有武器はメイス。
頭部は小さめで洋梨にイボがついた様な形をしている。
攻撃を続けるが、防御にしか使わない。
ギニアがこの武器をうまく使いきれていないのが目に見えてわかる。
明らかにケイル頼りな戦闘スタイル。
「お前のケイルは知っている。三分経つのを待ってるんだろ」
さっき気絶させた奴がおそらくギニアの部下。
気絶してるのをいい事にケイルでエンも気絶させようという魂胆だろう。
「なんだ知ってたのか」
先程までの演技をやめ、意地の悪そうな顔で笑い出す。
「せっかく下手に出て時間稼いでたってのに。まああと十秒程、もうどうにもならないだろ――あれ、どこ行った」
エンがギニアの視界から消えた。
直視し続けないと意味のないケイルだ。
ギニアといえど流石に焦って隙だらけになる。
ただ後ろに回り込んだだけなのに馬鹿な奴。
「ッ! ――え、なんだこれ……ッ」
ギニアの腹部から三本の刃が生える。
痛みの根源は腰、痛みで動きが鈍くなった体で後ろを振り返る。
エンの目が赤くなり『感』が浮かび上がっている。
「な、んで……ぐはッ」
苦痛に歪んだ顔で口から血を流す。
「猫の癖に噛ませ犬みたいな事言うなよ。お前が俺のケイルを知らなかっただけだ。このケイルは俺の喜怒哀楽を力に変える。喜、怒なら身体能力強化、哀なら身体ダメージ、楽は変化なし――もう聞こえてないか」
さっきの一言を発するのが限界だったようで腹に鉤爪が刺さったまま体の力が抜けている。
このまま放っておくか、今すぐ鉤爪を消せばこいつは間違いなく死ぬ。
「……はぁ。殺したらダメなんだよな」
ケイルを消し、血塗れの手で通信機を取り出して医療班に連絡を取る。
本当はこの男をその辺に投げ捨ててやりたいがそうもいかず、煮え切らない苛立ちを少しでも落ち着かせる為に言葉を吐きつける。
「二度とフィーに近づくな」
もちろん意識はないので聞こえることはない。
言葉と共に上がってきた鮮血を地面に吐きつける。
ケイルの影響で内臓と骨が損傷したのだろう。
この間シャークと戦った時より酷い。
身体の中がどうなってるか考えるだけで気絶しそうなので何も考えないようにする。
痛みを堪えて息を吐きながら誰にも気づかれないように口を拭う。




