No.21 眼前に広がるは赤
こんな事になってるとはさすがに資料に書いてある訳がない。
「で、キルさん達があそこでイチャついてる間にちゃっかり僕を捕縛してる貴方はもしかしてボッチですか?」
「それ皆が思ってるけど口に出しちゃいけない暗黙のルールなんだけどなぁ」
泣く演技をするレイは、キルと同時に出てきたヒガンを後ろ手で拘束していた。
起き上がった瞬間捕まるとは思ってもみなかった。
案外きちんとしてる人なんだなーと横目でレイを見る。
「何? 言っておくけどオレボッチじゃないからね?!」
「僕の思い違いでしたね」
「そうそう!」
話している内容が食い違っている事にレイが気付く余地はない。
すると縛り終わったのか、不意に腹に腕を回されて持ち上げられて小脇に抱えられる。
これはちょっとまずいので、満身創痍の身体で必死にジタバタするが気にもされていない。
「おーい! ヒガン! 勝負はついたんだ、わかってるよな?」
悟られないように焦っている所に遠くから声をかけられる。
キルも少ない忌力を使い果たして枯渇症になっているはずだ。
それなのに大声出せるなんてやっぱり純血のトートは違うなと、自分で自分を嘲笑う。
「はい、約束は守りま――グポッ」
「ッ?! おい!」
「えっ?!」
――ほらこれだから混血はダメだ。
口の中を通り越して鼻の中にまで血が広がる。
閉じようにも閉じられない口からボタボタと吐血する。
レイが驚いた声を出して急いで地面に下ろし縄を解くが、吐血は止まらない。
「……ごめん、オレがお腹押さえたからだよね。ほら、薬」
ケイルで薬を作ったのだろうが、錠剤の類は見当たらない。
その代わりに近づいてくる尻尾。
吐いているのだから口から飲めるわけが無い、だから直接注入しようという訳か。
しかしヒガンにとっては余計なお世話だった。
出来るだけ他人に借りは作りたくない。
「いいで、す――うぇッ」
落ち着いたと思って喋った瞬間もう一波来て地面を鮮血で濡らす。
しかしそれで終わったようで吐き気も収まった。
袖で口を拭い、やっと話せる状態になった。
この味は嫌いだ。
「――ふっ、ゲホッ……はぁ、そういうんじゃないんで気にしないでください。反動が一気にきただけなんで。なのであなたのケイルでもどうにもなりません、大人しくキルさんの隣に座っていればいいんですよ」
レイの尻尾を振り切り、近づこうとしていたソルを静止する。
純血のトートを三人映している瞳は赤に染まっていく。
その赤は、瞳に留まらず頬にまで伝っていく。
「血涙まで出るなんて今日はちょっと酷いですね……まあ別にいいんですけど」
幸い、血涙はすぐに止まった。
自分の血とはいえ、吐血した血がついた袖で目を拭くのは気持ちが悪い。
口を拭った袖とは反対の袖で両目を拭う。
しかしまだ視界は赤い。
まあ数分もすれば戻るだろう。
真っ赤に染まっている視界でもソルが早歩きで近づいてくるのは見える。
――あぁうざったい。
「だからあなたじゃどうにも――」
「ッヒガン!」
音も立てずに階段を上がってきたのか、突然怒鳴り声のようなものが耳を貫いた。
こんな状態では絶対に会いたくなかったのに。




