No.6 四対二?
シロとトーリの情報通り人数は多いが、それほど強い相手もおらず今の所大した怪我もしていない。
数で押される事を警戒しているレイがケイルで空から睡眠薬を撒き、耐性のない人を眠らせる。
もしかしたらこのまま終われるかもしれない、と嬉しい誤算を期待する。
しかしそんな期待はすぐに打ち砕かれた。
フィーのすぐ正面を見れば右目の下に紋章を持つ四人が眠っている人たちを踏みつけながらこちらに向かってきている。
今まで戦っていた人は誰彼もスーツ姿だったがその四人はフィー達と同じで三者三様な服装をしている。
おそらく雇われている立場なのだろう。
「まさか五人の内四人もここにくるとは思わなかったわ……」
レイがこちらに気づき、フィーの前に降り立つ。
「あちゃーちょっと面倒臭い事になりそうだね」
「後の一人もここに来なければいいけどね」
レイが少し考え込むような素振りをしたが、すぐに元の調子に戻り、前にいる四人に向かって足を進める。
「――ねえあんたらの目的って何なの? オレら雇われだから知らないんだよねー」
「時間を稼ごうとしたって無駄だ。先の戦闘でお前のケイルは把握した。何で飛べるのかは知らないが、薬を撒く時間など渡すわけないだろう」
トレンチコートを身に纏っている犬型は腕を組み、両足を揃えて立っている。
攻撃してくる気配はない。
しかし瞳は赤く、ずっとケイルが浮かび上がっている。
フィーの位置からはケイルの文字までは目視できない。
「えーノリ悪いなぁッ!」
犬型との距離が一m程まで近づくと、レイの方から仕掛けた。
ケイルを浮かび上がらせ、尻尾を犬型に突き刺そうとする。
「――い゛ッ!!」
突き刺そうと足を踏み出した時、文字通り横槍を刺された。
形は違うがレイと同じ槍の固有武器。
長さだけで言えば向こうの方が長い。
「そこ痛いでしょ? 僕には怪我した場所がわかるんだよね!」
いつの間にか犬型の横にいた半ズボンに帽子の幼い少年。
ケイルも浮かび上がらせている。
その口ぶりから怪我に関するケイル、言葉の通り負傷箇所のわかる力だと予想できる。
「睡眠薬撒いてるから人の事言えないけど、卑怯だねぇ」
槍で刺された横腹を押さえながら後ろに跳び、距離を取る。
そして翼を広げた、それを見てフィーが走り出す。
――レイが飛び立つ。
「私はどこも怪我していないわよ」
ケイルの力がわかっている帽子の子に向かって固有武器を出し攻撃しようとするが、できなかった。
「――ッ!」
右目以外をガスマスクで覆われた顔に作業服を着た男が突然視界に現れる。
右目には『速』の文字。
単純に考えれば速く動けるといった所か。
目に見えないスピードで腹部を蹴り上げられる。
金属同士がぶつかる音がした。
山勘で腹部をガードしていたジャマダハルに敵のブーツから出てきた刃がぶつかる。
オリジナルの固有武器がブーツだった事に驚くが、今気にしないといけないのは思ったより高く飛ばされている事。
体制を立て直して反撃を――
「フィーちゃん後ろ!」
後ろからレイの声が聞こえ、振り返ると革のライダースーツに身を包み、特徴的な長毛を束ねた人。
安全ゴーグルのようなサングラスから見えるケイルは『飛』。
羽の類は見えない。
――ケイルは飛ぶ事。
空中では身動きが取れない。
固有武器を消し、受身を取ろうとするが間に合わず背中に踵落としを受け、地面にはたき落とされる。
「うッ……」
全身に打撲を受け、痛む身体で少しよろめきながら立ち上がる。
上から何かの気配を感じ、転がる様にしてその場から離れると、先程まで立っていた場所にモーニングスターを持ったライダーの男が急降下で落ちてくる。
小声で「おしい」と言うと再び空へ飛び立つ。
今度は正面から足音がして正面を向くと片手に細身の剣を持った犬型がこちらに向かって歩いてきている。
「もう諦めろ、じきにヒュープル地方は俺たちの雇い主が占領する。ヨザクラの当主も次期当主も殺したら後はこの地方の人間を従わせるだけ。九割はレーベンに埋め尽くされてる地方なんてすぐに――」
「レーベンに手出したらダメだって聞いてるんだけど?」
犬型とフィーの間にレイが降り立つ。
横腹の傷からの出血は止まっているようだが、服についた血が痛々しい。
固有武器片手に敵に突っ込んでいく。
「警察にバレなければいい」
「うわぁオレの友達にも同じこと言ってる人いたよ。でもその数週間後には見なくなっちゃったんだけど……どこに行ったんだと思う?」
槍も尻尾も全てが避けられている。
近くに来られた事で見えたケイルの文字、ずっと浮かび上がらせている『測』の文字が関係しているのだろう。
「そっちはオレの事知ってる癖にオレはあんたの事何にもわかんないんだよね。それ何のケイル?」
「教える訳ないだろ」
「けーち!」
レイに応戦しなければ。
一歩踏み出した時、再び作業服の男が目の前に現れる。
見上げれば、ライダーの男が作業服の男の頭の上に腕を置いたまま浮いている。
触れていれば一緒に速く動く事ができるのだろう。
もし一緒に飛ぶ事もできるなら厄介だ。
「あいつは複数人と戦うと混乱するから。君は俺達と戦って。それでいいよねシュー」
ガスマスク越しのくぐもった声でシューと呼ばれた男は浮かんだまま風船ガムを膨らませる。
「……んー適当でいいよ、レジが決めて」
そしてレジの頭に頬杖をつき面倒くさそうに返事をする。
パンクな見た目からは想像できない面倒くさがりな性格のようだ。
「パンドラの目的はあの犬型の人から聞いたわ。でもレーベンを力で従わせようだなんて無茶苦茶な目的ね、新しい当主は子供なのかしら? あなた達は今日この抗争に勝てもしないわ。今ここにいないけど私より強いトートがあと二人いるから」
「――そうかい、なら今のうちにお前達を人質にでもとっておこうか?」
こちらに向かって来る一人の影は、シルエットから猫型だとわかる。
どんどん近づいて来る。
前を閉めていない薄い生地のパーカーは片方だけずり落ち、中に見えるのは肩の部分が空いている首元広めのシャツ。
ダボダボのズボンのポケットに両手を突っ込んでいる。
「俺は『不純な行動』。異名保持者は多少捕虜を痛めつけたって戦犯にはならないし都合がいいなぁ」
「……え? なんで」
紫色の髪、やる気のなさそうな半目に真っ暗な夜の三日月のように弧を描く口、知っている顔。
低いがなり声、知っている声。
身体が芯から震え出す。
「お、なんか見たことあると思ったらフィーじゃないか。懐かしき我が娘、まあ義理だけど」
「――ッ!」
名前を呼ばれて側から見てもわかるくらい身体が震える。
口をパクパクさせて息が上手くできない。
ギニア・ディフィシット。
フィーの母親の再婚相手で五年前まで一緒に住んでいた。
――この世で一番怖い人。




