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三篠家離散日誌  作者: 三篠森・N
第1章 三篠家崩壊編
16/31

第16話 訪問看護師さんに会いに行く。

 訪問看護師さんに会ってきた。

 上手く言いくるめられた感はあるが、俺も攻撃的な姿勢はとらず2時間話し合い、同じ方向を向けたため一応の報告とする。


 前回の『離散日誌』の後より俺がとった行動は以下のとおりである。


・昼休みを使い、厚生労働省、東京都、住んでいる区の保健担当者に連絡と相談。

・母の次の住まいを探す。

・家の買取・下取り先を探す。

・訪問看護師さんとの面談。

・転職活動の一次面接。


 転職活動の面接については、一次面接の時点で配属部署と配属日を伝えられたのでほぼ決まりとみていいだろう。

 ほぼ決まり、ということで、弟と向き合うために現在の職場を早期退職しようと一度はその旨を上長と人事に伝えたものの、強く制止され現在は考え中だが、9.:1の9で残留に気持ちが傾いている。

 前回のファミレスの後はとにかく否が応でも、誰かが犠牲になってでも取り組まねばならないと考えており、俺が早期退職という形で犠牲にならねばならないだろうと考えていたが、使い切った有給の再給付もあるし、時間に融通は効くだろう。それに現在の職場には大きな愛着と恩があるため、後ろ足で砂をかけるような真似はしたくないし、こういうと傲慢かもしれないが、それが早期退職すると犠牲になるのは俺だけではなく職場もなのだ、と考えを改めることにした。


 また、とにかく弟を病院なり施設なりにぶち込んで報いを受けさせるというのも現実的な方法ではないと各窓口で伝えられた。ただし決して無理ではなく、ウラ技じみたものではお隣さんと手を組み、弟を法的に追い詰めるという提案も東京都からあった。


 ただどの部署の方々も一様に口を揃えるのは「母が限界に見えるので母をどうにかすべき」であった。

 母に正気を取り戻してもらうことで弟と距離が出来、引き剥がすことで弟との関係性も変化が生じるだろうということだ。

 元より非常に頑固であり、俺がいくら療養しろと言っても耳を傾けない母である。どうしたものか、と考えるうちに訪問看護師さんとの面談日へ。


 ちなみにその前に、訪問看護師さんが俺の介入を弟に伝え、一暴れあったと母から報告があった。

 それに加え電話での恫喝・暴力行為肯定発言から強い不信感を持って臨んでいたが……。

 また、京都アニメーションの被告と同じく逆恨みを妄想で肥大させて拠り所とする他者への害意と一切の反省のなさ、そして区の保健士に鼻の下を伸ばしていた過去から訪問看護師さんも若い女性かと思いきや、訪問看護師さんは子供もいて母より少し年下であった。


 俺は事前に作っておいた3000字程の家族の過去、家族がいかに弟にチャンスを与えてきたか、どのような被害を受けてきたか、現在母がどれだけ壊れているかをお伝えしたところ、訪問看護師さんにとってはほとんどが初耳であったようで、弟が妹や父に暴力を働いたことを全く知らず驚いており、これはもう「イライラの解消ではなく家族観であっても犯罪行為」と理解を示してもらえた。また、母の現状についても驚いていたようで、気丈にふるまっていて弱っている様子はおくびにも出さないようなのでそれもまた寝耳に水であったようだ。

 これは当たり前のことだが、訪問看護師さんが知っていることは全て弟の口から語られたことのみなので、弟が話さなかったことは基本的に知らないのだ。

 ……と言うとでも思ったかッ!

 「そんなことがあったなんて!」「そんなに大変だとは知りませんでした!」「お兄さんも大変でしたね!」という言葉はとても直接的な救いの言葉であり、それを言われると俺は簡単に気持ちよくなってしまうのだ。本当に訪問看護師さんが知らなかったかどうかはわからない。だが相手が知らないことを伝え、リアクションをとってもらうことは蜜の味である。

 先日の電話で俺の言葉に含まれていたトゲを訪問看護師さん、それも精神科専門である訪問看護師さんは察し、上手く宥められていたのかもしれない。

 だがこうした猜疑心すら俺にとっては……。

 京都アニメーションの事件の裁判で遺族の一人が語っていたように、

「善人だった私は、犯人に明確な殺意を持った悪人の予備軍となりました」

 の言葉の通りであり、俺は立派な悪人予備軍、もしくは号泣する母に対しても追い打ちをかけ、職場に迷惑をかけて早期退職しようとする現状は悪人なのかもしれない。悪人予備軍だから過剰な猜疑心も持つ。

 自分が悪人予備軍になった辛さも吐露した。ありとあらゆる形で、このまま泣き寝入りは出来ないこと、母と弟が共倒れになる最悪の事態、一生使えるはずだったマイホームを手放してまで弟との決着を図る父の無念と、とにかく早くどうにかせよ、とフジキドに無茶ぶりするナラク・ニンジャのように訴えた。

 ……。

 そして辿り着いた結論が、「母をどうにかする」である。

 一年くらい旅行に行ってもらうとか、カウンセリングにかかってもらうとか、具体的な提案を向こうからも出してもらい、弟への愛と自己犠牲に酔ってしまってもう俺たちの言葉が届かない母に、自分優先にするよう説いてもらうことになった。

 実際に区の担当者も母の希死念慮に非常に大きな懸念を抱いており、母に変わってもらわねばならないこと……。

 そして経済的困窮を解決するために弟には障害者手帳を取得してもらい、障害者年金で家計の負担を減らしてもらうことでも意見は一致した。ただし弟は自分のスペックが低いこと(中学時と大学卒業時に知能検査を受け、悪い数字が出た)を認めているが障害者ではないと主張しているためそれを受容させるのはかなり難しいと言われた。

 ……。

 これでいいのかな?

 俺と父が決意した、起死回生の家売却と母夜逃げによる弟への報い。それを俺は半ば諦め、この問題の解決が訪問看護師さんの双肩にかかっているという現状は何も変わっていない気がする。……。……元々猜疑心が強い俺である。今回の2時間の面談での訪問看護師さんのリアクションが「初耳のふり」であったら俺の完敗である。

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