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No.11 たすけて、助けて、助けたかった

 体が痛い、全身が痛い。

 引きずられると地面と接している部分が擦れて痛い。

 痛くても辛くても目を瞑って体を丸めて耐えるしかない。

 だってそうするしかないじゃない。


「久しぶりの親子の再開だ、もう少し喜べよ」


 砂とは違う硬い地面に投げつけられ目を開けると、どこかの倉庫の中だった。

 ヨザクラが一時拠点にしていた倉庫より何倍も大きい。

 ここならどれだけ騒ごうと何をしようと誰にも聞こえない。

 帽子を掴んで引っ張り目を隠す。

 これから何をされるのかはわかっている。

 わかってるから何も見たくない。


「ごめんな、さい、ゆるして、ていこうし、ないから」


「おーおー可哀想にこんなに怯えて……しかしお前最後に会った時より大きくなったな。これならもっと可愛がってやれる」


――恐い、恐い、恐い。

 恐くて仕方がない。

 帽子を取られそうなのにそれを払う事も出来ず、されるがまま剥ぎ取られて投げ捨てられる。

 そしてまたしても強制的に目を合わされて震えが一層酷くなる。


「ッごめんなさ、い、ごめん、な、さい」


「いい加減わかってるだろ、泣くな――何だ?」


 突然爆発音の様な大きな音が倉庫内に響き渡り、ギニアの手も止まり振り返る。

 フィーも反射的に音の方向を見ると数メートル先の壁には人二人分程の大穴が空いており、その穴の反対側の壁にはシューがもたれかかっていた。

 爆発音は壁に穴が開いた音で、シューが壁を貫通して勢いそのままにぶつかったと思われる。

 飛べるケイルの持ち主だが、自らの意志で飛んだとは思えない。


「フィー……ッ!!」


 穴からエンが現れて名前を呼んでくれる。

――その瞬間体の力がフッと抜け、頭の中で何かが切れた。


「お前ッ! 何でヨザクラの傘下組織にいる!」


「おやおや『エンさん』じゃないですか、私もあなた達と同様雇われですよ。『エンさん』こそ思ったよりお早い到着で」


「異名保持者がお前だという情報が入って飛んできたんだよ。今すぐフィーから離れろ」


 ギニアが立ち上がり、気だるそうにエンの目の前まで歩いていく。


「この子私の義理の娘なんですよ。親が子をどうしようと勝手でしょ?」


「親にそんな権利はない。そもそも親権ももう無いだろ、表でろ」


 ギニアの胸ぐらを掴み、外へ蹴り飛ばす。






 ギニアという男が倉庫から少し離れた所に飛んでいったのを見送って前後左右の安全確認をする白い髪。


「エンさん久々に派手にやったなぁ……」


 作業服の男はコクが相手をしているから安全なんだろうが用心に越した事はない。


「私は私の仕事をしないとね」


 ケイルを浮かび上がらせて、辺りに人がいない事を再度確認する。

 エンに殴り飛ばされて気絶してる憐れな革ジャンを横目に薄暗い倉庫に足を踏み入れる。

 猫型の目は夜目が効くので目的の人物をすぐに見つける事ができた。


「何で私があの女を保護しないといけないのよ……」


 会うとまたイライラしそうなのでケイルで場所だけ把握したら後はコクに頼もうと思ってた。

 しかしエンが絶対にシロじゃないとダメだというのでしぶしぶ行くことになった。


 エンさんは強い女が好みだと思っていたのにどうしてフィーなんだろう。

 異名保持者一人にあっさり負けて捕虜にされるなんて情けない。

 これで無傷だったらただじゃおかないから。

 レイさんと別々の場所に運ばれたのは気になるけど――


「――め……さい、ご……な」


 そこにいたのは記憶の中のフィーからは想像もできない弱った姿。

 腕で頭を隠して蹲り目視でもわかる程震えている。

 あの毅然とした態度がどうやったらこんなことになるのだろう。


「……ちょっと、あんた大丈夫?」


 思わず肩に手をかけると体が跳ね、先程より声が大きくなって何を言っているのかがはっきりと聞こえる様になる。


「ッごめんなさい、ごめんなさい、ゆるしてください」


 誰と間違えているのだろう。

 おそらく先程まで一緒にいたギニアだろうが、フィーのあまりの変貌ぶりに気が動転する。


「私よ……シロよ」


「……し、ろ?」


 頭を抱えている腕の隙間からこちらを見る目は怯えきっており、どこを見ているのかわからない。

 どうしたらいいのかわからず動けないでいたらフィーの肩に置いていた手を取られたと思うと、そのまま腕にしがみついてくる。


「なっ何してるの?!」


 慌てて引き抜こうとするが――


「た、す……けて」


「……なんなのよ! もう!」


 こんな弱々しい声で話すなんてフィーじゃない。

 あの子はいつもスカした態度で達観しててムカつく奴。

 これはフィーじゃない。

――でももしこっちが本当のフィーだったら?

 近くに投げてあった帽子を拾い、フィーの頭に力任せに被せる。

 そしてうずくまっている体をどうにか抱えて、倉庫を後にする。






「あーあ、逃げられちまったか。久々に楽しめると思ったのに。ねえそう思いません『エンさん』?」


 ギニアはシロがフィーを連れて離脱したのを遠くから見送ると、服についた土埃を払いながら立ち上がる。

 うまく受け身を取った様でダメージは然程受けていない様だ。

 わざとらしくさん付けで呼んでくるのが憎たらしい。


「あなた昔うちの子いじめてたでしょ?」


 天気の話でもしているかの様に平然と質問してくるが、明らかに動揺を誘うもので会話の内容は何でもよかったのだろう。

 ギニアが今しがた浮かび上がらせたケイルがそう語っている。


――正直、動揺を誘うことには成功している。


「……ああ、知ってたのか」


「育ての親として当然ですよ。家族ぐるみで育児放棄してたのを連れ出して育てたのは私ですから――それで、どうでしたか? あの子」


「……何を言っている」


――それ以上喋らないでくれ。

 動揺しているのを悟られたくないが、思わず拳を握りしめる。


「もちろん楽しまれているのでしょう? 私が仕込んだんですよ、ヨカッたでしょ?」


 ニコニコと嬉しそうに話すその姿に思わず拳が出るが、単調な攻撃は意図も容易く受け止められる。


「お前、ふざけるのもいい加減にしろよ」


「あれ? まさかあらゆる方面で悪名高い『エンさん』がまだ手を出していないなんて事ないですよね?」


 奥歯を噛み締める。

 反論できない。

 ギニアが言っている事は全て事実でフィーが居なくなった後は当てつけの様に様々な犯罪を犯した。

 ヨザクラに入ってからも昼夜共にとても人に言える生活ではなかった。

――後悔してる、なんて言うのも罪深い。

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