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たださみしかっただけ  作者: 朝月
二章 レイ
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No.18 難しいことはわかんないけど

 フォミがリルの元へ戻っていくので足が自然とついていく。

 何が起こったのかもわからないし、なんで合格なのかもわからない。

 歩きながらフォミに疑問を投げかける。


「今オレ何かされた? それに不合格でも入れてくれるって話じゃなかったっけ?」


「不合格でも入れるわよ。でも『去る者は追わず』とも言ったでしょ? 不合格者は面接で逃げていくわ。たまに逃げない人もいるけど、そういう人も数日ここにいればすぐに辞めてしまうの」


「どういうこと?」


「私のケイルは知ってるわよね?」


「奇襲するために下調べしたから知ってるよ――」


 その事を思い出してから数秒、頭がフリーズする。

――記憶を覗けるケイル。

 レイが1番警戒していたケイルだった。

 発動条件は目を合わせる事、さらに言えば触れる事。

 先程までの自分の行いを悔やむ。


「もしかして記憶見られた?」


「ええ、見させてもらったわ」


「……プライバシーの侵害」


 フォミがリルの横に立ち、自然とレイの立ち位置は全員の注目を浴びる場所となる。

 少し俯き、恨めしそうながらも控えめにフォミを上目遣いで見る。


「それが決まりなの、ごめんなさいね。ここに就職希望の人って結構な確率で適当なの。楽そうだからとか出会い目的とかね。そういう人は私のケイルで嫌な記憶を体感させて勝手に出て行ってもらうのが1番手っ取り早いのよ。これに耐えるのが試験だったって言えば後で何言われても大丈夫だしね。レイくんももし不合格だったら外に出た瞬間私のケイルで嫌な思いをしてもらう所だったわ」


 食事処を出る必要が無いから出る前に引き返したのか。

 外で過去を追体験させられでもしたら文字通り飛んで逃げてただろう。

 昼間はソルが1番怖かったが、今はフォミが1番怖い。

 そう思いながら苦笑いをするが一つ気になる事があった。

 これを聞いたら就職の話は白紙に戻るだろうか?

 でももしそうなら遅かれ早かれ追い出されるだろう。

 だったら早めの方がいい。


「でもそんなこと言ったらオレも結構適当じゃん? 行くとこ無いってだけでさ。しかも元々ここを襲撃した奴だよ? なんで合格なの?」


 ずっと気になっていた事でもある。

 追い返されるのを覚悟で戻ってきたのに、普通に店に入れてくれる事。

 ミルとフィーの困ったような態度は昼間は敵だったからかと思ってたが、合格と言われてもその態度は相変わらず。

 ただ単に困ってただけだった様だ。

 極め付けは他の就職希望者と同じ方法での面接。

 レイが言えた義理ではないが、もう少し警戒心持った方がいいのではないのか。


「……言い方が悪かったわね。普通のお店や会社だったら理由も大事かもしれないけどね、桃源郷で一番大事なのはその人がどういう人生を歩んできたか。ここにいるのは人に話せない事があったり、悲しい目にあってたりする人たちばかり……そして皆何か欠けてる物があるの、もちろん私も」


「へぇ、じゃあオレは欠けてるって判断された訳?」


「気に障ったかしら? でも言ってみれば『欠けてる』のが就職の条件よ。そうね……人間を球に例えて完璧な球体、つまり完璧な人間は居ないって言うじゃない? それに則って言えば皆でこぼこで何処か欠けてる。そう言われてしまえば誰だって条件に当てはまる事になるわね。でもでこぼこでは収まらないくらい大きくて深い穴が空いてる人がいるの。それが私達よ。私が見定めてるのはただのでこぼこなのか、大きな穴なのかって所だけ。本当は就職理由はなんだっていいのよ。もちろん立場もね。私が欠けてるって判断したなら関係ないわ」


 首を捻り少し考えるが、フォミの言っていることはレイには難しくて全ては把握できなかった。

 しかしその話ぶりからレイが最初から懸念していた元々敵という部分は全くもって関係ないらしい。

 それがここではあまり前の様だった。

 フォミの言葉を借りて言えば、ここでは『欠けてない』のが異端で『欠けている』のが普通なのだろう。

 普通の人はそこになんとも言えぬ気持ち悪さを覚えるのだろうが、レイは特別何も感じず、最後の疑問を投げかける。


「オレには難しい話だったけど、心当たりがない訳じゃないし。入れてくれるならいいや。ところでフォミちゃんはオレの記憶どこまで見たの?」


「どこまで……と言えるほど見てないわ。そうね……わかりやすく言うと太い漫画本をパラパラマンガにして読む様な感じかしら。誰にでも知られたくないことはあるでしょ? だから細かい所は見ない様にしてるの」


「フォミ君はそれで合格なのか不合格なのかを感じ取れるんだよ。だから面接官はいつもフォミ君にやってもらってるんだ。だから僕たちはソル君と悪魔型との関係も知らなかったし、悪魔型の存在さえ知らなかった。その事が記憶を侵害してない事の証明にならないかい?」


 言われてみれば確かにそうだ。

 もしフォミが嘘をついて記憶を隅から隅まで覗き見しているならソルの面接をした時に悪魔型の事を知ったはすだ。

 しかしレイが正体を明かした時の反応に嘘がある様には見えず、それが確かな証明になっていた。


「確かにそうだね。フォミちゃん可愛いから信じるよ」


 にこやかに笑って見せたつもりが、フォミからの視線は冷たい。

 いつもの手が通じない。

 確かに変なところだね、桃源郷は。


 そんな丸く収まりそうな雰囲気を出し始めた時、食事処の扉が大きな音を立てて勢いよく開く。

 全員が一斉に扉の方に視線を送る。

 扉を開けた人物は胸程までの短いローブを羽織っており、フードは深く被っていた為顔は見えない。

 しかし下半身からは黒くて長い尻尾が生えており猫型だと言う事はわかる。

 そして、ここを襲ったレイだからわかるのだろうが、全員が相手に悟られぬ様に戦闘態勢に入っている。

 ここの人達、奇襲され慣れてる……

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