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たださみしかっただけ  作者: 朝月
二章 レイ
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No.15 それは狂おしいほどに

 ハクを肩に乗せて気軽にドアを開けたミル。

 心配そうにしていた顔はみるみる青ざめていく。

 ハクがソルが起きている事に気づき、ミルの肩から飛び降りたが空中でキャッチされる。

 驚いて手の主を見るハクにミルは無言で素早く首を横に振る。

 そしてそのままハクを腕に抱き、無言でドアを閉めようとする。


「待て!」


 キルがミルの方に手を伸ばして止めようとするが到底届く訳なく、伸ばした手は着地点につけず迷子になる。

 その声を無視できないのもミルで、ドアが完全に閉まる数センチ前で閉めるのをやめ、ドアの向こうから返事をする。


「いや、ほんとごめん。ノックするべきだったね。じゃあミル達降りるから……えっと、ごゆっくり……?」


「待てって!俺はただスト――」


「どう思った?」


 ソルが二人の会話に口を挟み、それに驚いたミルの声が聞こえる。

 ソルが怒ってると思っていたのだろう。


「どうって、え……今からでしょ?」


 やっぱり勘違いをしていた。

 まあこの状態を見て勘違いしないような純粋な人は少なくともここにはキル以外いないだろう。


「はずれ、何もしてないよ。ミルの開けるタイミングが悪かっただけ」


「そうなの……?」


「何が今からなんだ? もう終わっただろ?」


「ッ! ごめんなさい……」


 開きかけたドアが元の位置に戻る。

 ソルがため息をつき、キルにちゃんと主語をつけるように注意する。

 勘違いされて困るのは性別を隠して生活してるキルの方だ。


「話が、終わったんだよ。この話ももう終わりにしよう。連絡あるんでしょ、僕も降りるから」


「違ったんだ……びっくりしたぁ」


 そう言ってドアを開けるミルの冷や汗が見える。

 ハクが今度こそ飛び降り一鳴きしてソルの足元にピッタリくっつく。


「ハクも返したし、ミル先に降りてるね。ソルは倒れたんだから無理せずゆっくり来てね」


 そう言い軽く手を振ってミルは立ち去る。

 そこで倒れたという事を思い出す。

 それにしては体に異常はない上に忌力もおそらく全回復している。

 こんなに早く回復するのはおかしいが悪魔型絡みだからこちらの常識では説明がつかないのかも知れない。


「ソル」


「なに――」


 後ろから凛とした声がソルを呼ぶ。

 ソルは応えるべく振り返ろうとしたが出来なかった。

 後ろからの衝撃で前に倒れそうになるのを持ち堪える。

 間髪入れずに背中を包み込む感触、それと体温。

 下に目線をやると見慣れた腕が2本腹部にあった。

 そして首筋に感じられる髪の感触。

 愛しいあの子の匂い。


 その時間は数秒だったが、ソルには何倍にも感じられた。

 熱が背中から離れる。

 名残惜しくて思わず取り戻そうとするが、熱の持ち主はソルを追い越し、廊下に出る。


「最初で最後だからな!」


 そんな捨て台詞を吐いて消えた。

 一瞬こちらを向いた顔の頬は赤みがさしていた気がした。

 そして残った熱は消え、残ったのは廊下を走っていく音だけだった。


「なにそれ……ずるい……」


 ピャー


 軽くドアにもたれかかる。

 心配そうに鳴くハクの声に答えられないくらい気が動転してる。

――顔が熱い、体が熱い。

 その熱を覚ます為、目を瞑り深呼吸をする。


――ソルはキルが好き、もちろん恋愛的な意味合いで。

 あの日、一目惚れした訳ではない。

 酷い人間不信に陥っていたあの時から時間をかけてゆっくりとその恋心を募らせていった。

 キルの全てが愛おしい。

 いつだってその感情がソルを狂わせる。

 しかし、キルは何も気付く事なくソルを親友と呼び、慕っている。

 十何年もの間、一方的な恋慕を抱き続けて気づいた時にはソルは今の関係が崩れる事を酷く恐れるようになっていた。

 ソルの恋愛感情をキルが認識した時、どういう行動を取るのだろうか。

 予測不可能、最悪の場合親友どころか友達でさえいられなくなる可能性もゼロではない。

 キルと一緒にいられなくなることを恐れた結果、ソルはこれ以上の関係を望まない事を選んだ。


 目を開き、衣服を整えるとハクと共に歩き出す。


 僕はキルが好き。

 でもキルはこの先も気づかないだろうな。

 だってもう十数年も気づいてないんだから。

 もし気づいたらキルはどうするんだろう。

……キルに嫌われるくらいだったら僕は一生このままでいい。

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