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たださみしかっただけ  作者: 朝月
一章 桃源郷
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No.4 帰路、知らず知らず不穏

 やっぱり車はあった方がいいんじゃないかな……


 奴隷販売店を潰したのはもう昨日の話、帰るのが予定より1日遅れてしまった。


「フォミ、昨日は楽しかった?」


 隣を歩いているフォミに話しかける。

 昨日忌力を大量に消費したからお疲れ気味だ。

 何か楽しい話題があった方がいい。


「楽しいというより疲れたわ。小規模だったとはいえ2人じゃちょっと大変だったわね」


「最後あんなに楽しそうにしてたのに……」


 ミルがあの子と仕事の話をしてたら大きな悲鳴が聞こえた。

 2人が急いで車に戻ったら穴という穴から体液を出して倒れているあのお兄さん。

 その傍らには嬉しそうなフォミ。

 何があったかは大体想像がつく。


「私はサディストじゃないわよ。絶望してる様子を見て楽しむとかそういう趣味はないわ」


 あんなに嬉しそうにしておいてそれはないだろうに。

 犠牲になったお兄さんも報われないねー。


「そんな事よりミルちゃん、あの捕まってた人との交渉が上手くいってよかったわ。彼女が条件を呑んでくれなかったら、元のレーベンの所に連れて行かないといけなかったもの」


 あの子を連れ戻して欲しいと依頼をしてきたのは、あの子を飼ってたレーベン。

 奴隷が盗まれたと騒いでいた。

 依頼されたからにはどんな仕事でもするのがミル達の仕事だけど、目の前で同族を地獄に連れ戻させる訳にはいかない。

 だからあの子と交渉した。


「うん。ちなみに、最初の依頼主より多く報酬を払うことを条件に奴隷からの解放を依頼してもらったよ。まあその依頼は建前だし本当に払ってくれなくてもいいでしょ? 元奴隷を助けてくれる施設も紹介したし、今頃着いてると思うよ」


「お店に苦情の通信きてるかしら」


 そう言って困った顔をするフォミに、昨日の夜リルに連絡したから上手く対処してくれるよと宥め、話題を変える。


「あの子、もう施設に着いたかな?」


「どこを紹介したの?」


「1番大きい所だよ。場所も近かったし。ついて行ってあげればよかったんだけど、ミルはあの場所に行っちゃ駄目だって言われてるし……」


「ああ……あそこね、わかったわ。リルくんが連絡してるだろうからミルちゃんは行かなくても大丈夫よ」


 そうこうしている内に関所に着く。

 関所はトートが地方を移動する時に申告をする場所。

 関所は警察の管轄、警察は国が管理してるからトート厳禁でレーベンのみで構成されている組織だ。

 警察の9割、いや9.5割は権力に溺れてやりたい放題、というか大体のレーベンはいつもトートを見下してて態度は最悪。

 今回はなにを言われるんだか……





 ここはレーベンが商売をしていた場所。

 確かにそうだった。

 昨日までは。


 比較的新しい建物で大きめの店だったはずが、ボヤの通報を受けて駆けつけてみれば廃屋と言われても誰も疑わないような姿に成り果てている。

 茶髪のポニーテールを揺らしながらヒガンは建物を見てまわる。


「確かここは精肉店だったよな……?」


 誰かが話しているのが聞こえたが、ここが精肉店では無かったことは知っている。

 まあ肉と言えば肉なんだけど。

 あの仕事は恨みを買う事もあるだろうが、ここまでできるのはトートしかいない。

 レーベンに逆らうなんてどんな奴なんだか。


「幸い死人は出ていませんが全員が精神に異常をきたしています。今すぐ事情を聞くのは難しいと思いますよ」


 建物内を一通り見て回り、部下から聞いた情報と自分で見た内容を照らし合わせる。

 そして建物外の瓦礫の上に腰掛けている男に報告する。

 黒髪を後ろで括り、おでこには赤い鉢巻を巻いている。

 生憎何かの資料に目を通している所だったが、軽く返事をしてくれる。


「おおきに。犯人について何も言ってへんかった?微かなことでもいいんやけど」


「うわ言ばかりで何も」


 犯人の手がかりはまるで無し。

 今日は怪我人の移送と現場の事後処理だけで帰ることになるだろう。

 まあ、言ってしまえば楽な仕事だった。


「では、ひとまず事後処理に取り掛かり――」


「礫さん、たった今通報が入りました。トートに暴行を受けたと」


 制帽の男が駆け寄ってくる。

 レーベンは大抵、黒髪、茶髪、金髪なのだがこの男はくすんだ黄緑色の髪色をしている。

 制帽を被っているが目立つものは目立つ。


「何ですかシャークさん。そんな案件僕たちがしなくても近くの警察が行けばいいじゃないですか。そもそもこの店のボヤ騒ぎだって本来は僕たちの仕事じゃないと言うのに」


 制帽の男、シャークに悪態をつくのはヒガンの日課だった。


「そういう訳にはいかない。礫さん、また桃源郷が関わっているようです」


 桃源郷。

 それはトーオン地方に3年前に開店した飲食店の店名。

 トートが開業し従業員もトートだけで構成されている。

 そして、黒い噂も流れている曰く付きの店でもある。


「桃源郷が関わっとる証拠はあんのん?」


 礫の目の色が変わる。

 糸目なので本当に変わったかどうかはわからないが、雰囲気が先程とは明らかに違う。


「いえ、被害者の証言だけで物証等は出ていません。証言も桃源郷に依頼をしたら殺されかけたの一点張りで詳しい事もわかりません」


「その人にもやましい事でもあるんじゃないですかー? それに確かに桃源郷は怪しい店ですけど証拠もないのに突入できませんよ」


 余計な仕事は増やしたくないというより、シャークの手柄にしたくないという思いの方が強い。

 礫の顔色を伺うといつもの猫口を崩して、にんまりと笑っていた。

 礫が話を聞いただけでこんな顔をするのは珍しい。


「それだけわかってたら十分やで。わいもええもん見つけたから」


 礫の手元には資料が1枚残っていた。

 よく見るとこの場所に繋がる道にある防犯カメラの記録の資料のようだった。


 どれだけの枚数があったと思ってるんですか……

 さすが礫さん、と感心しているとまたシャークが横槍を入れる。


「何か見つけたんですか」


 礫の片手には乗り捨ててあった車が写ってる防犯カメラの写真が記載してある資料。

 そしてもう片方の手にはいつの間に取り出したのか少し古い写真を持っている。

 ブレていて正確に写っていないが、被写体の顔の一部だけが微かにピントが合っている。


「わいらがずっと探してたもんやで。やっと尻尾を出してくれたわ。極秘指名手配犯『死にたがりの死神(コーニーアム)』」

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