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たださみしかっただけ  作者: 朝月
三章 警察
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No.26 満ちたりた心の正体は

 後でたっぷり聞く、とは言われたが怒られるとは思わなかった。

 診療所に着くとソルが診察する時に座るいつもの椅子に座ったので、目の前の患者用の椅子に座る。

 するのハクが膝の上に乗ってきたので撫でながら「ヒガンの事だが」と言って前を向けば――もうすでに怒っていた。

 目が据わっている。

 それからヒガンのケイルの白い空間に入ってからの事を一から十まで説明して忌力を使った事を謝った。

 レイの薬で楽になっていたからもう大丈夫だと思って食事処に入ろうとしたのも怒られた。

 全部話終わり項垂れていると腕から血を流しているフォミが入ってきたので急いで席を譲り、近くにあるベッドに座る。

 ソルが傷の経緯を聞いたりしているのを聞いている内に体が少し怠くなってきた。

 そういえばレイも気休め程度だと言っていた事を思い出す。

 ソルの言っていた通り、あのまま食事処に行って動き回っていたら倒れていたかもしれないと、また項垂れる。

 そうこうしている間にソルのケイルは消え、筋肉が露出していたフォミの腕は綺麗に治っていた。


「ん、もう大丈夫よ。痛みも無いわ」


「自分で皮膚剥ぐなんて……とんでもないことするね」


 フォミの腕を取り、傷があった部分を触診する。


「ちょっと痛かったけどそうするしかなかったのよ」


「ちょっとな訳無いでしょ」


 ちゃんと治っている事が確認できたのかフォミ腕を離し、診察机の横にある収納棚からカルテを取り出し何かを書いている。

 あれほどの傷を痛くないと言えるフォミはとても強い人だと思う。

 痛くない振りは得意だが、そんなに平然としていられる程強くはない。

 フォミが羨ましい。


「んー、まあそれなりには痛かったかもしれないわ、治療ありがとう。リル君達の手伝いしないといけないから戻るわね。キルちゃんの治療してあげて」


 そう言いながら立ち上がり、キルに手を振りながら診療所を後にする。


「大人しそうな見た目の割にタフだよね」


 ソルがカルテを書き終わり、棚に戻す。


「はい、次はキルの番だよ。傷はもう全部治したけどまだ眼帯巻き直してなかったよね……もう怒ってないからそんな顔しないで」


 そこに座ったらまた怒られるんだろ、と言わんばかりに軽く睨みをきかせて断固として動こうとしなかったので、ソルが椅子から立って迎えに来る。


「……本当にもう怒ってないか?」


 自分が悪いのはわかってる。

 でも誰だって怒られるのはすきじゃない。


「怒りすぎたよ、ごめんね。ほらこっちに座って」


 申し訳なさそうに差し出された手にハクが飛び乗りそのままソルの肩に乗る。

 そして次はキルの番だと言っているかのように一鳴きする。

 謝らせてしまった事を申し訳なく思い、素直に手を取ると、そのまま椅子に誘導され、大人しく座る。

 ソルは手を離しキルの背後に回り込むと眼帯に手をかける。

 ゆっくりと包帯が解けていく。


「……今日ヒガンと昔の話をしてあの時の事も思い出したよ。ソルは覚えてるか? 俺が初めて眼帯を取った日の事」


「忘れる訳無いでしょ。部屋の外で待ってたらキルの叫び声が聞こえてきて、部屋に入ったら目を押さえてうずくまってたんだから。最初は僕のケイルでの治療が不完全で傷が痛いのかと思ったけど違った……PTSD、心的外傷後ストレス障害、簡単に言えばトラウマ」


 話している内に眼帯は取れ、右目が露わになる。

 縦に一本大きな傷が入っていて視力はないものの目を開ける事はできる。

 この傷は母によって作られたものでソルによって治されたもの。

 発現したばかりで使い勝手がわからず止血をするのが精一杯で傷が残った上に失明してしまった。

 それに関してソルはずっと悔やんでいるが、キルは全く気にしていない。

 むしろ眼帯を変える度に手間をかけてしまって申し訳なく思っている。


「眼帯を外して傷が表に出るとフラッシュバックが起きてパニックになるんだよな……初めてパニックになった時はお前が来てくれたら収まった。それから何回も試したけどやっぱりダメで……」


 その時の主治医が言うにはトラウマになる出来事が起きた時にソルのおかげで落ち着いたので、フラッシュバックの時も同様にソルがいると落ち着くのだろう、という事だった。


「今でもソルがいないと眼帯一つ変えられない、そもそも眼帯なんて傷的にはもう必要ないのに情けない話だ。しかも包帯じゃないと駄目なんて本当迷惑かけてばかりだな……」


 尻すぼみに小さくなっていく声も本当に情けない。

 今でも男でいないと拒絶される気がして男装もやめられない癖に、たまにこうやって弱々しくなってしまう時がある。

 何もかもが中途半端だ。

 包帯だって毎回ソルに巻いてもらわないとどうにもならないし――

 一つ悪い事を考え始めるとどんどん深みにはまっていく。

 そしてそれから引き上げてくれるのも、日頃から「キルの為に医者になった」と公言しているこの男。


「迷惑なんて思ってないよ。親友でしょ?」


 手際良く新しい包帯を用意しながら話すソルの顔は怒っていた時とは正反対の朗らかな表情。

 ソルは怒っていない時でも「あいつは何で怒ってるのか」と聞かれる事が多いが何で他の奴らにはそう見えるのか不思議でしょうがない。

 そして親友という言葉に心躍り、気分も上がる。


「ありがとな親友! だいすきだ!」


 満面の笑みで応えればソルも笑ってくれる。

 そして壊れ物を触るかのような優しい手つきで包帯を巻き始めようとする。

――今でも俺の事をすきだと言ってくれるのはソルだけだ。

 でもこうやって確認しないとたまに不安になる。

 桃源郷のみんなの事もだいすきだが、どう思われているかはわからない。

 嫌われてはいないと思うが言葉にしてもらわないとわからない。

 言葉にされれば信じるなんて単純かもしれないが、嘘か本当か見分ける術がないのだから相手を信じるしかない。

 後ろに立っているソルに体を預けて見上げれば頭に柔らかい感触、目線の先には見慣れた顔。

 本当なら「巻きにくいから前向いて」とか言われるんだろうが、ソルはそんな事言わない。

 笑いかければ、一瞬目線を外されるがすぐに目をあわれてくれる。

 顔が綻びそうになるのを我慢しているかのような焦っているような顔、キルが触れればたまにこんな顔をする。

 それに満足して再び前を向く。

 これだけのことなのに何故かとても満たされる。


 誰にも言ったことがないが男は怖いものだと思っていた時期もあった。

 母さんはいつも父さんに覆い被さられて苦しそうにしていた。

 たまに母さんが父さんに馬乗りになって暴れている時もあったが何故か苦しそうなのはいつも母さんだった。

――あれは何だったんだろう。

 知らない。

 キルは知らない事が多すぎる。

 知ろうとすれば何かが邪魔をする。

 でもその何かが何かもわからない、知らない。

――ただその度に右目が痛む事だけは確かだった。

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