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たださみしかっただけ  作者: 朝月
三章 警察
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No.13 何をもって普通と言うのか

 目を開けているのか閉じているのかさえわからなくなりそうな暗闇の中、体を拘束していた鎖が消えていく感覚がした。

 動けるようになった手で己が入っている箱をペタペタと触っていると、最後に閉まった板がバタンを音を立てて倒れた。

 突然の光に思わず目を瞑ってしまい、さらに片腕で目を覆う。

 その間にも左右、後ろからも板が倒れる音がした。

 全ての板が消えたのだろう。

 うっすら目を開けると目の前には白。

 ただ白かった。

 先程までの暗闇と余りにも正反対で目を慣らすのにも少し時間がかかる。


「ここは……」


「本来なら拘束ではどうにもならない人を一時的に監禁しておく場所です」


 後ろからヒガンの声がした。

 やっと慣れてきた目を開き、瞬時に声の聞こえた方向へ振り返り拳を構える。


「そんなに構えないでくださいよ。今は貴方と少し話がしたくて……本当にそれだけです」


 目を逸らしながら片手だけ腕を組んでいる。

 先程までの威勢の良さはどこへ行ってしまったのかと思うほど潮らしいその様子を見ていると思わずこちらも戦意を喪失してしまう。


「……」


 拳を下ろし相手の出方を伺う。

 この空間にいる内はミルを探す事はできないし、話すだけと言うのが本当なら無意な争いはしたくない。


「ありがとうございます。それでは――失礼を承知で聞きますがあなたは男性の格好をしていますが、本当は身も心も女性で間違いありませんよね? 何故男性の格好をしているのですか?」


「……答えたら本当に帰してくれるんだろうな」


「はいもちろんです。僕にはもう戦う体力も忌力も残っていませんから……」


 質問の意図も何もわからない。

 少し怪訝な話し方をすればシュンと弱った子犬のような態度で答える目の前の少年はキルの性別を知っていた。

 まあミルが隠し通していた事を知っていたのだから桃源郷に在籍している従業員の基本的な事は全て調べて来ているのだろう。

 あまり話したくない事だがここから出るためには仕方がない。

 キルは深く深呼吸をして話し始める。


「……きっかけは子供の頃に母親に言われたからだ。男だったら可愛がってやったのにって……まあその母親は――」


 言葉につまり、拳を握りしめたり目を瞑ったりするが何をしようと過去は変わらない。

 意を決して話を進める。


「――俺が殺した。きっかけはどうあれ今も男装を辞めないのは結局俺の気の持ちようだ」


 再び蘇るあの時の記憶。

 フラッシュバックと相違ないそれを俯いて噛み締める。

 一生忘れることのない、忘れてはいけない俺の罪。


「貴方が殺したのではないでしょう? 事故死だと、そう記録されています」


 血が滲み出しそうなほど握りしめて震えていた拳が静止する。

 ヒガンの方を見ると不思議そうに小首を傾げており他意は一切感じない。

 細かい内容は記録されていないのだろう。


「事故じゃない俺が殺したんだ」


「そうですか。ならそう言う事にしておきます。貴方が男性の格好をしている理由はわかりました」


「ならここから出し――」


「もう少し質問してもいいですか」


「まさかミルを連行する為の時間稼ぎじゃないよな?」


 聞かれるのは一つだと思い込んでいたのがいけなかった。

 思い返してみればヒガンは質問がいくつかを明言していない。

 万が一これが罠でここから出たらみんなあのもう一人の警察にやられていたら……


「ち、違います! 何度も言っていますが僕は本当に貴方と話がしたいだけなんです」


「……わかった。遮って悪かったな」


 最優先すべき事を見誤るな。

 動揺するな、冷静になれ。

 罠かどうかはこの際関係ない。

 どちらにしろ話が終わらなければ出られないなら、話の内容から相手の情報を抜き取れ。

 自分のすべき事を明確にしろ。

――また俺のせいで大切な人が死ぬのは嫌なんだ。

 弱いままではいられない。


「……貴方は普通じゃない自分をどう思いますか?」

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