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たださみしかっただけ  作者: 朝月
三章 警察
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No.24 ひねくれてなんかない

 先程までいた階層が楽しそうに騒いでいるのが聞こえる。

 ヒガンはと言うとまだ階段にいた。

 まだ一階分降っただけだ。

 よほどヒガンが重いらしい。

 いくら重いと言っても純血なら人一人抱えたままでも余裕で走れるだろうに、もしかして混血に対する嫌味なのか?

 少し不機嫌になりながら、気分転換に見えもしない上の階の事を想像する。

 きっとキルを囲んで男の二人が騒いでいるに違いない。

 想像して笑いそうになるのを我慢しているとシャークの方が口を開いた。


「……何でケイルを使った。お前の体はトートの力に耐えられない。おそらく忌力を使うたびに寿命が減っていってる」


 何を言われるのかと思えばやはり命令違反の事だった。

 さっきのでもう終わったと思っていたのにまだ怒られないといけないのか。

 自分の事は棚に上げてこの人は……


「すみません、どうしてもキルさ……あのトートと話がしたかったんです。それに自分の体の事は自分が一番よくわかっています。僕は少しくらい早く死ぬ事になっても怖くありませんし」


 こんな事を言っていたらキルは何て言うのだろうか。

 シャークのわざとらしいため息を聞きながら、死ぬなんて簡単と言いきったあの人の事を想う。


「そんな気の持ちようだったら一生『副長』にはなれないな。俺の寝首を掻くつもりなら少しでも長く生きろ」


 鳩が豆鉄砲を食ったようだった。

 もしかして気遣われているのではないかとヒガンの思考に戦慄が走る。

 いやまさかそんな事はないだろうと首を横に振る。

 自分の地位を奪おうとしている人に対して気遣いなんてする訳がない。


「言われなくても『副長』には絶対なってやります。僕を拾ってくれた礫さんとあの人に少しでも恩を返せるように」


「だったら生きろ。忌力を使うな、一つくらい上司()の言う事を聞け」


――生きろ、なんて。

 間違いない気遣われている。

 理由のわからない優しさは怖い、何か裏があるのではないかと思ってしまう。

 背中に悪寒が走って鳥肌が立ちそうだ。


「……わかりましたよ、忌力は極力使いませんー。それとシャークさんの仕事内容に僕への気遣いというものはありません、無理してそんな事言わなくていいです」


 そう言う他なかった。

 ヒガンとシャークの共通点と言えば礫達に拾われたということだけ。

 それなのにわかったような口を聞かれて挙げ句の果てには気遣われるなんて。

 逆に侮辱されているのかと勘ぐりそうになる。


「はぁーどうやったらそんなにひねくれた性格になるんだ」


 再びため息をする。

 そんなに僕が嫌いなら関わらなければいいのに。


「ひねくれてません。事実を言ったまでです」


「ひねくれ者はこのまま城まで担いで帰ってやる」


 そういうとヒガンの体を少し持ち上げ担ぎ直す。

 シャークは冗談を言うタイプではない。

 そしてトート、ましてや獣人の体力は侮れない。

 重かろうが何だろうがヒガンを城まで担いで帰る事は実現可能な話だ。

 サーっと血の気が引いて体中から冷や汗が出始める。

――本気だこの人。


「や、やめてください! 辱めもいいところです!! 下ろしてください!!」


 いつの間にか動くようになっていた足をバタつかせ、両手でシャークの背中を叩く。

 しかし軽くあしらわれる。


「二人とも遊んでないで、はよ去ぬよ」


 気づけば階段の終わりまで後数段。

 体を少し反れば数歩進んだ所に礫が立っているのが見える。

 手にはどこかに落としていたであろうシャークの制帽を持っている。


「ほら礫さんが呼んでるじゃないですか。早く下ろしてください」


「もう動けるのか」


「舐めないでください、もう動けます!」


 それを証明するように先程より激しく手足をバタつかせる。

 その様子を見てシャークは階段を降りきり、地面にヒガンを下ろす。

 すると跳ねるように走って行き礫の横に並ぶ。


「早くしないと置いて行っちゃいますよ」


 ベーっと舌を出し、一足先に歩き出すヒガン。

 礫はシャークに制帽を渡し、尻尾と瞳を指さす。


「尻尾早よしまって去のう。ヒガンが待ってんで。どっか寄って予備のコンタクトもつけへんといけないなぁ」


「ありがとうございます礫さん……はぁーまったく」


 シャークは本日何度目かわからないため息をしながら桃源郷を後にした。

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