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No.2 会いたくなかった

 予定時刻より少し前、依頼主との待ち合わせ場所に近づくに連れ、嫌な予感は段々現実味を増してきた。

 目的地は知らない場所だが、この辺り一体は馴染みのある場所だ。

 必然的に土地勘のあるエンが先頭で進んでいく。

 この曲がり角を曲がったら到着――


「エンさんお勤めご苦労様です!!!」


 全員が白いシャツに黒いスーツを纏っており、道の両脇に整列して並んでいる。

 丁寧に手を後ろに回して頭を下げている。

 どいつもこいつも顔馴染みばかりで涙が出そうだ。


「うわぁ……やっぱりか……」


「人で花道みたいになってる……」


「知ってる顔もいるわね」


「全員エンの知り合い?! 可愛い子いっぱいいるじゃん! 紹介して!」


 後ろで多種多様な反応をしている現同僚と、顔を上げる気配がない元部下。

 待っていても仕方がないので反社でできた道を通る。

 しばらく進むと一人、道の真ん中で頭を下げていた。


「ご足労いただきありがとうございます」


 統率のトーリ、部下との連絡係として信頼していた男だ。

 ヨザクラでも一二を争う小柄な身体で特別腕っ節が強い訳ではないが、他の部下からの強い推薦で統率になった。

 トーリが指示すれば大抵の奴は素直に言う事を聞くだろう。


「トーリ、何で俺を指名したんだ……こっちは急に抜けてった身だぞ……」


「うちでそんな事気にしてる奴なんて居ませんよ! 皆エンさんに命拾ってもらった身ですから。それに惚れた女の為に金も地位も全部捨てて駆けつけるなんて――」


「わーわーわー! やめろやめろ!!」


 側近だった二人にしか組を抜ける理由を話していない。

 しかし武力より情報を武器にしているこいつにはいつも色々な事が筒抜けになっていた。

 咳払いをして気を取り直し本題に入る。


「それと裏社会(こっち)の事情を表にあまりバラすなよ、自分らで解決しろ。それにお前らはよくても親父は許さないだろ、全員責任取らされるぞ」


 そう言うと図星を突かれたのか尻尾の毛を逆立たせ、人差し指で頬をかく。

 エンの父親とはつまりヨザクラの組長。

 裏切り者を許さない事で有名で恐れられている。

 そんなリスクを負ってまで何故エンを呼んだのか。


「はは……そうですね……バレたら殺されますね。ですけど相手が相手でエンさんじゃないとどうにも……情けない話ですけど……」


「……もしかしてパンドラか?」


「……はい」


 パンドラ――ヨザクラに断りもなく犯罪行為を繰り返していたので、数ヶ月前にエンが乗り込み、傘下に納める事で事態は収束したと思っていた。


「前ヤりやった時に傘下に収めたと思ってたんですけどヤり返すチャンス狙ってたみたいです。それでエンさんが抜けたの知って攻撃仕掛けてくるという情報が入ってきまして、それが今日なんです」


 顔に手を置きため息をつく。

 パンドラの頭を潰した事で完全に油断をしていた。

 子供でも隠してたのか、部下が勝手に後継人になったのかわからないが、誰かが跡を継いでヨザクラに恨みを持っている。

――これは手中に収めきれなかった俺の責任だ。


「てことはこれからここでヤり合うのか、何でわざわざヒュープルで……関所も近い、もみ消せないから死人は出せないぞ」


「はい、百も承知です。パンドラはもうこっちに向かってきています」


「はぁー今回だけだぞ、完全に制圧できてなかった俺にも非がある。だが他の奴らは返してやってくれ、巻き込む必要もないだろう。そもそも個人的に通信してくれれば連れてくる必要も――」


 後ろを振り返るとフィー達は部下に囲まれているが知らぬ顔でこっちに手を振っている。

 そして前を向けば笑顔で何も言わないトーリを見ると返すつもりはないらしい。

 一人でも多く戦力がいるって事か、はたまた見られたから帰したくないだけなのか。


「……何かあったらお前に落とし前つけさせるからな」


「はい! ありがとうございます! それでは早速服を」


 部下に落とし前なんてつけさせた事無いエンの言葉は満面の笑みで返される。

 そしてトーリが一番近くにいた部下に目配せをするとこの間まで着ていた懐かしくもない服を持ってきた。


「え、このままじゃ駄目なのか」


「見納めにどうか!」


 キラキラとした目で見つめられ断ろうにも断れない。

 深くため息を吐く。


「マジかぁ……」


「こちらでお着替えください!」


 流されるようにすぐ隣のプレハブ倉庫に連れていかれる。

 仕組まれた。






「久しぶりのエンさんッ!」


「おいよだれ出てるぞ、シロ」


 シロは両手を口に当てて尻尾をゆらゆらと揺らしている。

 白色に近い銀髪と頬の大きなの古傷が目立つ。


「勝手なこと言わないでよ。出てないし……」


 そう言いながらさりげなく口元を拭く。


「そんな事よりエンさんにまた会えたのよ! コクは嬉しくないの?!」


 黒い髪を後ろで細く結び左目に眼帯をしているコクはそんな様子のシロを軽く嘲笑する。

 そして気を取り直すように咳払いをした。


「そりゃ嬉しいさ。でもあの人は新しい道を進み始めたんだ。邪魔したら悪いだろ」


「邪魔するつもりは無いけど……」


 コクも本当は喜びたいのを我慢しているのだろう。

 尻尾がシロと同じようにゆらゆら揺れている。

 獣人は尻尾に表れる感情を自分の意思では隠せない。

 コクの尻尾を見てお返しに鼻で笑ってやる。

 エンが抜けた理由はシロとコクしか知らない筈だがおそらくトーリも知っているだろう。

 癪に触るがエンが新天地で健やかな人生を送れるならそれでいい。

 あの人は過去に囚われている。

 助けに行くと言っていたあいつともそれきりで終わりにするって言ってたからきっと大丈夫――


「待って、あれ、あの帽子被ってるのって――」


 コクの制止する声が聞こえるがもうこの足を止める事ができなかった。

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