No.6 次の仕事
気づけば日も暮れ、フォミは食事処の扉にかけてある札をOPENからCLOSEにひっくり返す。
鍵を閉め戸締りを確認するとすぐ横にある2階へと続く階段を上がっていく。
2階の扉を開けると中央には長机、そして机の周りには少し高級そうな椅子が置いてある。
壁のほとんどは資料棚で埋め尽くされているが、埋まっている段の方が少ない。
「皆、今日もお疲れ様」
椅子には桃源郷で働いている従業員、フォミを除いて総勢5人が座っている。
「昨日は大変だったってミルから聞いたぞ、お疲れ様」
そう言ってフォミに労いの言葉をかけるのは、右目に包帯で眼帯をしているトート。
髪はフォミより少し濃いめの紫色で肩に当たらないほどまで伸ばしている。
「ええ、思ったより骨の折れる仕事だったわ」
フォミはそう答えると、そのまま仕事の報告に入る。
一通り報告が終わると――
「あと僕から追加で」
フォミの報告にリルが付け足しをする。
ミルの心配していた苦情の話だったが、話し合いをして丸く収まった、というものだった。
「それと、奴隷輸送車を運転してたトートは桃源郷で働く事になったよ。準備ができ次第引っ越してくるからよろしくね」
「面接には不合格だったんだけどね」
フォミは皆に聞こえる程度の小声で言うが、皆あまり興味が無いのか特に驚いたり喜んだりする様子はない。
ミル達にとってはただ連絡事項を受けただけだった。
「この話はおしまい。それより私達がいない間の桃源郷の様子を教えて欲しいわ」
体の前で手を叩き、話を区切る。
不機嫌なのが皆に伝わってしまっただろうか。
「食事処なら少し客入りが悪かったかな。でも大した事じゃないし気にしなくてもいいと思うよ」
「逆に診療所は患者が多くて困ってるんだけど」
金髪を後ろで緩くくくっている白衣の男が初めて声を発する。
蒼い目は視力が良くないらしく眼鏡をかけている。
そしてその横にいる、猫と狐を足して2で割ったような白い生き物も「ぴゃー」と主人の言葉の後に続いて鳴く。
「ちょっとした切り傷とか風邪っぽいとかで全然大した怪我でもないのに次から次へとこられて迷惑なんだけど」
頬杖を突きながらため息をつく。
すると白い生き物は再び一鳴きし、隣に座っている眼帯のトート、キルの膝の上に乗る。
小さめの中型犬程の体に反して体重は軽い子だから突然膝に乗られたとしても落とす事はない。
そしてキルに「ハク」と呼ばれて頭を撫でられる。
「おいソル、そんな事言うなよ。今日は俺も手伝ったんだから少しはゆっくり出来ただろ?」
ハクを撫でながら白衣の男、ソルに物申したつもりだったのだろうが――
「キルがいる時の方が患者が多い」
「なっ?!」
すぐにその申し立ては崩される。
そしてソルは、どうにかしてくれと言わんばかりにフォミの方を見る。
「そうね……お客さんが多い事はいい事なんだけど、ソルくんが疲れて他の仕事が出来なくなるのも困るから診察料を上げるのはどうかしら。そうしたら来る人が減るかもしれないし、減らなくても売り上げがあがって経理的には助かるわ」
「……了解」
面倒くさそうにフォミの提案に承諾の返事をする。
もし減らなかったら損するのは自分だけだと気づいているのか少し不満気味だが、フォミは話を進める。
「さて報告も終わったし本題に入るわよ。今日の本題は明日の仕事の話。ソルくんに指名で依頼がきてるわ。1人だと大変な内容だからミルちゃんがついていってね」
「キルは? こないの?」
名指しされたミルが返事をするより先にソルが食い気味に問いかける。
さっきまでの気怠げな態度はどこへ行ったのか。
「ソルくんに任せるわ」
その言葉を聞いて、ソルがキルの目を見ると、キルが頷く。
ハクがぴゃっと鳴く。
「情報はどれくらいあるの?」
「事前に調べられる情報はここに纏めてあるわ」
棚から資料を取り出しミルに渡す。
普通なら指名されたソルに渡すのが道理なのだろうが、こういったことはミルの方が得意である。
仕事が始まるまでに全てを把握して2人に伝えるだろう。
「あとリルくんにも指名で依頼がきてるわ。長くなりそうだからリルくんだけ残って皆はもう解散にしましょう」
「私は明日も食事処でいいの?」
何も言い渡されていないフィーが首を傾げる。
「ええ、明日は私も依頼がないから一緒に接客しましょう」
「わかったわ」
夜が深くなっていく。
各々が2階より上にある自室に戻っていく。