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三篠家離散日誌  作者: 三篠森・N
第1章 三篠家崩壊編
15/31

第15話 ファミリーレストランはファミリー断裂レストラン

 前回は申し訳なかった。

 誰も俺の愚痴など求めてはいない。引きこもりを抱えた家族はどうすべきか、或いはどうなってしまっているのかどうなっているのか、そういった現状をお伝えし、目的と手段を探っていくのが本随筆の主題であるということを俺自身が忘れてしまっていた。


 そのため今回は進展の話である。……ほんの少しだけれど。

 まず前回明かした推薦の話は通った。後は俺の面接や書類作成などで決着がつくため、推薦自体が立ち消えることはないだろう。それにより有給ではない通常の欠勤も致し方なしと少しは思えるようになった。


 ここ最近、母が父を頻繁に東京に呼び出しているようだ。

 そして先日、三人で回転寿司で食事をし、その後しっかりとファミリーレストランで腰を据えて弟のことについて話をした。

 まずは俺が主張した。主張した内容は以下のとおりである。


・弟も苦しい、弟も悩んでいて可哀そうだということだが、俺や妹、そしてもちろん母も働いている。父は定年退職したが、お金のやりくりなど悩みの種は抱えている。それらは外部に起因する悩みであり、それに加えて我々家族全員は内部から来る悩みを抱えている。例えば俺は給料が安い、父は孤独に苛まれている、妹は弟のせいで結婚できないなどだ。弟以外は内と外、それぞれの悩みを抱え、それでも社会の中で活きているのに内からの悩みしかない弟がその悩みをタテに何の義務果たさず家族を害しているのは「のうのうと」過ごしているにすぎず、同情の余地はない。


・弟は孤独に悩んでおり、社交的な母が友人と遊びに行くことに嫉妬してその交遊に圧力をかけているが、それはDVである。


・母の精神状態は正常ではないため、カウンセリングなどしかるべき方法での治療を強く推奨する。そうでなければ現状維持すらままならない。


・両親の離婚に対し抵抗を持っていたが、両親が離婚することで弟の問題が進展するというのならばもう反対はしない。


 主な内容は以上である。

 それに対する母の反応は号泣であり、


「死にたい」

「誰か代わりにやってみろ」

「(父に対し)離婚してください」

「私がすべて悪いんです」

「私の人生は無意味でした」

「誰も私のフォローはしてくれない」


 といったこちらの主張と提案に対し回答になっておらず、会話が成立しない状態であった。だからカウンセリングにかかれと勧めても相変わらず


「そんな時間はない」


 の一点張りであり、ついに俺は父に


「もうやめてやれ」


 と軽く制止されたが、「耳の痛い話もしなければならない」という言葉を先に使ったのは母であり、自分だけ都合よく父に離婚してもらってスッキリしようなどと言うのは認められない。ハッキリ言ってそれは現状に対する八つ当たりであるように思えた。

 ちらりと聞こえたのは母は父に「大変だったね、なんて肩を抱いて言ってほしかった」などと女子高校生のようなことを言っていたが、元より具体的過ぎる理想像を掲げ、その通りに行かないからと機嫌が悪くなるのは実は俺が小学生の頃からだった。

 そして号泣の果てに母が絞り出したのは


「こんなに責められてブロリーが可哀そう……」


 であった。

 この随筆を読んできた方なら、この言動が俺を心底落胆させるに十分すぎる威力を持つことをご理解出来るだろう。


 母は号泣、父は「やめたれ」だが俺も怒りが頂点に達した。あらかじめ用意しておいた二の矢を放つ。


「このまま進展しないならニート追い出し業者に依頼する」


 とあらかじめブラウザに開いてあったニート追い出し業者のページを父に見せる。これは初期費用で100万円かかるものであり、これは俺による脅しである。最終手段ではあるが、覚悟はあるぞと表明したのだ。


 それにあたり三の矢として、本当に行政・医療を利用した弟の環境の強制的・半強制的な変更手段は存在しないのかを尋ねたが母による回答は


「ない」


 であり、訪問看護師には心を開いて話しているからとお決まりの文句。そして強制的に家から出そうというのなら弟は抵抗し、必ず脱走して報復するだろうと逆脅迫をかましてきたがそれはもう俺と父には無効である。

 既に俺と父は、事前の打ち合わせで実家を放棄することを決めていたのだ。

 そして何かある度に「代わりにやってみろ」と母が言うので、今後は俺と父が主導して弟の問題に取り組んでいくと断言した。


 それを聞いた母はひたすら嗚咽の合間に弟を憐れむ言葉を吐いていた。

 ファミリーレストランにて、我が家は離散はしなかったが何かが決定的に断裂した瞬間だった。


 その後駐車場にて、それでもまだ弟ファーストで俺たちを責めるような論調の母に俺はマジでブチギレた。


「俺は何度も弟にチャンスをやった。昔一緒にモンハンをやったから今度やる新作を一緒にやろうと誘ったがあいつはswitchを持っていないからと断った。だからswitch本体を買い与えて、ソフトを買えと商品券1万円分を渡した。クリスマスプレゼントにプロレスの選手名鑑をプレゼントしたが受け取り拒否されて、その後開封すらされずに捨てられた。俺が去年壊れた時は誰も助けてはくれなかった。一昨年、虫が怖くて極限状態だった時も誰も助けてはくれず“我慢しろ”、“親はいつかいなくなる”としか言われなかった。何も我慢してない弟は親に依存しきっているのに弟は何なんだ。自分を養っている唯一の味方のストレス解消すら妨げている。他人の足を引っ張ることしか出来ないカス。もう治らないカス。死ぬしかない」


 この捨て台詞をファミレスの駐車場で吐いた。先週の土曜の夜である。先週の土曜の22時の出来事である。その後一時間もしないうちに俺は毎週土曜夜の勉強会に参加した。あの時の俺はこの出来事の直後でした。


 翌日である日曜日より俺と父は具体的な行動を開始した。

 喫緊でやらねばならないタスクは以下のとおりである。


・母の避難先の選定

・訪問看護師からのヒアリング

・実家の下取り

・本当に弟の環境を強制的・半強制的に変える手段がないのかもう一度リサーチ


 である。それに加え俺は転職活動の本番もある。

 で、昨日だ。俺は弟の訪問看護師と電話で軽く話をした。一応、俺が訪問看護師との話を希望しているという点に関しては母から事前に訪問看護師に通告があったようだが、母は俺を「発達障碍者」と決めつけて憚らないのでどのように伝わっているかは不明である。


 まず会話の内容として、俺と父が今後は主導して弟の問題に取り組んでいくと話すと電話の向こうの訪問看護師は訝し気。まるで俺と父が主導するなら協力はしないとでも言いだしそうな空気だったため、

「正確には私と父と母の三人で取り組んでいきます」

 と言葉を繕う。

「そのことはブロリーさんはご存知ですか?」

「いいえ、知りません」

「ならば、次回の訪問でブロリーさんにお兄さんの介入をお伝えします」

「いえ、それだと弟が暴れてしまう可能性がありますので、一旦明かさずにお願いします」

「あの……暴れるとはいったいどのようなことを指すのでしょうか?(イラつき気味)」

「そうですね。壁や家具を殴る、大声を出すといった恫喝行為です。先日父が帰省した際もそのような行動をとっていたと聞いています」

「恫喝(笑)」

「恫喝でなければ何でしょうか?」

「それは、ブロリーさんなりのイライラの解消ですから、止めることは出来ません」

「……(絶句)」

「次回の訪問時に、お兄さんと私がお会いすることをブロリーさんにお伝えしますね」

「ですので、それは一度保留とさせてもらえないでしょうか」

「制度として明かさなければならないということはないですが、明かしたいという私の気持ちです」

「……ッならば、明かしてほしくないというのが私の“気持ち”です」


 マジかよこいつ。使えない……というか、いつまでも弟が良くならないはずである!!!

 母が大号泣したこと、その大号泣にさらに追撃した自分の正気、それ以上にこの訪問看護師にショックを受けた。

 自分の主張は正当だと、家族に対する殺害宣言と恫喝行為(訪問看護師によると(笑))を繰り返す弟。

 何があっても「あの子が可哀そう」と号泣する母。

 そしてこの訪問看護師。

 ……なんやこの厨パァ! 全盛期ザシアン、全盛期メガガルーラ、全盛期ウルトラネクロズマだろこんなの。


 次回。

 三篠森・N vs 訪問看護師。

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