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No.1 平和ボケ

 店の中は客で賑わい、数週間前にこの場所で血が流れたなんて誰も気づきはしない。

 コーヒーを入れる為の湯が沸くのを待ちながら客の顔を見渡す。

 地元では考えられないほど穏やかで、悪く言えば平和ボケしてるような空気にようやく慣れてきた。


「そろそろ食事処の仕事には慣れた?」


 隣でフライパン片手にミルが問いかけてくる。

 今日の当番はミル、リル、レイ、そしてエンの四人。

 料理はミルとエンが担当している。

 実家暮らしで自炊らしい自炊はしてこなかったが気まぐれでたまに料理はしていた。

 味が売りではないこの店ではそれくらいの腕でいいらしい。


「ああ大分慣れたよ。客に顔を覚えてもらえるくらいには」


 沸いた湯でコーヒーを注ぎ、目の前のカウンターに座っている顔馴染みの客に渡す。

 最近では名前で呼ばれて挨拶される事もある。

 エンがヨザクラにいた事を知れば何人が今まで通りの態度で接してくるだろうか。

 たまにそんな事を考えるがもちろん言うつもりはないのでただの妄想に過ぎない。


「レイは?」


「あいつは料理はできないが接客には慣れたんだろう。見てみろ――」


 水切りしてあったコップを拭いていて手が使えないので顎で指し示す。

 ミルが指し示された方を見ればレイはさっきから一つのテーブルに居座っている。

 床に膝をつきテーブルに腕をついて楽しそうに話している。

 しばらくその場所から動くつもりは無いようだ。


「仕事の途中だっていうのにナンパばっかりしてる」


 ため息をつくとミルが苦笑いで応える。


「なら今度出張に行ってみるかい? ちょうどエン君に指名が入ってるんだよ」


「……」


 先程ミルが作っていた料理をテーブルに運び終わったリルがカウンターの中に入ってくる。

 もちろん出張とは隠語で、何でも屋の仕事の事を指している。

 リルの事は初めは何か裏があるんじゃないかと勘繰っていたがあまりにもボロが出ないので一先ず仕事仲間としては信じる事にした。


「そうだなぁ……初めてで一人だと心配だから、ミル君とフィー君、それとついでにレイ君も一緒にでどうかな」


「何でフィーもなんだ」


「まあまあ」


 明らかにはぐらかされた。

 こいつは何かと俺とフィーを一緒に居させたがる。

 もしかして知り合いと一緒にいた方が馴染めると気を配っているのか?

――こっちがどんな思いでフィーと一緒にいるかも知らずに。


「指名なの? 入ったばっかりなのに指名なんて珍しいね。もしかして知り合いかな?」


 その言葉に一瞬動きが止まる。

 頭にあいつらの事が思い浮かぶが、いやいやとかき消す。


「まさか、な……」


 依頼日は三日後、場所はピート地方だと夜の会議で知らされた。

 リルに何度も目で合図したが全部かわされ、変更なくフィーも一緒に行く事になった。

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