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たださみしかっただけ  作者: 朝月
二章 レイ
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No.10 望めない

 こんな孤児院に立て篭もってどうするつもりなんだろうか。

 最初は疑問だったが聞こえてくる心の声によると、どうやらこの孤児院はどこかからか多額の寄付金を定期的に受け取っているらしい。

 それが目当てだった。


 何時間か経った。

 センもソルの隣で大人しくしている。


「ソル大丈夫か」


 皆の不安や恐怖の声が頭に響いて頭痛がする。


「……僕は大丈夫。でもあの子が」


 外に警察も来ているようだが中々助けは来ない。

 ずっと抱えられているあの子も時間が経つにつれ顔色が悪くなってきている。


「俺だったらあいつらを全員倒せるが、どうする?」


 センがこちらを見つめる。

 忌力を使う事になるだろうから契約者のソルに確認をとっているのだろう。

 何故か悲しそうな顔をしているが、あの子を早く助けたいソルにとっては願ってもない提案だった。


「お願いセン、あいつらを倒して皆を守って」


 センとソルが立ち上がる。

 立て篭もり犯は座れと命令してくるが従う必要はない。

 だってセンがいるから。

 センが固有武器を出す。

 サメの刃を連ねたようなギザギザした形状をしている湾曲した剣。

 センがグリップを捻ると刃の部分が何個かに分かれ、床まで垂れ下がる。

 刃同士は細い鉄で繋がっており、刃の付いた鞭のように変化した。

 再びグリップを捻ると元の湾曲した剣に戻る。


 見たことのない武器、オリジナルだった。

 固有武器は生まれ持った物。

 刀など誰もがよく知る武器の持ち主の方が圧倒的に多い。

 センのようにオリジナルの持ち主は生まれながらに恵まれている。

 今の一連の動作は相手を牽制する為のものだろう。

 センに指示ができるように眼帯を外す。

 勝負は一瞬でついた。




 しばらくして部屋に突入してきた警察が見たのは赤い部屋。

 人質に取られていた子供たちは端っこで固まって小さくなっている。

 犯人は――犯人だった人達は中央に佇んでいるソル達の周りに倒れ込んでいる。

 全員が身体中を傷だらけなっており、壁に血飛沫が飛び散っている。


「皆、警察の人が来てくれたよ。これでもう大丈夫だよ」


「……ソル俺は今すぐ魔界に帰る」


「なん――」


「何でもへったくれもない、今すぐ帰る」


 ソルの疑問も振り切り、センが魔界へのゲートに飲み込まれていく。

 ソルの左目の反転目が元に戻り始めた頃、それは突然聞こえた。


「戻るのが一足遅かったか」


 センがそう呟きながら眉間に皺を寄せる。


「え?」


(なにいまの)

(ソルがあのお兄さんに命令してた)

(見たことない尻尾が見えた)

(こわい)

(何で沈んでいくの?)

(人殺し)


 ソルの耳に飛び込んできたのは非難や恐れを抱いた声。

 声が多すぎて誰が誰の声か把握しきれなかった。

 でも1人だけ誰の声かわかった。


(化け物)


 そう言ったのは確かにあの子の声だった。

 ショックで眩暈がしてその場に倒れ込んだ。

 意識を手放す直前、センの悲しそうな顔と初めて聞く舌打ちが響いた。


 あの後、皆の証言で立て篭もり犯を重傷に追いやったのはソルという事になった。

 噂が噂を呼び、色々な孤児院をたらい回しにされ、やっと決まった新しい住処は孤児院と少年院が兼用されたような施設だった。

 ソルはそこで生活をする事になった。




 孤児院の屋上、ソルはいつもそこにいた。

 前の施設とは違い授業があったが、簡単すぎてに出席する価値はなかった。


「教室に行かなくていいのか?」


「うん、もういい。もういいからセンも帰って」


「……ああ」


 急に呼んで急に帰らせる、最近そういう事が増えてきた。

 本当は誰にも会いたくない、センにだって。

 でも1人でいる事も嫌だった。

 あの声が忘れられない。

 耳にこびりついて離れない。

 さっきまで仲良しだったのに。

 助けたかっただけなのに。

 友達なんて結局そんなものなのだろう。

 受け入れられなければすぐ追い出す。

 あの子の事は僕が勝手に想ってただけだけど。

 相手が何を考えているかなんて知らない方がいいに決まってた。

 そんな事に今更気がつくなんて。


 両親は僕を勝手に生んでおいて勝手に売って勝手にどこかに行った。

 名前だってもらえなかったらしく、今の名前は売られた先で付けてもらったものだと1番最初の孤児院の大人が話していたような気がする。

 でも親に捨てられた事も名前をもらえなかった事も全然悲しくなんてない。

 だってあの人たちが僕にどんな感情を向けてたのか想像はつくけど確定じゃない。

 だから悲しくなかった。


 でもあそこでの僕に向けられた感情は想像じゃない。

――本物だ。

 ヒーロー扱いして欲しかった訳でも、優遇して欲しかった訳でもない。

 ただ一言「ありがとう」って言って欲しかっただけだったのに。

 それは幼稚でわがままな考えだったのだろうか。

 もしそうだとしてももう僕は元には戻れない。

 僕はもう誰にも何も望まない。




――一年の月日が経過した。

 センが孤児院の屋上へ降り立つ音がした。

 ソルは相変わらず屋上を縄張りとしている。


「なに、勝手に現世(うつしよ)にきたの?」


「ちょっと用事があってな」


 センをちらりと見てすぐに視線を元に戻す。

 子供らしい態度は消え失せ、何もかも諦めた気怠そうな態度はもはやいつもの事でセンも特に気に留めない。


「ふーん、まあいいけど……僕の意思で呼ばなかったら代償は出ないんだね」


「そうみたいだな」


 ソルが耳を触る仕草をする。

 その耳に心の声は流れてきてはいない。


 視線も交わらず言葉も交わさずただ時間だけが流れていく。

 先に痺れを切らしたのはソルの方だった。


「……まだいるの? 用事があったら呼ぶから別にわざわざ来なくていいよ。用事って僕を見にくる事でしょ、どうせ」


 沈黙は肯定だ。

 少ししてセンが口を開く。

 そんな顔するなら来なきゃいいのに。


「最近俺を呼ぶ回数が少なくなってきたが大丈夫なのか?」


「センに関係ないでしょ」


 間髪入れず答える。

 これ以上何も言うなというように拒絶する。


「……そうだな」


 小さな声で独り言様に呟く。

 またしばらくして何か言おうとしてやめたセンはそのまま飛んでいってしまった。




――それから数ヶ月が経った。


「セン」


 名前を呼ぶと魔界と繋がる穴が開く。

 センは深夜に呼ぼうが昼間に呼ぼうがすぐに応じてくれる。

 本来なら怒ってもいい事柄にも関わらず、文句一つ言わずにソルの元に現れる。


「珍しいな。先週呼ばれたばかりなのに。最近は多くても月一くらいだっただろ、なにかあったのか?」


「あの子の事どう思う?」


 センの質問には答えず話をすり替える。

 センが屋上から下を見ると孤児院の敷地外にある木の袂で子供が自身の腕に包帯を巻いている所だった。

 その動きはぎこちなく、何度も巻くのに失敗している。

 よく見ると包帯を巻こうとしている腕以外にも傷が多く疲弊しているように見える。


「どう思うって……服装からして貧困家庭の子供だろうな。いや……ネグレクトの可能性もあるか」


「ふーん」


「俺に聞かなくてもお前ならわかるだろ?」


「うん」


 本当はセン自身は必要なく、ソルの目的は代償を発動させる事だった。

 あの子のことを知る為に。

 距離がある為、少しノイズが入っているが確かに声は聞こえている。

 センの予想の後者が正解だったようだ。


「……そろそろいいんじゃないのか、他人と関わっても」


 ソルの方を見ず子供の方を見ながらセンが呟く。

 呟くと言ってもお互いにそんなに距離はない。

 聞こえているとわかっていて独り言の様に呟いたのだろう。

 でもその質問の答えにソルはまだ辿り着けていない。


「そうなれば俺を呼ぶ必要もなくなる。嫌な声を聞かずに済むだろ?」


「そう……だね」


 一年と数ヶ月ぶりに聞いた素直な返事にセンは顔を背けて微笑む。


「まあゆっくり考えればいい」


 そう言ったっきり2人の間に会話はなく、しばらくしてセンを魔界に帰した。


 それ以降センを呼ぶことはなくなった。

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