No.3 すれ違う
エンがどこかへ連れて行かれてから、エンと話していた小柄な猫型を先頭に大名行列のように本当の目的地に進んでいる。
周りは変わり映えしないプレハブ倉庫ばかりでどちらから来たのかわからなくなりそうになる。
しばらく歩くと、ある倉庫の前で立ち止まるが、番号が振ってある訳でもなく今までの倉庫と何が違うのかわからない。
目的地はここで間違いないようで行列は崩れ、それぞれがそれぞれの仕事を始めているようだ。
「ねえねえ君名前なんて言うの?」
「レイ、レイ! 絶対やめといた方がいいって! 悪い事言わないから!!」
レイが近くにいた女の人に話しかけるのをミルが止めている。
ヨザクラの本拠地の周辺は猫型が多く住んでいる為、必然的に猫型の多い組織になっている。
レイに話しかけられた女の人は尻尾を振り回して機嫌が悪そうだ。
尻尾のないフィーにはそれが羨ましく映る。
「ねえ、あんたもしかしてフィー?」
突然後ろから声をかけられて振り返ると薄い銀髪の綺麗な人がいた。
その人の後ろには黒髪で三白眼の眼帯の人が立っている。
「ええ、そうだけど……」
――この人たちどこかで。
「もしかしてシロとコク?」
二人とも最後に会った時より髪が伸びていてすぐに気づけなかったが面影がある。
よく考えればエンの部下が集まっているのにこの二人がいない訳がない。
「久しぶりね。シロもコクも大きくなっ――」
「助けに行ったとは聞いていたがまさかそのまま一緒にいるとは……」
「……このッ!!」
シロの拳が高く振り上げられる。
力を入れ過ぎているのか小刻みに震えている。
そんなに握りしめたら血が出てしまう。
「シロ」
「ッ!」
シロを呼ぶ声で一瞬辺りが静まり返り、声の主の足音だけが聞こえる。
「何してる」
「エンさ――じゃなくて、何もしていないです……」
振り上げていた拳を下ろし、手を後ろで組む。
コクも手を後ろに回し頭を下げている。
「コク、シロ見張っとけ」
「はい、仰せのままに。行くぞ」
歩き出したコクについて行く素振りのないシロにエンが目をやると額に冷や汗をかき、ゆっくりと足を動かし始める。
シロ達が立ち去ったのを見るといつもの鋭い眼光のままため息をつく。
「大丈夫か」
「二人とも元気そうでよかったわ」
そう言い切るとエンの眉間に皺が寄り、目を逸らされてしまった。
「元気というか……殴られそうになってなかった?」
背後から声がするので振り返ってみればレイを引っ張っていたはずのミルがいた。
ミルの後ろを見ればやはりレイは女の人達に話しかけている。
「そうかもしれないけど元気ならいいのよ。幼馴染だから」
「あいつらも幼馴染にしてくれるのか」
「だって四人でいつも一緒にいたじゃない。その格好も懐かしいわね」
一度連れ去られて再び現れたエンは最近よく着ている格好とは打って変わって、他の人と同じ白シャツに黒スーツ。
髪も最近みたいに真っ直ぐにしておらず、少しクシャっとしている。
その服装はたまにしか見たことなかったが、髪型は昔一緒にいた時と同じで懐かしい。
「嫌な事思い出さないのか……?」
目を伏せて眉間に皺を寄せる。
エンはたまにこういう顔をする。
ふとエンの右耳に目がいく。
「嫌な事……右耳の事は申し訳ないと思ってるわ。コクの左目とシロの頬の傷も……ごめんない」
「ッあれはお前のせいじゃないだろう! その事じゃなくて俺たちがした事だよ!」
「……? エン達に嫌な事された事あったかしら?」
少し考えるが思い当たる節は無く、首を傾げる。
するとエンの空気が変わった。
「……ッ、そうか、よ……もうじきパンドラが来る。あいつらの情報はトーリから聞いてくれ。巻き込んで悪かったな」
エンはそう話しながら歩き出す。
いつもと様子が違うのでフィーが呼び止めようとしたが、先程先頭を歩いていた小柄な人、トーリに呼ばれ、振り返るとエンは遠くに行ってしまっていた。
シロはエンに怒られていじけていたが、少し離れたところで二人の様子を見ていた。
「エンさん辛そうじゃん。やっぱりフィーの側にいない方がいいの思うんだよね。どうしても私じゃダメなのかな……」
「まだそんな事言ってるのか。フラれたんだろ? 随分前に何回も」
「……」
シロは子供の頃からエンの事を好いていた。
しかしそれを自覚したのが遅かった。
何回も告白し玉砕を繰り返し、一番最後の告白の時――
「何で私じゃ駄目なんですか! 何が、何があの女より劣ってるっていうのですか?!」
断られる理由は明白だったにも関わらずいつもはぐらかすエンについ楯突いてしまった。
「気づいてたのか……でもな、劣ってる劣ってないの話じゃないんだよ。俺はあいつに一生かけて償わなくちゃならない」
「……罪滅ぼしで私をフッたんですか」
「罪滅ぼしもあるがそれ以前に――惚れてるんだ、ごめんな」
悔しいが好きな子の事を思っているはずのに悲しそうな顔をするエンの顔が今でも忘れられない。
そしてエンにあんな顔をさせたフィーを許せない。
「あの女だけはどうしても気に入らない」
「そうか」




