No.7 耐えがたい眠気
一人も倒せていないのに敵がもう一人増えた。
どうしようかと考えているとフィーが突然座り込んだのが見えた。
攻撃を受けたようには見えなかったが何か精神に作用するようなケイルを受けたのだろうか。
顔をしかめながら目の前の上から目線の男を見る。
ケイルの文字は『測』だが攻撃を避けられるという力なのか?
それだと『測』より『避』の方が合っている気がする。
当たりさえすればどうにでもなるのに。
そんなことを思いながら攻撃を続けていると、常にこちらを向いていた目が後ろを向く。
「隊長、もうその女に戦意はありません。今のうちに捕縛を――ッ!?」
「やっとこっちから目を離したね」
何で急に目を離してくれたのかはわからないがその隙にすかさず手を掴み、思い切り爪を立てる。
「誰が尻尾からしか薬注入できないって言った? 刺されば尻尾じゃなくてもいいんだよ!」
レイの目が再び赤くなり『薬』の文字が浮かび上がる。
「ッな、に……」
ふらふらと膝をつきそのまま地面に倒れたので手を離す。
「ふんっ! オレの人殺しバージンあんたなんかにくれてやるつもりないから強めの睡眠薬で勘弁してあげる。まあ今の所殺人なんてする予定は後にも先にもないけどねー」
全部本音だが、殺せないじゃなくて敢えて殺さなかったという風に聞こえる様にしておく。
殺してはいけないという制約がある事は絶対にバレないように振る舞う。
殺されないならと言って無茶苦茶してくる人は実際いるので保険だ。
起き上がってこないか横目で確認しながらフィーの元に飛んでいく。
「フィーちゃんどうしたの? 大丈夫?」
フィーと敵の距離が近い。
今はケイルを浮かび上がらせたままわざと背中を見せて、まんまと近づいてきたら眠らそうとしているが、さすがにすぐには乗ってこない。
「……ごめんな、さい」
「――わかった。大丈夫だよ、一番厄介そうなのは倒したし後はオレ一人でどうにかできるから! ねっ?」
明らかにフィーの様子がおかしい。
大袈裟なくらい気丈に振る舞うが、実際問題一人はケイルの能力さえわかっていない。
――あれ、あの人いつからケイル使ってた?
振り返ると最後に来た人の右目は『写』の文字。
フィーのこの状態はあのケイルのせいなのか?
「話してる余裕あるの? さっきの傷、全然良くなってないよ!」
そうこう考えている内に敵が罠にかかった。
かかったのは右目に『傷』の文字を浮かび上がらせた少年。
「自分に痛み止め打ってるから問題ないよ」
振り向き様に相手の槍を受け流し、お返しにレイの槍で頬を少し斬ってやる。
「あんた戦うのはほぼ素人でしょ? どうせ傷負ってる奴ばっかり攻撃してるんだろうから」
自分の横腹を撫でながら少年に向かってそう言い放つ。
この傷を受けた時、完全に相手の間合いに入っていたにも関わらず大した傷ではなく、出血量に反して傷は深くない。
実践経験が少ないから加減が分からず無意識に手加減してしまっていたのだろう。
もしレイならその場で動けなくなるくらいには深く斬っていた。
もちろんそんな事をすれば重体でトートと言えども後遺症も残るかもしれないが、今は地区同士の抗争中でありそんな事は関係ない。
――あ、ここ魔界じゃなかった。ヤバいヤバいやらかす所だった。
心の中で安堵の息をつく。
「だから何だって言うのさ、君に近づかなきゃ問題ないで……しょ……あれ?」
不機嫌そうな敵の声を聞きながら自身の認識の間違いを正し、気を取り直す為に咳払いをしながら槍を地面に向かって降れば、薬が飛び散る。
「言ったでしょ、刺さればいいんだって」
振り返って相手が倒れているのを確認してから辺りを見渡す。
飛べる人と速い人はあまり戦うつもりが無いのか少し離れた所にいるので、最後に現れた隊長と呼ばれていた男に向かって歩き出す。
「ほらほらもう二人もやっちゃったよ? そこの隊長さんは戦いに加わらなくていいの?」
相手のケイルは不明。
レイのケイルはバレている上に忌力も体感では残り半分を切っている。
正直少し厳しい。
できれば最少忌力で終わらせたいがそうもいかないだろう。
「もう参加してる」
「え?」
急いで距離を取る。
『写』が何なのかわからないのが一番ネックだ。
フィーちゃん連れて撤退するのが最善かな?
いやダメだね、向こうにも飛べる人がいるから後ろから狙われたらアウト。
速い人と連携取られたらもう絶望的だし一体どうしたら――
その時、突然視界が歪む。
槍を杖の様に使うが立っていられない。
これは、強烈な眠気。
「……なん、でオレが眠くなって……いつ攻撃された――」
あんな状態のフィーを残して倒れる訳にはいかない。
しかし抗おうにも抗えずに地面に倒れ込む。




