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たださみしかっただけ  作者: 朝月
二章 レイ
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No.9 ソル・アネーライトは

 昼間にも関わらず暗い部屋。

 明かりは小さい窓から入ってくる一筋の光のみで電気はついておらず、多くの棚に統一性のない様々なものが大雑把に置いてある。

 まともに掃除をしていないのか埃っぽい空気。

 そしてそんな孤児院の物置部屋に子供の歩く音が響く。

 目の前には円形の落書きのようなものが書かれているがまだ未完成のようだ。

 子供はしゃがみこみ、重そうな本を片手にチョークで最後の仕上げを書きあげる。

 出来上がった円形の落書き――魔法陣に間違いがないかどうかを本と見比べ確かめる。

 間違いがないことを確認すると本を壁に立てかけ、魔法陣の前に座り込む。

 そこで初めて声を発する。


「……友達が、欲しい」


 その言葉を合図にしたように魔法陣は鈍い光を放ち始める。

 鈍いながらも強い光に子供は思わず腕で顔を覆い、目を閉じる。

 光が止み、目を開けるとそこには先程まではいなかった男が立っていた。

 灰色の髪の毛は腰ほどまで長く、ズボンから出ている尖った矢印のような黒い尻尾も目に入る。

 右目の眼帯が印象的だった。


「お前の願いが混じった魔法陣に俺が選ばれた……まだ子供じゃないか」


 冷静な口調で話し始めたが、相手がまだ子供だと見ると驚いたようだった。


「君が僕の友達になってくれるの?」


「……それがお前の願いなら」


 縋るような態度に男は困ったような顔をするがその質問に応じる。

 男が差し伸べる手を子供は迷う事なく取る。

 すると子供の左目は白目が黒くなり、黒目が白くなる。

 変化は色が変わった方の目だけに収まらず、両の視界がぼやけ目の前にいる男の顔すら鮮明には見えない。

 そして酷い耳鳴りが始まった。

 咄嗟にうずくまり両耳を押さえる。

 幸い耳鳴りはすぐに止んだ、だがその代わり別の物が聞こえてくる。

――誰かの声だ。

 驚くほど鮮明に聞こえる声に恐る恐る辺りを見回すが誰もいない。

 それどころか耳を塞いでも声量は変わらず耳に流れ込んでくる。


「……ッなにこれ……気持ち悪い」


「悪魔型と契約した代償だ。知ってて呼んだんだろ?」


「うん、でもこれは何……それになんだか目も」


「どうやらお前に課せられた代償は『悪魔型を呼び寄せている間は他人の心の声が聞こえる』それと『視力の低下』らしい。目の色は俺が魔界に帰れば元に戻る、呼べばまた反転するが」


 子供はうずくまって耳を押さえたままだが男の声は届いているようだった。

 目を瞑って眉間に皺を寄せ、少し汗ばんでいる。


「……大丈夫か? 俺が魔界に帰ればその声も消える。一旦帰った方が――」


「いい、行かないでそばにいて」


 耳を片方押さえたままもう片方の手で男のズボンをひっぱる。

 弱っている子供の腕を振り解くのは容易だろうが、男はそうしようとしなかった。


「しかし俺が何か、忌力を使う事をしたらお前の忌力から消費されるんだぞ。理由もなく俺を呼びっぱなしにしてたらお前の身体が……」


「わかってる。全部わかってて呼んだから」


 耳を押さえるのをやめ、自力で立ち上がる。

 身長差があり立ち上がった所で結局は見上げる形にはなるがまっすぐ目を見つめる。


「……そうか、わかった。じゃあそばに居よう。俺はセン。お前は」


「ソル、ソルだよ」


 ソルが悪魔型のことを知ったのは偶然だった。

 たまたま悪魔に関する本を見つけただけ。

 しかし魔法陣は本に書いてあった物を改良し完成させた物だった。

――友達が欲しい。

 それだけをまっすぐに願い、その日契約者となった。




 センと契約して半年以上が経過した。

 センを呼ぶと反転する左目は眼帯をしているのでバレる事はない。

 眼鏡もして眼帯もしてだと少し面倒くさいがこうするしかない。

 センは親戚という事で話を通しているので孤児院に出入りする事を許可されている。

 もちろん尻尾はズボンの中に隠してもらっている。


 心配していた心の声も想像していたより大した事なく(お腹すいた)や(眠い)など大したことない事ばかりで気に留める程でもない。

 大人の心の声は聞かなきゃよかったと思う事もあったが、不幸中の幸いで孤児院なだけあって大人は少ない。

 センの心の声だけは聞こえない仕組みになっているので、どうしても声に耐えられなくなったら自室でセンと2人でいるようにしている。


 センと一緒にいると他の子供も寄ってきた。

 施設の職員以外の大人が珍しいのだろう。

 皆がセンの周りを囲んでいる中、いつも部屋の隅にいる女の子がいた。

 ロングヘアーで垂れ目の女の子。

 いつもフリフリが付いたスカートを履いている。

 ソルがその子の方を見ているとセンが話しかけてくる。


「気になるのか?」


「ッそ、そんなんじゃない!」


「別にそういうつもりで言った訳じゃないんだが……」


 ムキになって答えるソルを宥める。

 センと遊び半分の口喧嘩をしながら、あの子の事を考える。

 あの子の心の声は少ない。

 無口だから心の内では沢山喋ってるのかと思ったが、心の声も無口だった。

 だからセンの次に近くにいて心地いい。


(……! ……ッ!)


「えっ」


 そんな事を考えていると突然怒号のような声が聞こえた。

 しかも全く知らない人の声だ。

 少しノイズが入っているので、近くにいる訳ではないようだ。

 しかしノイズは段々薄れていく、ソルに近づいてきているという事だ。

 そして扉が突然開き、何人かが部屋に雪崩れ込む。

 見えているはずなのに何故か顔を認識できない。

 認識阻害のようなケイルを使っているのかもしれない。

 その内の1人が固有武器を出し、たまたま1番近くにいたあの子を抱え込む。


「きゃあッ!」


 初めて聞いた大きな声。

 部屋の中にいる者全員の動きが止まる。

 立て篭もり事件が始まった。

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