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たださみしかっただけ  作者: 朝月
一章 桃源郷
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No.10 天然タラシと惚れ症は接触禁止

 ハクとメニィの声が重なる。

 焦っていたのか、男はキルの後頭部目掛けて殴りかかろうとする。

 十中八九トート。

 固有武器の一つでも出していればまだ勝機はあったかもしれない。

 たとえ限りなく0に近いとしても。


 キルは殴りかかってきた拳を後頭部の直前で受け止める。

 常人であれば受け止めたとしてもそのまま殴られていたであろう。

 ただでさえ力の入れにくい体勢。

 それでも男の拳はピクリとも動かない。


「まだ意識があったのか」


 横目で睨みつける。

 その眼光に一瞬怯みはしたものの――


「――かかれッ!!!」


 壊れた壁の奥から暗殺者と思しき3人が1、2と二手に別れてが飛び出してきた。


「気絶させたんじゃなかったの?」


「その筈だったんだけどな……」


 本当は暴力沙汰が嫌いなキルの事だ、無意識に手心を加えていたのだろう。


 壁の穴からメニィまでそう距離はない。

 ソルが固有武器を出す。

 ソルの手に淡い光が輝き、固有武器が出現する。

 馴染みのない形状。

 船を止めておくアンカーのような形をしていて、二つの対になっている爪部分は刃物になっている。

 後方のリングに短い鎖も付いている。

 少なくとも1mはあるだろう。

 相当な重さの武器だがソルは涼しい顔で柄の部分を持ち、敵に向ける。

 そして走り出し、攻撃を仕掛ける。

 長い廊下だと言っても所詮は廊下。

 幅はそこまで広くない。

 二手に分かれたって意味がないだろう。

 1人で3人を相手にするのは不本意だけどしょうがない。

 次々と斬りつけ、最後の1人も斬りつける。

 ――確かに斬ったはずだった。

 だが手応えがない。

 相手の姿が消える。


 まずい、ケイル持ちだ。


 最後の1人を探して振り返る。

 狙いはメニィ。

 メニィの元に現れる可能性が1番高い。

 ソルがメニィの元に駆けつけようとした時、メニィの背後に先程消えた男がうっすらと現れ始めていたのが見えた。


「うしろ――」


 ソルが警告するより早く誰かが動いた。

 目視できなかったが見なくてもわかる。

 この場に誰が何人いても、他人の為に咄嗟に体が動くのは1人しかいない。


 血の匂いがする。

 メニィはキルの右腕に抱かれている。

 キルの手のひらからは血が滴る。

 最初殴りかかってきた男も、ケイル持ちの男も伸びている。

 多分標的を刺そうとした武器を自らの手を犠牲にする事によって勢いを殺し、そのまま殴ったのであろう。

 メニィを守ることと同時にそれを行った。


 他人なんて怪我しても治せばいいと思ってる僕とは違って、キルは最初から傷一つ付けさせないつもりだった。

 僕がもう少し注意していればキルが怪我をする事もなかったのに。


 ハクがソルの肩の上に飛び乗る。


「悪い、仕留め損ねてた。怪我してないか?」


「はい、おかげ様で……それよりキル様が……」


「いいんだこれくらい。ソルもいるし」


「キル、もう離れても大丈夫だよ。全員ちゃんと気絶してるの確認したから」


 ソルが2人に近寄り話しかけると、キルは謝りながら慌てて腕を離す。

 メニィは恥ずかしそうにキルから少し離れる。

 何かを考えているようにも見える。

 2人一緒にセクハラで訴えられたら洒落にならない。


「そんな事より無茶しないでよ。ほら早く手を見せて……結構深いね、貫通してる」


 ソルの右目が赤くなり、『治』の文字が浮かび上がる。

 ソルのケイルは損傷部分に直接触れる事で瞬時に治すことができる。

 何でも治せるとは言えないが、大抵のものは治すことができる。


 キルに向かって手を差し出し、キルもそれに応じる。

 ソルがキルの傷に触れると傷が塞がっていく。

 手を離す頃には完全に元通り、キルもグーパーを繰り返して手の動きを確かめている。


「助かるよ。いつも悪いな」


「こういう事はしないでっていつも言ってるでしょ」


「でもノルマは達成したしメニィも無事なんだから結果オーライだろ!」


 少し怒ったような声で言ってしまった為、それに反論するように成果で答える。


「こっちも終わり!」


 突然、くぐもった様な声が聞こえた。

 窓の外を見ると、木の上にミルが座っていた。

 少し見下ろすと、木の麓にはぐるぐる巻きにされている4人の暗殺者らしき人たち。


 今回の依頼が終わりを迎えた。




「じゃあまたな、メニィ」


 屋敷の門の前まで見送りに出ているメニィの頭をキルが撫でる。

 恥ずかしそうな顔をしている事を気に留めず、帰路の方向に足を向け始めた3人をメニィが呼び止める。


「待ってください! キル様!」


 メニィがキルの元へと駆け寄る。


「どうしたんだ?」


「あの……ソル様と一緒にこの家に嫁いできてください!! つまり私と結婚してください!!!」


 素早く詰め寄り、ソルの時と同じようにすごい剣幕で求婚するので、キルも思わずたじろぐ。


「キルも求婚されたの?」


「てことはソルもされたの?」


 数歩先で事の経緯を話している間にもメニィの勢いはとどまるところを知らない。


「うちは複婚が認められた家です! すでに2人の旦那様がおりますので子供のことは大丈夫ですから!」


 ――複婚。

 まさかそんな言葉が飛び出でくるとは夢にも思わず3人は呆気に取られる。


「そんな家本当にあったんだ……」


 ミルの声で2人も現実に引き戻され、キルも焦り出す。


「メニィ……悪いがそれは……」


「僕は何にしてもお断りだけど」


 メニィの2人への求婚は日が暮れるまで続いた。

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