No.23 将来はバカップル
どうしよう、ブラック企業だったかもしれない。
そう思いながらレイは元いたテーブルに戻ろうとしたが、エンが先に戻っていて何やら話している。
歩みを遅めて聞き耳を立てるとどうやら前職――つまりヤクザとやらの仕事内容について聞かれているようだった。
さっきのボス野良猫のような雰囲気はどこへ行ったのか焦った様子で答えているので面白い。
やっぱり好きな子の前だと皆そうなるものなんだね。
その空気を壊すのも忍びないので、もう一つのテーブルの方に足を向ける。
もう一つのテーブルはあのグラビア級の女の子がいる席。
どうしてもあわよくばを期待してしまう。
視線をエン達から外して振り返れば狭い店内もう視界に映る。
「……なにその状況」
呆れた目でその状況を見つめる。
「あっち行って」
「やだ」
リルの長話を聞く前までは二つの椅子が使われていたはずなのに今使われている椅子は一つで、もう一つの席には誰も座っていない。
キルが座っているのはソルの膝の上だった。
まるで背もたれに体を預けているかのようにソルに横座りしている。
さっきまで元気に輝いていたはずの目も今は閉じられている。
頬もほんのり赤くなり少し汗ばんだ様子は非常に色っぽい。
「やっぱりキルちゃんと付き合ってたの? あんなに怒ってたもんねー。まあオレは寝取るのも全然ウェルカムだけどね!」
そう言いながらキルが最初に座っていた席に座る。
横を見ればぼんやりしてるキルの顔が拝める素晴らしい席だ。
「そういうのじゃないよ。それにキルは男って事になってるんだから従業員の前以外で女の子扱いしないでよね」
「へぇ、万年片思い決定してるとか可哀想……」
わざとらしくハの字眉毛で覗き込むと視線を逸らされる。
「うるさい、それに酔ってるからこんな感じなだけ。お酒弱いのに飲むから。シラフだったらこんな事もうないから」
話終わるにつれ声が小さくなっていく。
――何かあったなこの二人。
勝手な想像を膨らませニヤつく。
「……レイ?」
話と想像に夢中になっているといつの間にかキルの目は少し開いており目の前にいたレイの名を呼ぶ。
「起きたの?」
「……ん」
ソルにもたれたまま空返事をする。
「キルちゃんおはよう、こんばんはかな? すぐ酔っちゃうんだね、顔赤いけど大丈夫? オレが介抱してあげようか?」
「酔ってない……ちょっと苦しい」
それで睨みつけているつもりだろうか。
この子は放っておいたらすぐに連れて行かれそう、とレイが心配するほど無防備だ。
苦しい、暑い、と呟き出したかと思うと服のチャックを下ろし始める。
本当、無防備で危ない子。
まあ止めないけど。
満面の笑みで時が経つのを待っているレイ。
その顔を机の下から飛び出てきた何かが突撃する。
――目の前が白い。
この白い生き物の事を忘れていた。
「こら脱がないの。それ取ってあげるから」
それとはどれだ。
取るとはなんだ。
そんなの一つしかないだろう。
あの巨乳をさらし無しのノーブラで見れる。
白い生き物、確かハクといったか。
ハクを顔から引き剥がし、また邪魔されないように両腕で抱き抱える。
ジタバタしてるが我慢してもらおう。
「オレがやってあげようか!」
前のめりにキルに問うと、ん、と返事が聞こえた。
心の中でガッツポーズを決め、ハクをどこに置いておこうか悩む。
まあそれより飼い主の方が厄介だが。
「それ以上ふざけると刺すよ」
「いいじゃん、減るものじゃないし! 絶対見たりしないから! ほらキルちゃんおいで」
「キルの自尊心が減るから」
「……もう寝る」
ソルとの口論がうるさかったのか眉間に皺を寄せ、眠そうに目を擦る。
「ほらもう寝るって」
「眠いならしょうがないね、おやすみキルちゃん」
優しく頭を撫でるとキルは目を瞑る。
昼間戦った時は男勝りでイケメンだったのに今は幼子のような仕草をしていてとても可愛らしい。
「本当、触らないで欲しい」
「……ソル」
「あ、ごめんごめん苦しかったね」
そういうとソルは辺りを注意深く見渡し、レイの方をジッと見つめる。
レイを見ていた視線を一瞬下に移したと思ったらまた視界が真っ白になる。
ふわふわする。
ハクが再びレイの顔に飛びついた。
ソルが目配せで合図したんだろう。
今度は引き剥がそうにも爪を立てて抵抗するので諦めた。
顔が引っ掻き傷まみれになったらたまったもんじゃない。
しばらくするとハクは退き、突然明るくなった視界に目がシパシパする。
「じゃあ部屋戻ろうか」
いつの間にかソルがキルを抱え立ち上がってた。
横抱き、俗に言うお姫様抱っこ。
さらしだと思われるものが垂れている所を見ると、ハクが顔に張り付いている間に外したのだろう。
「眠い」
「すぐ着くからもうちょっと待ってね」
キルの方を向いていた視線を少しだけレイに向け、じゃあね、と言ってから歩き出す所を見るとフォミの言うことを聞いて仲間という認識はしてくれているようで安心した。
それにしてもキルは鍛えているだろうし昼間運んだ時もお世辞にも軽くはなかった。
それをいとも簡単に抱き抱えている所、戦える系のヒーラーか。
昼間も斬りかかってきた時の事を思い出す。
それにしても片想いなの否定しないし独占欲丸出しだし、見ていて面白い。
本当に寝とってやろうか。
桃源郷の出入り口に向かっていく二人と一匹を見送りながらそんな事を考える。




