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たださみしかっただけ  作者: 朝月
二章 レイ
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No.8 知られないままでいたかった

 空気が凍りつくのを感じる。

 倒れているとはいえ、全員の意識はありソルの声も届いている。

 驚くのも無理はない、たった今敵対している勢力と仲間に接点があったんだから。


「ど、ういう事だよ。いつからこんな訳のわからねえ奴らと繋がってたんだよ!」


「15年前」


 キルの目を見ずに自分との間に一線を引くように言葉を投げ捨てる。

 普通なら怯んでしまうような冷めた声色。


「へえ、結構前じゃん。そんな風には見えないけど」


 レイの少し驚いたような声を無視し、キルに向かって話を続ける。


「キルと会う前だから知らないのは当たり前。僕もこんな事にならなきゃ言うつもりなかったし、契約してもいい事なんてなかった。だからキルは契約なんて――」


「なんで! なんで……言わなかったんだよ……ッ」


「大した事じゃないから。それに悪魔型なんて言っても意味がわからないでしょ?」


「そんな――」


 キルがソルに向かって恐る恐る手を伸ばしているのが視界の端に見える。

 あと少しで風に揺れる白衣を捕まれそうだった。

 その時、レイが手を合わせる音が響き思わず手を引っ込めてしまう。


「はい、そこまで。いつまでこんな痴話喧嘩みたいなの見せられるの! 待たされてる身にもなってよ。もう霧もほぼ晴れちゃったし早く決めてよ。オレと契約した後に彼女になるか、皆殺しにした後に彼女になるか」


「は?」

「は?」


 ソルとキルの声が重なる。

 倒れている3人も話せる様な状態だったら声が重なっていただろう。

 そんな反応を見て不思議そうに「え?」と顔を傾けているレイ。

 いやいやそっちのその態度の方が不思議だ。

 あまりにも話が飛躍しすぎている。


「な、何言ってんだよ」


「え、最初は契約者として勧誘してあわよくばって感じだったけど、キルちゃんいい子過ぎ! だから付き合ってって言ったの! おかしい?」


「何言ってんの」


 さっきまでの周囲を突き放す物憂げな雰囲気はどこへ行ったのか、ソルはレイを睨みつける。

 少し緩まっていた手に再び力を入れ直す。


「あれ、もしかして今日一のブチ切れ? もー物騒だなぁいいじゃん別にー」


 キルに告白した直後にとったヘラヘラした態度。

 何年も大切にしてきた宝物をぽっと出の誰かに取られたような胸糞悪い気持ちに思考を取られる。

 元来声を荒げて怒るタイプでは無いソルの堪忍袋の尾が音を立てずに切れた。


「お前は即刻魔界に帰れ」


「やーだ。じゃあ契約してる悪魔型呼んで力尽くで帰してみてよ。オレ魔界でも喧嘩負けたことほとんどないよ?」


「さっきからそのつもりだから」


「――ソル」


 キルがソルの名を呼ぶ。

 その声で少し冷静さを取り戻し、血が滲みそうなほど握りしめられていた拳の力が緩む。

 固有武器を消し、肩の力を抜く。


 今日の僕はおかしい。

 情緒不安定だ。

 わかってる、何でこんな事になってるかなんて。

 少しの沈黙の後、やっとキルの目を見る。


「キルさっきはごめんね。色々言っちゃったけど結局は知られたくなかっただけなんだよ……できたら怖がらないで」


「ッソル!」


 キルが再びソルの名を呼ぶ。

 レイの方を向いているソルにもその声は届いていたが返事はしない。


「随分久しぶりだけど、来てくれるかな」


 最後に名前を呼んだのはいつだったか。

 もう忘れられてしまっているかもしれない。

 少し目を瞑り、その懐かしい名前を呼ぶ。


「セン」


 セン、そう呼んだ瞬間ソルの横の地面に黒い穴が開く。

 ――来た、来てくれた。

 そこからは少し空気が流れてきていてソルの髪や白衣がなびく。

 ソルが目を開けた時に左目の白目は黒に、黒目は白に変化していた。

 その瞬間耳を塞ぎ体を前のめりにする。


 どこからかソルを呼ぶ声や動物の鳴き声、驚く声が聞こえた気がしたが何を言っているかまでは聞き取れない。

 ソルに鮮明に届いたのは耳を塞いでも尚聞こえ続ける誰かの声だけだった。

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