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たださみしかっただけ  作者: 朝月
三章 警察
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No.19 賭けとは呼べない

 キルは少し困り顔で一瞬口を噤むが話を続ける。


「お前もどこかで期待してるから俺に話しかけたんじゃないのか? ……助けが欲しくて」


「……」


 その問いにヒガンが答えることはない。

 キルはそれを微笑ましそうに見つめる。

 すると突然何かを閃いたように、手を打つ。


「そうだ! 立場上難しいかもしれないがまた喋りに来いよ。話し相手ぐらいにはなれる。うん、いい考えじゃないか?」


 ゆっくり一歩ずつヒガンに近づいていく。

 ヒガンもそれから逃げる様子はない。


「どうしてそこまでしてくれるんですか? 僕は貴方の仲間を連行しようとしてるのに」


「確かにミルの事連行しようとしてるのは頂けないが……少しでもお前の助けになりたい」


 本当はソルがしてくれたみたいに抱きしめてやりたい。

 だが初めて会ったその日にそれはさすがにやり過ぎだと思ったので言葉にするだけにしておく。


「どうしてもお前と昔の自分を重ねちまうんだよ。ここまで話しておいてほっとけねえんだ。俺に手を差し伸べさせてくれ。後はお前がこの手を取ってくれるだけだ」


「でも……」


 物理的にも差し出した手を取ろうとはしない。

 あるのは戸惑いと疑念だけのように見える。


「さっき、会ったばかりで何も知らないのになんでそんな事言うのかって言ったよな。じゃあ教えてくれよお前の事」


「……」


「あっ! じゃあ勝負して決めるか? 俺が勝ったらまた喋ろうぜ。俺が負けたら無理強いはしない」


 そう言い放った後に強引過ぎだったかと少し反省する。

 助けたい気持ちが先行してしまった。

 ヒガンは一時沈黙を貫いていたが突然刀を構えた。


「わかりました。勝敗は存在しない神様にでも任せるとします。だから僕も全力で行きますよ。じゃないともし負けた時僕自身踏ん切りがつかない」


 この空間に来る前と同じように強気な態度。

 今の強気な性格も、話してる間の弱気な性格もどちらも本物、嘘はない。


――この空間に来てからヒガンが時より咳くのはケイルを使った影響なのか。

 この勝負多分俺が勝つ。

 それはヒガンもわかっているだろう。

 神様なんて信じてないのにそのせいにしなければ自分が生きるための行動を正当化できない。

 それが俺たちなんだ。


「そうこなくちゃな! じゃあ俺も全力で……ソルには怒られるだろうが俺ももう大人だ少しくらい大丈夫だろう!」


 キルが両手を広げれば片手にハンマーが現れる。

 長さは一m程、頭の部分はキルの頭部より大きい。

 重さもそれなりにあるだろうが、キルは軽々と回している。

 不本意だが久しぶりの感触に少しだけ心躍っているようだ。


「僕もきっと礫さん達に怒られます。でもやっぱり貴方とは全力で戦いたい」


 そう言いながら微笑む顔は初めて見る。

 清々しく、やんちゃな子供のようだった。

 ヒガンの目は赤くなり、文字が浮かび上がる。

 二人同時に後ろに飛び退けば、ヒガンの周りの床から鎖がいくつも出現した。

 蛇のようにうねうねと意思を持っているように動いている。

 拘束だけではなく攻撃にも多少は使えるようだ。


「……いくぞ」


「ゲホッ……はい」


 ヒガンの返事を皮切りに同時に走り出す。

 ヒガンの刀とキルのハンマーがぶつかり合い、衝撃音が白い空間に響き渡った。

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