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たださみしかっただけ  作者: 朝月
二章 レイ
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No.6 毒の前では意味を成さない

「いつまで息しないつもり?」


 毒霧で少し悪くなった視界に追い討ちをかけるように不愉快な声が聞こえる。

 霧を少し吸ってしまったが、今の所は体に大した異常は起きていない。

 ただ手先が少し痺れるだけ。

 ソルが辺りを見回すと皆も同じような状態にあるように見える。

 攻撃を喰らわそうにも呼吸に気を取られて当たらない。

 最低限の呼吸でやり過ごすのはそろそろ限界かもしれない。


「驚いた? 変身能力のケイルだと思ってたでしょ。残念! 変身能力は魔術で、オレのケイルは『薬』でしたー」


 槍を振り回しながらケラケラと笑う顔が憎らしい。

 アンカーを振り回して霧を払おうとしているが何度やってもうまくいかない。


「払ってもムダムダ。それにまともに呼吸できない状況で動くのもう無理でしょ? 冥土の土産に特別に教えてあげようか。この霧は体が麻痺する薬。最初は麻痺だけで済むけど沢山吸い込んだら気絶しちゃうよ! でも安心してね、気絶してる間に楽に息の根止めてあげるから」


 でも女の子にはそんな事せずに別のことしちゃうかも、と独り言を呟いている。

 つまり僕だけ殺すってことだよね。

 殺そうとしている割には笑顔を崩さない。

 本当の事を言ってるのかハッタリか。

 普通なら後者だけど、殺し慣れてる殺人鬼なら前者もありえる。


「悪魔型の事知られたら生かしておけないんだよね。キルちゃんと契約できたら関係者って事で殺すまではしなくてよかったんだけど。ダメだって言うからしょうがないよね?」


 槍をクルクル回したり、自身の爪を確認したりしている。

 攻撃する気はないようで、こちらが気絶するのを待っている、そんな様子だ。

 このままジリ貧でキルがどうなっているのかもわからない状態で気絶する訳にはいかない。

 それにまた起きられる保証もない。

 こんな所で永遠の眠りにつくなんて御免だ。


「さすが悪魔と名前がついてるだけあって言う事もやる事も陰険ね。独り言も聞こえてるわよ」


 攻撃を仕掛けずに霧を吸わないことだけに集中していたフォミが突然立ち上がる。

 口に当てていた手も下ろし深呼吸をする。

 身体中に酸素が回る、毒と一緒に。


「フォミ!」


 ミルが静止しようとするがフォミはレイに向かって歩き出す。


「フォミちゃんそんな事していいの?」


「ええ、いつかは限界が来るもの。だったらあなたに少しでもダメージを与えてから気絶した方がいいわ」


「いいね。そういう気の強い子好きだよ。もし獣人じゃなかったらフォミちゃんでもよかったんだけどね」


「もし獣人じゃなかったとしてもあなたみたいな人と関係を持つのはお断りよ」


 大鎌を握りしめ、振りあげる。

 そして間髪入れずに何度も斬りかかる。


「それは残念」


 大鎌を槍で受け止められ、その隙に手首を掴まれる。

 掴まれた方に持っていた大鎌を消し、瞬時に反対側の手に大鎌を出すが一歩遅くレイの尻尾の先端が足に突き刺さった。


「霧だけじゃなくて注入もできるんだけど……言ってなかったっけ?」


「――ぁッ」


『薬』の文字が現れた瞬間フォミの体が地面に崩れ落ちる。

 何とか意識はあるようで下からレイを睨みつける。


「ゆっくり意識なくなっていくから安心してねー。それで、フィーちゃんもやるの?」


 フォミが刺された時、フィーも歩き出していた。

 ミルが手を取り止めようとしたが微笑みゆっくりとミルの手を解き、レイの元まで歩いていった。

 フォミと違うのは固有武器を敢えて消したという事。


「レイって言ったかしら」


「うん。どうしたの? 固有武器も持ってないし」


 固有武器を持っていない事を確認するとレイの方からも歩み寄っていく。


「私じゃダメなの? 最初は私が目的だったんでしょ? ……尻尾もないし見た目は半分通常型よ。私があなたと契約してあげるからキル達は見逃して、お願い」


「んー……」


 息も絶え絶えにレイの服を掴む。

 固有武器を消したのは攻撃する意思がない事を伝え降参を宣言したようなものだ。


「ごめんね? やっぱり獣人だと後々面倒な事になっちゃうから」


 そんなフィーの姿勢を無下にし申し出を断る。

 そしてフォミにしたように尻尾を足に突き刺しケイルを発動させる。


「ぅッ……」


 フィーも地面に倒れ込み、肩で息をする。

 駄目、そんな息の仕方したら。

 すぐに空気中の毒が身体に回ってしまう。

 ソルがフィーの方に駆け寄るとレイは距離を取り、ため息をつく。

 ケイル『治』を発動させてみるがやはり細胞が損傷してる訳ではないのでフィーの体はよくならない。


「フォミ! フィー! そんな……」


 ミルも立ち上がろうとするがすでに霧を吸い過ぎていたのか一歩歩いた所で膝をついてしまう。

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