No.12 エン・プラグアグリーは
生まれた時から何不自由ない生活をしていた。
物心ついた時から誰かを虐げるのは日常だったし、楽しかった。
仕事中の両親を盗み見ると、いつだって大人達は両親の目の前で怯えている。
その様子を見ると自分の親はすごいんだと尊敬できたし、その影響か誰もエンに頭が上がらなかった。
そして跡取りだと言われ始めた頃に、数ある分家から付き人候補の同い年くらいの子供が二人連れてこられた。
「コクとお呼びください」
「シロとお呼びください」
コクヨウ・オブシウス、真っ黒な髪。
シロツメ・クロバ、真っ白な髪。
二人とも忠誠を叩き込まれていていい側近だと思い、他の候補を見る事なく二人に決めた。
「エン、その二人がいれば何かあっても大丈夫でしょ。来週から学校に行きなさい」
突然母からそう告げられ、口を尖らせる。
――元々俺一人でも大丈夫だし、というか学校って。
「学校ってあそこだろ? この辺の子供が騒いでる所。あんな所行きたくねぇよ」
学校は面倒くさくて行きたくなかったが母親にもう一度「行きなさい」と言われてしょうがなく行くことにした。
学校にいる子供はエンがヨザクラの跡取り息子だと知ってか知らずか、全く関わってこない訳でもなく、かと言って過度に関わってくる訳でもない。
暴力沙汰を起こしても次の日には当事者以外は何もなかった顔で普通に生活している。
トートだからこんな事見慣れているのか、もしくはヨザクラの本拠地が近いから日常茶飯事なのか。
社会勉強と母親は言っていたが、意味なんてあるのかと疑問に思っていた頃に珍しくもない編入生。
水色の長い髪にオレンジ色の垂れ目の女。
「なんだあいつ、獣人のくせに尻尾ないじゃん」
そして尾無しの獣人。
ボーっとしていて何しても大した抵抗しなさそうな奴。
「よぉ、お前どこの家の者だ?」
揶揄う様に挨拶代わりの一発を食らわせたが声ひとつ出さないので驚いた。
シロとコクが腕を掴んで起き上がらせるが、キョトンとした顔でこちらを見るばかりで抵抗する気配もない。
そんな事は初めてでその日は引き上げ、家に帰ってから二人を呼び出した。
「エンさんどうかされましたか?」
「あいつ全然泣かねぇな」
「今日の尾無しの女ですか」
「そうだ。今までの奴らだったらすぐに泣き喚いてたのに、あいつムカつくだろ?」
――いいおもちゃを見つけた。
退屈な学校で何をするのか決まった。
あの無表情の女を泣かせる。
スカしたあいつの顔が涙でぐちゃぐちゃになるのを見てやる。
次の日から授業以外の時間はフィーを捕まえて暴力を振るった。
もちろん濃い痕が残らない程度に。
それでも、反射的なうめき声はたまにあげるものの涙一つ見せない。
それどころかある日を境に微笑むようになっていき、それが気味悪くてムカついた。
用事のない日は学校が終わった後も人気の無いところで痛めつける。
一応毎回場所は変えている。
今日は工事現場だ。
地面に倒れているフィーを軽々持ち上げ、コンテナに投げつけた。
ボンッと大きな音を立ててへこむコンテナ。
フィーはその場に座り込むが目はいつも通り真っ直ぐこっちを見て微笑んでいる。
「これだけやっても泣かねえのかよ」
気が立って尻尾の毛も逆立つ。
フィーに近づこうとした時、何をしても変わらなかった目が大きく開かれ、今まで聞いた事のない大きな声で叫ぶ。
「……ッ危ない!!」
「声出るじゃねえか……あ?」
突然何かの影で辺りが暗くなったかと思うと、そのまま強い衝撃と痛みで意識が朦朧とする。
シロとコクの潰れた様な声が聞こえた気がした。
あいつらは無事でいてくれと薄れていく意識の中で強く願う。
目が覚めた。
――俺の部屋だ。
飛び起きて辺りを見回すと、頬に手当てをした跡のあるシロと、左目に医療用眼帯を巻いていたコクがエンのベッドに突っ伏して寝ていた。
二人が無事でよかった、と心底安心する。
「いッ!」
そう一安心した時、右耳に酷い痛みが走った。
痛みの原因であろう場所に手をやると右の獣耳が半分千切れていた。
あれだけの事故でこの怪我で済んだのは奇跡だろう。
しかしおそらくフィーは無傷だ。
その事実に怒りが湧いてくる。
「いてぇ……これも全部あいつのせいだ、あいつが最初から泣けばこんな事する必要も無かった、クソッ!」
壁を殴りつけ物に当たる。
その音で両親と部下数名が部屋に雪崩れ込んできた。
拳からの出血を見られて母親に怒られた。




