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たださみしかっただけ  作者: 朝月
一章 桃源郷
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No.1 ただの運搬作業だと聞いていた

 人気のない路地を車が通る。

 この大陸は発展国だと聞いていたがそれは所詮噂だけだった様だ。

 発展しているのは表の見える所の一部だけで少し深い所まで来ると俺がいた小島と大して変わらない。

 むしろ今通ってるこの道はきちんと舗装されている方らしい。

 人口100人いるかいないかのど田舎の島から上京してきた身ともなれば雇い主も見つからないまま数ヶ月が経った。

 所持金も食料ももう少しで底を尽きる。


「華やかな上京生活を夢見てたのに」


 助手席でため息と共に声を漏らせば、運転席にいる仕事仲間が問いかけた訳ではないのに返事をする。


「兄ちゃんそりゃ残念だったな、トラリアオース大陸にそんなもの夢見てちゃどうしようもない。だからこんな仕事に行きつくんだぜ?」


 今日会ったばかりだが美形な癖にこんな仕事に付いている事が妙に鼻につく。

 その顔だったら他に働き口があるだろうに。

 まあそうは言っても世の中顔だけじゃ食っていけないし、何より仕事の先輩だ。

 もちろん邪険には扱えないし嫌でも教えも乞わないといけない。


「俺のいた島じゃここは大都会だっていう話だったんですよ、それに就職先にも困らないって……」


「どこのどいつがそんな事言ったのかねぇ」


 話しながら先輩がハンドルを切れば後ろから「もっと丁寧に運転しろ」と不満の声が飛んでくる。

 その声に体がビクつく。

 そんな俺とは対象的に先輩は軽口で答える。


「はいはいすみませんね、全く後ろは気楽でいいぜ……俺以外は免許持ってないってどういう事なんだか、嘘だって知ってんだぞ……」


「あの、今更なんですが……」


「なんだ?」


「これ犯罪ですよね?」


 これは普通の車じゃない、運転席と後部座席の間にはカーテンで仕切りがしてある。

 カーテンを開けば後部座席は広く、大人2、3人が縦に横になれる程の大きさをしている。

 席の配置もおかしく、配置だけ見ればまるでリムジンだ。

そして何よりもヤバいのが――


「ああ、あの女の事か?」


 当たり前だろ、他に何があるんだよ。

 後部座席には先程罵声を浴びせてきた男と合わせて3人の男が乗っている。

 そして問題の女の子、服というよりボロボロの布というほうがしっくりくるような物を身にまといっている。

 そして目には目隠し、口には口枷、手首には頑丈そうな手枷。

 その格好だけでも異常だというのにそれだけには飽き足らず、口枷を通して嗚咽が車内に響き渡っている。

 大の男複数人ととんでもない格好の美女、そして嗚咽。

 俺は一度も後部座席を直視できていない。

 それでも聴覚と嗅覚が何が起きているのかを嫌でも教えてくれる。

 自分が犯罪を犯している事を嫌でも認識させられる。


「いいや犯罪じゃないぜ、この女はトートだからな」


 トート……?

 この子があの?

 疑惑の目に気づいたのか先輩が付け加える。


「まあCランクの通常型だから見た目がレーベンに近いのは最初は慣れないだろうが……奴隷の運搬の仕事なんだから察しろよ……レーベンを奴隷なんかにしたらそれこそ犯罪だぞ」


 俺はそんな危険な橋は渡りたくないね、と先輩は言う。

 そういう問題ではない、トートとかレーベンとかそういう事以前にこれはまずいだろう。

 俺だって好きでこの仕事を受けたんじゃない。

 本当は人身売買なんて関わりたくなかった。

 皆そうじゃないのか?

 後ろを横目で覗くとまだ陵辱は続いている。


 人道を外れている。


「お前もしかして、トートの心配してんのか?」


「何が悪いんですか。俺達と同じ見た目をしているんですよ。そんな子をこんな扱いして平常心でいられるわけないでしょう」


「トートが好きならピート地方にでも行きな、あそこは物好きしかいねえから。だけどここはヒュープル地方だ。皆仕事してんだよ、邪魔するならさっさと辞めちまいな」


 こんな事が真っ当な仕事だと言うのか。

 俺が間違っているのか。


「俺の故郷にはトートが住んでいませんでした。だから風の噂で聞く様な化け物みたいな連中だと思っていました。だけど違った。この子は普通の女の子だ」


 トートがこんな見た目だと思わなかった。

 こんなにか弱い生き物だとは知らなかった。

 この国にトートを粗末に扱う法律があるのは知っていた。

 俺には関係ないと見て見ぬふりをしてた。

 でも今後ろで泣いてるのは紛れもなく俺と同じ人間で。

 それがどうしても我慢できなかった。


「普通の女な訳ないだろ、世間知らずが。なんで人間がレーベンとトートに別れてるのか考えてみやがれ」


「トートの事をそんな風に思ってくれてるレーベンがこの車に乗ってるとは思わなかったよ」


 突然、本当に突然。

 後部座席から女の子の声がした。

 拘束されている子の声ではない。


「でもごめんね、ミル達トートはやっぱり普通じゃないんだよ。普通が何かはわからないけど」


 恐る恐る後ろを振り返ると1番後ろの席に知らない子が座っていた。

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