No.11 兄弟
風が止む、魔界と繋がる穴が閉まった。
手で耳を塞ぐのをやめ、まっすぐと出てきた人物を見る。
ソルが話すより先に穴から出てきた人物――センが口を開く。
「……本当、久しぶりだな。10、いや13年振りか。元々呼ばれる回数は減ってたが念願叶って友達ができた途端パタリと呼ばなくなったな。周りからは契約者が死んだと思われてるんだぞ」
憎まれ口を叩くその口は嬉しそうに口角が上がっている。
そんなセンの様子を見るとソルは少し顔を背ける。
「よくそんな細かく覚えてるね。ていうかセンも呼ばなくていいって言ったでしょ……でも来てくれてありがとう」
背けていた顔を再びセンの方に向ける。
センの顔を見るとニヤニヤと嬉しそうな顔をしているので気まずくて見てられない。
絶縁状態だった兄弟と突然出くわしたような、そんな気恥ずかしさを覚える。
「そんな事も言ったかもな。まあ何にしろお前みたいな子供でも俺の契約者である事には変わりない。呼ばれたらすぐに駆けつけるのは当たり前だ」
「もう子供じゃないんだけど」
「そうだな、お前も随分と丸くなった。いつの間にかケイルも発現してるし、その格好今は医者か?」
ピャー
「ペットも飼い始めたのか」
「うるさい、ハクはセンを呼んでる時にもいたし……見せなかっただけで」
頭のてっぺんから足の爪先までを観察されたような感覚がし体を背ける。
いつの間にか肩に乗っていたハクもソルの真似をしてセンから隠れる。
隠れたと言ってもセンと反対側の肩に移動しただけなのだが。
今はそんな事してる場合じゃないのはわかってる。
だがそれを伝えるタイミングを逃すほどセンとの再会は嬉しくて。
……自分から突っぱねておいてそれはないだろう。
そう思っていたけどセンが昔のまま変わらず来てくれた事がただただ嬉しかった。
無意識に頬が緩み、口角が上がりそうになるので白衣の袖で隠す。
「お前が、ソルの」
そんな再会を間近で見ていたキルが呟いた。
「ん? ……お前はあの時の子供か?」
「あの時?」
「その話はいいから」
自分を知っているような口振りにキルは一瞬肩を揺らし驚いた顔をする。
あの話されたらたまったもんじゃない。
キルも驚いているしセンの注意をこちらへ戻す。
話も切れたしそろそろ本題に入らないといけない。
あのムカつく悪魔型の方を向き固有武器を出す。
――昔話は後回し、今はあいつを帰さないと。
「ソル……お前声は」
そんなソルを様子を見て心配そうに声をかけるのも昔と変わっていない。
「聞こえてる。でも――」
(あの尻尾……また悪魔型が増えた。敵……? でもソルと話してるし味方よね)
(あの人はソルくんが呼んだのよね。契約者ってそんな事ができるの? 何にしてもこれでこの状態を打破できるでしょう、話は後で聞かないといけないけれど)
(形勢……ぎゃ、転? ソ、る頑……れ!)
少し安堵してるフィーの声。
冷静に状況を判断してるフォミ。
少し遠いから途切れ途切れでノイズが入ってるけど応援してるミル。
センはまた負の声が聞こえてると思ってるんだろう。
僕もさっきまでそう思ってた。
だから呼ぶのを躊躇っていた。
だけど蓋を開けてみればその心配は全くなかった。
誰も僕を怖がってない。
誰も僕を拒絶してない。
(あいつとはまた違う感じの悪魔型だな。まあソルが付き合ってる奴に悪い奴がいるわけないか……でもさっきすごく苦しそうだった。何かあるんだ。ソルが躊躇ってた何かが。もっと早くこの事を言ってくれたら何か力になれたかもしれないのに)
ソルを心配する声が聞こえる。
優しいキルの声。
少し悲しそうにも聞こえる。
(俺は信頼されてないのか? この事を相談するに値しないのかもしれない……そうだよな。一人で何も解決できなかった俺に相談できるわけないか。俺ばっかり助けてもらってソルの足引っ張って、本当情けない)
「そんな事ない」
「え?」
思わず心の声に返事をしてしまう。
僕のせいで自己嫌悪をするキルを見たくない。
裏表のない子だから心の声が暗くなっていくにつれて顔まで暗くなっていく。
キルは何も悪くない。
不思議そうな顔をしているキルの方を向き、目を合わせる。
「僕はキルの事信用してる。言えなかった……言わなかったのは僕が勝手に怖がってただけ、だから――」
「ソ――」
「ソル」
切羽詰まった話し方をしたせいでキルを余計心配させてしまったのか、手を伸ばしてきて名前を呼ばれる。
――呼ばれると思ったのだがその声をセンが上書きする。
いくら久しぶりに会ったセンでもキルの話を遮られると少しムッとする。
「どうしたの。話遮らないでよ」
「今日呼んだ理由ってもしかしてあいつか?」
センが指を差した先にはレイがおり、差された瞬間分かりやすく体をビクつかせる。
レイは何やら魚のように口をパクパクさせている様だけど何がしたいんだか。
「そうだけど、もしかして知り合い? まあ悪魔型同士同じ魔界に住んでるんだからそういう事もあるよね。でも倒して連れて帰ってくれる? すごくめんどくさい奴だから大変だと思うけど」
「いや、あいつは」
「せ、せ、セン兄!!!!」
「俺の弟だ」
センを兄と叫ぶ声とセンの弟だ、という声が重なった。




