No.7 鉄の匂いと猫と刀
エンとフィーが顔を見合わせ、両手に固有武器を出す。
「その帽子の女がカンフル剤なら先に仕留めればお前の負けは確定するって事か」
「させる訳ないだろ」
二人はシャークを挟み撃ちにする。
避けられないように武器を二つ出して両手に持ち、攻撃範囲を伸ばしているがガラ空きの空中へとシャークは跳び、避ける。
想定より身体能力が高い。
そして少し距離を取ったかと思うとこちらを横目で見ている。
万全な状態の二人より弱っているフォミを攻撃するのは当たり前。
早くこれを剥がさないと。
剥がそうとする指により一層力が入る。
皮膚が傷つき血が滲み出すがそんな事は関係ない。
「そこの。外そうとしても無駄だ。専用の液体がないと剥がせないようになっている。無理に引き剥がすと皮膚も一緒に剥がれるぞ」
これは想定外だった。
どうやら幻力石が引っ付いている箇所の周りから血が滲み出しているフォミへの忠告の為に距離を取ったようだ。
しかし血が出だしたのはたった今の出来事で、あまりに気づくのが早すぎる。
――でもだめね、忠告で剥がす方法を教えちゃうなんて。
「あら、剥がそうと思えば剥がれるのね。なら良かったわ」
剥がすべきは幻力石ではなく皮膚。
皮膚が剥げれば自ずと幻力石も剥がれるということだ。
磁石みたいに身体自体に引っ付いているなら皮膚ごと剥がそうにも無理だっただろうし、ただ接着しているだけならもっと早くそうしておけばよかった。
「……正気か?」
「もちろん正気よ? 何かおかしいかしら?」
血がボタボタと床に落ちる。
あともう少し。
「どうなってんだ、この店は」
「何がおかしいの? フォミの事馬鹿にしないで」
無表情ながら少し怒ったような口調で話すフィーがシャークに向かって行き、勢いそのままに上段から攻撃を仕掛けるが、やはり刀で防がれてしまう。
反対の手でガラ空きの身体目掛けて追撃するが手を蹴り飛ばされ、固有武器が手の届かない所まで飛んでいってしまう。
フィーと攻防戦を繰り広げているにも関わらずシャークは鼻で笑う。
「フンッ変な奴らだ。ヤクザだの悪魔型だの気にしないのも頷ける」
「ええそうよ、仲間になった時点で私は私の命より皆の方が大切だもの」
少し離れていてもボタッ、と音が聞こえるのではないかと思うほど一気に血が落ちる。
そして地面に音を立てて落ちたのは血だけではなく幻力石も。
より一層濃い鉄の匂いが食事処に充満する。
鼻の効く獣人にこの匂いは濃過ぎる。
血は流れ続ける。
「取れたわよ……この匂いちゃんと取れるのかしら」
シャークの意識が一瞬フォミへ向く。
その瞬間、エンがシャークの懐に入り込む。
シャークが気づいた時にはすでに遅く、刀を上へ弾かれる。
そして刀が飛んでくるのをわかっていたかのように、あらかじめジャンプしていたフィーが空中で刀をキャッチする。
「さっきのお返しよ」
地面に着地すると刀を真っ二つに折り、壁際に投げつける。
エンはいつの間にかフィーの横に戻っていた。
先程までとは明らかに動きが違う。
……エンくんもしかして私の血の匂いに酔ったのかしら。
流血していない方の手に固有武器を出し、構える。
「丸腰ね。またさっきの幻力石を投げてみる?」
シャークは見定めるように私達を一人ずつ順番に見て、最後にフィーによって折られた刀に目をやる。
そして大きなため息を吐き、制帽越しに頭をかく。
「はぁ……礫さんこうなる事わかっててこの勝負考えたな……はぁ、あの人はたまに何考えてるかわからない所がある……」
「降参する?」
「いや」
フィーの情けを無下にするように即答される。
そして制服に手を入れ何かを探っている。
出てきた手には先程までフォミの腕に張り付いていた幻力石が10本ほど握られていた。
――投げられる。
飛んでくる幻力石に対処するべく片手で辿々しく固有武器を振り上げる。
正直片手で大鎌を振り回すのは難しい。
どうするか。
悟られぬように焦りを感じているフォミを他所にシャークの行動は予想に反していた。
幻力石を全てフォミ達とは真反対、壁際へと投げ捨てた。
「どういうつもりだ」
「本気で戦う。今まで処分対象とやり合う時にしか見せた事がない。つまり知られたらまずい――他言するなよ」
そう言い放つと制帽を取り、右目の下の絆創膏を剥がす。
全員が自分の目を疑った。
――まさか、じゃあなんであなたは私達と戦っているの?
出てきたのは見た事のない形の獣耳、いつの間にかズボンからも長い尻尾が出てきている。
絆創膏の下にはケイルの紋章。
驚愕に身動きが取れずにいたフォミ達を無視し、刀――固有武器を出す。
フィーが折った刀は紛れもなく普通の刀だったが今度は違う。
「俺はトート、獣人虎型だ」




