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三篠家離散日誌  作者: 三篠森・N
第1章 三篠家崩壊編
6/29

6話 三篠家と越後じゃ男と杉は育たない。

 なんだかこの随筆、母が悪者のように描かれているのでどうにかしたい。どちらかと言えばというか完全に俺はマザコンだし、父には長らく反抗し確執があったので……。

 両親仲が悪いのは否定のしようがないがどちらにも落ち度、擁護がありどっちもどっち、大人になった俺及び妹の判断は「両成敗」「当人同士でどうにかしてくれ」って話だ。


 そんな母、妹と俺は仲が良い。マザコンでシスコンだ。

 二人とも容姿が良く、モデルのバイトをしていたこともある。また、気が強い中に芯が通っており、軟弱物の俺や弟とは一線を画すのが妹だ。

 妹は中学時代はジャニオタ、高校時代はバンドオタ、大学時代前期はバンド活動、大学時代後期に急激にアニメにハマり、その勢いで有名アニメ制作会社にするっと就職したものの激務に負けて半年で退職。母は一貫して看護職。なお、共通して無類のイケメン好きである。何故、母は父と結婚したのか。父の見た目は『チャーリーとチョコレート工場』に出てくるチョコレート工場で働くウンパルンパとうりふたつである。お見合いの弊害だな。そのお見合いが巡り巡って不仲となり、弟という化け物が育ってしまった。

 実は俺も妹とは仲が良くはなかった。というか関わりがなかった? 子供の頃は俺と弟は非常に仲が良く(と俺は思っていた)、妹はハブられていたんじゃないが陰の二人と違って陽の妹だったから……。

 妹は大学入学してから少しして、通学時間の長さに音を上げて大学の近くで一人暮らしを始めた。就職後は職場へは実家の方が近かったので戻ってきて、お互いに大学を卒業した俺と妹はもう大人同士と言うことで仲良くなった。主にマンガの話をしていたと思う。俺はマンガは好きだがアニメはあまり観ない。妹は職業柄アニメもマンガも嗜む。この頃の俺たち二人のフェイバリットは『鬼灯の冷徹』『ばらかもん』であり、この二本は珍しく俺も観ていた。

 その後、弟の暴威に晒された俺たちはそれぞれ家を出て、実家近くで一人暮らしを始めた。その後妹はもっと都心に引っ越すことになる。

 今回お話しするのは、妹が弟からの緊急避難でまだ俺たちの近所に住んでいた頃の話だ。


 2018年。転職活動に苦戦した俺はようやく仕事を見つけた。家からは約二時間かかり、乗り換えも多くその全てが窒息する程の満員電車。通勤だけでもオオゴトだぞ……と初出勤したその日。

 帰路に着いた俺に母からの連絡が入る。

 この日、母と妹は二人で、車で母の実家に行っていた。

 そして祖父のお墓参りの帰り、横から突っ込んできた大型トラックで二人の乗った車はオシャカになり、運転席の母は腰、肋骨などを骨折。後部座席だったのでシートベルトを締めていなかった妹は車の中でバンバン打ち付けられ、鎖骨や肋骨の他に割れたガラスで深い裂傷を負ってしまった。生きていたのが不思議なくらいの大事故である。

 俺もすぐに駆け付けたかったが、母に「初出勤していきなり休んではいけない」「叔父がいてくれるから来てもらっても何もしてもらうことがない」ということで俺は出勤を続ける。

 一週間程入院した二人は東京に帰ってきた。妹の方が重傷であり、重いもの……。具体的には500mlのペットボトルすら持てず日常生活を送れないレベルの重傷であった。

 しかし実家に陣取るのは“悪魔のブロリー”である。当然妹の実家療養など許さず、以前もこの随筆で触れたが妹は弟に襲撃されて負傷したことがあるので追い打ちが怖い。


 だが怪我の功名というコトワザがある。

 生活を送れないレベルの重傷を負った妹、万全ではないが料理程度なら出来る母。さらに偏食により、健康診断で内臓の機能の異常が指摘された俺。

 2018年の秋、束の間の団欒が始まる。


 俺は仕事の帰りにスーパーにより、その日の食材を調達。駅チカの妹の部屋に必要物資も運搬し、母がバスでやってきて調理する。この妹の部屋での夕食は二か月程続いたのではないだろうか。

 二人が入院中に読んでいたという『はたらく細胞』のマンガを借りたり、そのアニメ版を観たり……。

 2018年の夏に富山に行っていた俺は藤子不二雄ゆかりのジャイアンリサイタルメダルチョコレートなるものを妹への土産に買っていたが、妹はそれを冷蔵庫に入れたまま忘れていたのでその時に三人で食べた。

 この頃は療養中の妹に『ジョジョの奇妙な冒険』『トクサツガガガ』などを貸していた。俺は『トクサツガガガ』をコンビニの袋に入れて貸したが妹はドクター・マーチンの箱に入れて返却してくれた。その時にドクター・マーチンの箱の縁で指を切って出血したのが俺の人生で一番オシャレなケガである。


 端的に言うと無能でクズな俺はこの頃、新たな職場にあまり馴染めず、通勤も相俟って毎日ストレスまみれで帰宅していたが妹の家に寄って妹、母と三人で食事をしたり映画やテレビを観たりマンガを読んだりすることで一日のストレスの浄化を行っていた。

 妹のケガも治りつつある十二月。妹は俺にローストビーフを作ってくれるという。しかしその日は予定があった……。

 『ドラゴンボール超 ブロリー』公開である。前作『復活のF』のあんまりさで全く期待していなかったが、新たなブロリー像と大迫力の戦闘、悟空とベジータ以外戦わず、映画の半分が戦闘シーンという思い切った構成、従来のブロリー像を一掃する大胆なアレンジに心を打たれ、いたく感動したまま妹の家に向かってローストビーフを受け取った。


 大学で芸術系を修めた妹は当時は映画の自主制作活動を行っており、俺も昔は物書きのことをオープンにしていた。そんなことがあったので、せめて明るい話題を持とうと、妹たちをスタッフとする制作陣に脚本を書いてくれ、とオファーがあったこともあったなァ……。

 それで書いた脚本が『ミス・キントウン』という作品である。この『ミス・キントウン』でピンと来た人は相当の拙作『東京悪魔』ファンだぞ。

 この『ミス・キントウン』は、カフェで働く二人の若者が主人公である。

 一人はカセ・ロクロー。何の目標も持たずカフェで働いているフリーター。

 もう一人はタカナシ・ユウコ。仙人の家系で霞を食べて生きていけるが、義務教育で給食を食べ下界の食べ物のおいしさを知り、東京にやってきて美味しいものを食べながら過ごしている女性である。

 ロクローはユウコを餌付けて胃袋から掴むため、美味しい食事の作り方を模索したり美味しいお店にユウコを連れて行ったりする。

 この作品は「地味すぎる」ということで却下になり、代わりに『東京悪魔』を提出したがそれも却下。

 却下された『ミス・キントウン』のヒロイン、ユウコはほぼ同じプロフィールの高輪夕子として『東京悪魔』に合流し、大活躍した。なお、『ミス・キントウン』版の夕子はプロフィールと見た目は同じでも性格は全く違い、無口でクールな女性だった。




 妹のケガの治療は2022年現在も続いているが、もう日常生活は送れるし、もっとオシャレな町に引っ越して頼れるパートナーと可愛がる姪猫もいる。いい意味で弟を中心とする家族のしがらみから一抜けピーした形だ。

 それでも二か月に一度程、俺と母は妹の家に遊びに行く。


 昨年の冬には、妹とピッピが旅行に行くのに当時生後半年の姪猫のペットホテルが予約出来なかったからと、俺が一晩姪猫と泊って面倒を見たこともあった。


 最近では妹も『ポケモン』シリーズにハマり、ピッピとも『星のカービィ ディスカバリー』『ポケモン アルセウス』を貸したり、俺が挫折した『ゼルダの伝説 ブレス・オブ・ザ・ワイルド』のクリアを託したりと伝言ゲームの形でまだ会ったことのないピッピと交流を深め、向こうも俺を「お兄」と呼んでくれているようだ。


 先日は母、妹と共に美術展を観に行き、その帰りのランチでやはり弟の話になった。今まで明言されたことはなかったが、やはり妹とピッピの結婚を阻んでいるのは弟の存在であると妹の口から明かされた。妹の友人たちも結婚し、子供を持った子も多いようだがみな里帰り出産をしたそうだ。しかし我が家にはブロリーがいる。赤ん坊だったカカロットの泣き声で未だにカカロットを恨んでいるブロリー以下の沸点の男だ。甥、もしくは姪の泣き声でブチギレる姿が容易に想像出来る。


さらに昨年末に通報されて終わったと思っていたご近所トラブルも再開したようだ。母が家にいない、と思ったタイミングでお隣さんに罵声を飛ばしているという。偶然、母が気付いたが、母が気付いていないだけでもっと前から再開していた可能性すらある。

母は危険を感じたらまた通報してください、とお隣さんに言っているようだが、弟がお隣さんに罵声を飛ばしているのは三篠家の都合である。なんでその尻拭いである通報という行為をお隣さんに委ねるのだ。ウチでどうにかしろ、と言いたい。お隣さんは弟が

「通報すれば俺が黙ると思っているのか」

「通報したら殺す」

 と息巻いていることを知っているのだろうか。やれやれだ。今年も年末には実家に帰れそうにもないな。





 ……母の話と言いつつ妹の話になってしかも母がまた悪者のようになってしまったな。

 だが妹よ。この家族において、妹のように弟の呪縛を振り切り、自分の人生を生きていくのが一番なのだ。良くも悪くも家族と適度に距離を置くこと。それこそ自立である。

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