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たださみしかっただけ  作者: 朝月
三章 警察
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No.12 遠い地面に夢を見る

 高所ならではの風の冷たさが体を駆け抜けていく。

 下を見れば地面は遠く、間違って落ちてしまったら大体の人は命を落としてしまうだろう。

 屋根に腹這いに横たわっているのでちょっと転がれば間違いなく落ちる。

 そんな考えを振り解くように前を見れば、あぐらをかいて座っている礫の足が目の前にある。

 この光景も中々見続けたい物ではない。

 また視線を遠い地面に向ける。

――あんまり時間は経ってないけど、皆はどうしてるかな……

 ここに登る時、ミルの体は何の迷いもなく最上階の窓から屋根に向かって投げられ、礫も逆上がりの要領で窓枠を使って当たり前のような顔でここに上がって来た。

 レーベンであんなに動ける人は多分見た事ない。

 そして隣に座ったと思ったら一言も話さないまま風の音だけが鼓膜に響く。


「ッ!」


 一瞬血の匂いがした。

 風のせいで誰の血かまではわからなかったが犬型の鼻は本物の犬にこそ劣るが通常型の鼻には勝る。


――逃げ出そう。


 そう考えた瞬間、礫が久しぶりに口を開く。


「なぁ、これくらいの幻力石やったら何の問題もなく動けるんやろ?」


「いやいやまさか。今喋るのもしんどいよ」


 建物内の様子を探ろうを下に向けていた目を礫の足に向ける。


「わいだけはあんたの事情全部知ってんで。せやから隠さんでもええよ」


 ミルは目を見開き、精一杯首を上げて礫の顔を見る。

 奥歯がギリッと音を立てる。

 本当はわかっていた、異名を知っていて昔の事を知らない訳がない。

 しかし、わかっていたとしてもそれはミルにとって一番聞きたくない言葉だった。

 焦点の合わないような目で少しの間礫を見つめ、突然屋根に額を勢いよく打ちつける。

 そしてその体勢のまま話し始める。

 ため息混じりの低い声。


「……はぁ、そうなんだ。それでどうするつもり? もしかして皆にバラしてここにいられなくしてから連行する作戦? 的確すぎて笑っちゃうよ、そんなことになったら連れて行かれる前にどこか遠くに行って自害する」


「そんなんするつもりはあらへんよ。もちろんバラすつもりも。今は正式な勝負やからね、負けたら大人しく去ぬよ」


 おふざけ無しに真剣に話しているのが伝わらなかったのか、礫は笑いながら答える。

 少し拍子抜けした。

 ミルの事を知っててそんな態度を取られるのは何年振りだろうか。

 呆気に取られて無意識に苦笑いをしてしまう。


「本当何が目的なんだか……知ってるかも知れないけど、他の皆もここに来るまでに何もなかったわけじゃないんだよね。だからミルからしたら決着はもう目に見えてるんだけど」


「それに関して言えばウチも似たり寄ったりやから――シャークはトートの虎型やねん。トートを嫌って殺す為に種族隠して警察に席を置いとる。ヒガンは本来生まれるはずのないトートとレーベンの混血。世の中の全部を呪っとる。二人とも真っ当な生き方を知らんかったからわいが拾って、側に置いとる」


 ミルが目を見開く、生い立ちとか種族にも多少は驚くが、もはやそういう次元の話じゃない。

 新種と混血なんて――そんな気軽に話すような内容では無い。

 礫の顔を見てもジッと見ても涼しい顔で自分の子供の事を話すように笑顔を崩さない。

 まるで二人の出生も生い立ちも何も気に留めてもいないように。


「それって」


――ミル達と一緒じゃ。


 ミルが言葉の続きを言葉に出す前に礫が突然立ち上がり振り返る。


「話しすぎたみたいやね。もう見つかったで」


 警察の上層部が常備してる刀を嬉しそうに構える。

 そういえばこの人は表情が全然変わらないな。

 ずっとこの笑顔……微笑み顔?

 とにかく表情が変わらない。


 そんな事をぼんやりと思いながら屋根に上がって来た三人目の方を見つめる。

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