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三篠家離散日誌  作者: 三篠森・N
第3章 三篠家介護編
29/31

第29話 三篠森・Nの父の主治医、ディアブロス亜種

 だいぶ間が空いてしまった。

 その間に進展もあった。

 All right. People. Let`s start at the beginning one last time.(オーケイ、じゃあもう一度だけ説明するね)


 父は入院した。

 7月に地元クリニックにて認知症の検査を受けていた父は、長谷川式なる検査を受けたが、傍目に見ても認知機能の低下は著しく、「野菜を十個挙げてください」という課題を全くクリア出来なかった。

 だがその検査の途中にメンタルクリニックの先生が慌てだし、時計を気にしたり「まだ間に合うか……」など不穏な動きや発言をし始めた。

 長谷川式なる検査の終わった後、先生は父の目の色と掌の色、そして血液検査か何かの数値を見て言った。


「アルコール性の認知症の可能性もあるが、現時点でヒドイ黄疸が出ている。末期のアルコール性肝障害の可能性があり、このままだと一刻を争うレベルで命に係わる。今すぐに大きい病院のERに行ってください」


 ……。

 そして行った訳だ。ERにかかり、確かに問題のある父ではあるが、ここで終わってしまうのか? と考えると不安に押し潰されそうであった。

 その後数時間して、ERの医師に肝臓は直ちに命に係わるレベルではなかったが、翌日にもう一度内科を受診してほしいと言われた。何故か先生は俺にキレた。解せぬ。

 それでも父は「運転して帰る」と言ったが、さすがに危険すぎるのでタクシーで帰宅した。普段から血糖値がヤバいというのに、焼肉を食べてから帰ったそうだ。

 俺は前回父の家に泊まった時にあまりの不衛生さと暑さに耐え兼ねていたのでホテルに泊まった。

 翌日、改めて内科を受診したところ、血糖値が440もあった。

 440! 440!? 前回の受診以降、禁煙禁酒を厳守し、服薬管理も出来ていると言っているのに440!? 当然だが、足の手術は中止を告げられる。

 正直もう手には負えねぇ。俺は内科医師に教育入院を申し出たが、その先生の電子カルテには昨日のERの医師からの申し送りで


「東京から来た息子が付き添い。イライラした様子でスマホにメモを取っている」


 と書いてあるのが見えた。命にかかわると言われているのだから動揺もするし、スマホしかメモを取る手段がなかったんだよ。だからと言って医師が医療の知識がない俺にキレるって……。

 まぁ父は即日入院となったが、意外にすんなりと入院はしてくれた。俺としても安心だ。

 とにかく危険運転だけはその間不可能だからな。

 時間も稼げる。このまま入院を長引かせ、その間に父の在宅期間のためのヘルパーさんと訪問看護師の手配、その先の施設の選定、認知症と正式に診断させられれば免許返納の促しと、株取引の停止は可能だからな。

 こうして一定の成果を出した俺は東京へ帰った。それでもあまりの疲労に数日発熱した。


 翌週も田舎に来いと言われた。なんと、内科主治医と足の手術を担当するもっと大きな病院の整形外科主治医が、俺たち家族に無断で足の手術の日程を再設定してしまったのだ。それに間に合わせるために急遽インスリン注射も始まっていた。すべて事後報告だ。しかも手術は三週間後。

 今度は一人では手に負えないので、看護師の母にも来てもらう。だが両親はイザナギ、イザナミ以上に仲が悪く、父は母のことを「あいつはもう人間じゃない」とまで言っている。そのため、母が田舎に来ていることは父には絶対にバレないように立ち回る。

 俺は受診前日から田舎に行っていたので、父の家に行ったが凄まじく不衛生であった。

 蓋を開けたまま放置されたヨーグルト、バナナの皮……。例えが不適切で申し訳ないのだが、ホームレスの方が回収しているくらいの量の酒の空き缶の入ったごみ袋が二つ。

 エアコンはつけても効かない。耳が遠いのでテレビの音量は45。布団は万年床。

 ここでは一泊も出来ないと判断し、俺はまたホテルに泊まった。

 翌日、母が来る。そして地域包括の担当者様、病院のソーシャルワーカー様と四者会談したのちに、内科主治医と話す。

 内科主治医は若い先生である。椅子にふんぞり返り、足を組み、机に肘をついて非常に横柄に話す。

 俺はまず認知症を確定させて危険な運転と危険な株取引をやめさせたい、退院後の訪問看護師やヘルパーさんを手配したい、と相談すると、内科主治医がキレる。

 机を叩きながら


「こっちはよかれと思ってやってるんですけどね!」

「最初にERにお見えになった時、肝臓に問題がなかったんだから帰ってもらっても構わなかったんですけど!?」


 なんなんだよこの病院の医師のキレやすさは。懐かしのディアブロス亜種を思い出すキレやすさだぞ。

 その後は母が上手く収めてくれたが……。

 だが、服薬管理と禁酒が出来ていたはずなのに血糖値440。これは、前回の飲酒を控えず服薬していなかった時の490に迫る数字だ。A1Cは前月8.2だったのに今月は9.5。どういう生活……。

 家にあった、あの尋常でない量の酒の缶が答えだろう。父は酒を飲んでいた。本人の申告通り一か月飲んでいなかったとしたら、あれだけの量のゴミを一か月以上も捨てなかったということだ。

 そうでもなくても、父は午前中だけで朝食にジャムを塗ったトースト、それでも足りずにヨーグルト、アイス、大福、バナナを食べるそうだ。午前だけで!!!


 ……。

 一応、退屈しているだろうと思って本を差し入れた。だが「朝は大谷、昼は相撲、夜はプロ野球を見るから読まないと思うぞ」と言われる。

 だが、しばらくは入院してくれるのだ。そして東京に帰り、その日と翌日は発熱した。


 それでも俺は自由に行動できない。

 またいつ病院に呼ばれるかわからず、職場の飲み会も断り、恩師との食事や友人との花火もしたいのにやれない。

 じゃあもう呼ばれても行くのやめようと決めた。だがもう職場の飲み会には間に合わない状態であった。


 そして数日前だ。


 また内科主治医と整形外科主治医が勝手にスケジュールを決めてしまい、8月某日に田舎に来いと言われた。

 ……。

 その日は俺の誕生日なんだが……。父は「貴兄の誕生日ではあるが、来い」と、『BLEACH』の朽木白哉からしか聞いたことのない「貴兄」呼び、口調は1話でシンジをネルフに呼ぶ碇ゲンドウであった。

 しかもその日は弟の新盆であり、妹に来るし、弟が他界した時に父以上に我が家を支えてくれた方たちも来る。そういう理由で行けないと言ったところ、父はLINEで抵抗する。


「東京でお盆をやるなら7月にやれ」

「坊主を呼ぶわけでもないなら田舎に来い」

「朝田舎に来て夕方東京に帰れ」

「お盆なら田舎のお盆詣りに来い」

「本はもういらない」


 めちゃくちゃだな。

 電話したが……。


「来るならなるべく早く来い。早く退院したい」


 と主張する。用意が出来るまで退院はさせねぇと言っただろうが、先生たちよ……。なんで全部勝手に進めちゃうの。しかも認知機能の弱った父を通すことで曲解して伝えられ、何が正しいのかわからない。しかも病院に俺はクレーマー扱いされているため、もう話したくもない。


 とにかく俺は、恩師、同級生と三人での食事、友人との花火、地元のお祭り、ポケモン世界大会を優先したい。俺のキャパは既に超え、超える前に十分にやれることはやってきたつもりだ。

 ……それでも田舎には行かざるを得なくなってしまったんですけどね。

 それではまた、田舎に逝ってきます。

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