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たださみしかっただけ  作者: 朝月
三章 警察
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No.9 右目

 尻尾を抱きしめて涙目のレイを置いてソルがヒガンを追撃する。

 ヒガンが防戦一方になるように、攻撃が止ませる事なくソルが攻撃する。

 ヒガンが距離を取ろうとすればレイが尻尾で刺そうとし、さらにそれを避ければキルが攻撃する。

 しめたと思ってキルに斬りかかるとソルに止められる。

 お互いに決定打が無いまま誰も手を止めない。

 こんなに戦えるレーベンは初めてだ。


「そういえば三対一なんて酷いんじゃないですか?」


 痺れを切らして先に仕掛けてきたのはヒガン。


「悪いな。こっちも人質取られて必死なんだ」


「そうです――かッ!」


 ソルと武器を交えているにも関わらず、強引にキルに刀を向ける。

 その刀はレイが止め、ソルとキルは一旦ヒガンから距離を取る。

 避けるのは容易いが、ここまで執拗に狙われるのは想定外だ。

――どうする? いざとなったら固有武器出すか?


「キル」


 眉間に皺を寄せてこれからどうするかを考えていると、ソルに名前を呼ばれてハッとする。


「固有武器出そうとか考えてるんじゃないよね?」


「う……」


 図星を突かれて目を逸らす。

 何でソルにはバレてしまうのだろうか。

 視線が痛い。


「なになに? 何の話?」


 いつの間にかレイが目の前に来ていた。

 武器を後ろ手で構えていて、その武器はヒガンの刀と交わっている。

 音を立てながら攻防戦を繰り広げているとは思えないくらいレイの顔はにこやかだ。

 もしかしてレイって普通に強いのか?


「戦いの最中にお喋りなんて余裕ですね」


 ヒガンは少し汗をかいていて、先程から肩で息をしている。


「いやいや全然余裕じゃないよ。今だってなかなか勝てないっていう演技で忙しいんだから」


 そう言ってヒガンの方に振り返るレイの顔はキルからは見えないが優しいものではないだろう。


「はぁ? それはどういう意味で……ッまさか!」


 ヒガンは突然口を押さえて距離を取る。

 刀を杖代わりに床に片膝を突き、レイを睨みつける。


「やっと気がついた? 気づかれないようにちょっとずつ撒くの大変なんだよねぇ」


 レイのケイルはずっと浮かび上がっていた。

 尻尾での攻撃はケイルを浮かび上がらせている事を不審がられないようにする為のカモフラージュ。

 実はレイが最初に尻尾と翼をバタつかせた時から薬を撒き始めていた。

 おそらくこの階はすでにレイが散布した薬で充満しているだろう。


「予定より遅いじゃない」


 ヒガンに薬が効いている事を遠目で確認しているレイにソルが問いかける。

 しかしレイは突然振り返り、ソルの質問に答える事なく別の質問を問いかける。


「ねえねえそれよりさっきから気になってたけど何で固有武器出しちゃダメなの?」


「話聞いてるの? それに何でもないって」


「……いや、今後共闘する時の為に知っておいてもらった方がいい」


 怪訝そうな顔でレイを突き放そうとするが、新しく入ったレイとエン以外には周知の事実だ。

 今ここで話さない道理はない。


「俺は忌力がほとんど無いんだ。固有武器一つ出すだけで枯渇して倒れる。修行して忌力が増えてくれるならいいんだが、総忌力量は生まれた時に決まってるからな……」


「敵前でそんな事言っていいんですか?」


 ヒガンがよろけながらも杖代わりにしている刀に支えられながら立ち上がる。


「あれぇー? レーベンが吸ったら気絶するように作ったはずなんだけど……濃度が薄かった?」


 レイがソルに怒られている。

 捕縛もしてないのに話をしていた俺たちも悪いんだからそんなに怒らなくてもいいじゃないか……

 止めに入ろうとしたが、二人の口論はヒガンに遮られる。


「情けないことに多少は効いてますよ、立ってるだけで精一杯です。降参……と言いたいところですがここに来る前、資料を見てから貴方に少し興味があったんです。先ほどの話が本当ならばさらに興味が湧きました。キルさん」


――俺に用……?

 一体何の用があるというのだろうか。

 ヒガンと会ったのは今日が初めてのはずだ。

 最近は警察に目をつけられるようなこともしてない。

……昔の事なら、もし昔の事なら俺も話が聞きたい。


 グッと体が重くなる。

 昔の事を少しでも考えるとタイムスリップしたかのような感覚に襲われる。

 網膜に焼き付いているのではないかと言う程鮮明に思い出せる。

 慣れ親しんだ血の匂い。

 大切なあの子の泣き声。

 そして大切だったあの人の亡骸。

 いつからか呼吸が乱れているのに気がつき、右目を眼帯越しに押さえる。


 ヒガンがこちらに向かって歩いてこようとする。

 気絶してないにしろ薬はかなり効いているようで先程までの俊敏さは全くない。

 歩みの遅いヒガンがこちらに辿り着くのを待たずにソルの方から近づいていく。


「だからなに? はぁ、何でこうもキルには変な輩が集まってくるんだろうね」


「僕にとっては大事な事なんですよ。でも戦う力はもう残ってないんで……『死にたがりの死神(コーニーアム)』とは別の、もう一つの僕の個人的な目的……どうしても話がしたいんです。わかってもらおうとは思ってないので強行突破させていただきます。礫さん達から禁止されてますが……まあどうせシャークさんもバラしてるでしょうし」


 覇気のない、か細い声でヒガンは話を続ける。

 肩で息をしていて苦しそうだが話はできる状態のようだ。

 そして次にヒガンの口から出てきた言葉は誰しもが耳を疑う言葉だった。


「僕はトートとレーベンの混血です」


 そしてヒガンの右目は『拘』という文字を浮かび上がらせ赤くなる。


――右目の下に紋章はない。

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