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三篠家離散日誌  作者: 三篠森・N
第1章 三篠家崩壊編
12/31

第12話 三篠森・Nは夢を見る。何も終わっちゃいない!

 だいぶ時間が空いてしまった。

 報告することが何かあってもなくても悲報でしかないのがこの随筆の辛いところだ。報告することが何もない……。つまり、弟の状態は一向によくならず、もう強い言葉を解禁するがクソの役にも立たねぇ訪問看護師や保健師共はまだ「ブロリーさんの気持ちを尊重」とか抜かしよる。何年かけるつもりだ。何年かかるんだ。何年経ったら俺は実家のニャンコたちに会えるんだ。兄猫の方はそろそろ寿命の心配もある。そして、兄猫が死んだところで会わせてくれるブロリーではない。

 ブロリーの中に俺たちを「許す」「許さない」の概念はもうないということは前回のこの随筆……。コロナの疑いがあって抗原検査のために立ち寄った実家で、鬼のメンチを切られた時にはもう気付いていた。

 あいつはもうただただひたすらに自制が利かず、嫌悪する相手には嫌悪感を隠せず、その嫌悪感が募って「暴れたい」という気持ちが少しでも湧いたら抑えることが出来ず暴れてしまう。

 人間性など既にないのに、まだクソ野郎の訪問看護師は「気持ちを尊重」?


 また、この随筆の初回でも書いたが俺もメンタルにはかなりの難があり、温かい時期になると特定の生物が怖くて常時精神をすり減らす生活になってしまう。そういう季節がやってきた。

 二年前は「実家に逃げればどうにかなる」と思っていたがもうそれも出来ない。解決策は一切思い浮かばず、ただただ怯えるしかない。


 そして昨年の秋から冬にかけて、俺は弟関連で気持ちを病み、適応障害になって仕事を2週間休んでその後は1回7000円のカウンセリングのために仕事を休みがちになって大変な迷惑を職場にかけ、俺が稼いだお金は数万単位で消え、勝ち取った有給の権利も弟のせいで二桁消えた。


 それでも温かく迎えてくれた職場。そんな職場に迷惑をかけてしまったことが忍びなかったが、本当にいい人たちが集まっている職場であり、この度、職員野球に誘われた。


 俺は2010年~2011年の短い間、草野球をやっていた。

 それまで野球経験はなかったが、この頃浪人をやっていた俺は草野球専用SNSで、似たような野球初心者と未経験者の集まりに参加し、チームを立ち上げた。

 偶然にも東北出身者が多く、そのほとんどが3.11の震災をきっかけに東京を去り、チームは解散した。


 だがその頃は当然だがグローブを使って野球をしていた訳だ。

 野球未経験者だから捕球がとんでもなく苦手、でも壁あてをしまくっていたから方が初心者にしては強い、ということで、サード→ライトとゆく先々のポジションで失格の烙印を押され、最終的にピッチャーに落ち着いた。


 そんなわけで、ブランク12年。バッティングセンターには通っているので打撃は多少の劣化で済んでいるだろうが、守備……。


 なんと、今の俺はグローブを持っていない。

 俺と同じく実家追放されている父は新潟で昔の仲間と草野球をしているのだが、その父にグローブを貸してしまったのだ。

 そのため、職員野球に参加するに従い、グローブを返してほしいのだが、そうなると父のグローブがなくなる。じゃあ、野球に参加どころかキャッチボールの相手すらいない弟のグローブを父のところに送り、俺のグローブは父から返してもらおうと思ったのだが、クズの弟は拒否。

 どうにか父からグローブを返してもらいたい俺はその旨を伝えたのが、父からの返答はまさかの返却拒否である。


 父は貧しくなった。

 この随筆では過去に触れたこともあるかもしれないが、全盛期の父はよく稼ぎ、母も看護師のため我が家は比較的裕福であった。

 だが退職した父はケチになり……。

 退職直後は、たまに家族で集まる時は金に糸目をつけずいいものを食べさせてくれたのに、最近では牛角ですら渋る程だ。牛角は十分に贅沢な食事だが、全盛期の父から比べれば牛角を渋るのは落差が激しい。


 そんな父は俺にグローブ返却拒否。

「お前は子供の頃に俺のグローブをなくしたことがあっただろう」

「他の人から借りろ」

「このグローブは使いやすい」

 お前……。職員野球って全員野球しに来てるんだからグローブ貸してもらえるわけないだろ……。


 しょうがないので新しいグローブを買う、と俺は半ギレで父に伝えたが父は「本当に今後使うかどうか考えて買え」と説教をプレゼント。


 弟さえ、弟にまだ日本語が通じて小学生並みでもいいから理解力が残っていればよかったのにと思うことはままあるが、職員野球に誘ってくれた同僚の善意が俺を通すと家族の悪意に変わるという悲しみを感じた。




 ……。

 最近、母の様子がおかしい。妙に甘えてくる。一緒に映画を観に行こうと誘ったり、家に上がらないかと……。

 と、同時に先日の牛角での食事でも、弟のことを聞くと母のスタンスも「時間をかけて弟の気持ちを最優先」に戻っていたこと、そしこの随筆では書いた、昨年の夏に俺が帰っただけで弟が泣き喚きながらフルパワーで暴れたというショッキングな出来事を忘れていた。


 なんだか実家を追い出された時と同じくらいの話の通じなさを思い出した。


 ……。

 何も! 何も終わっちゃいない! 

 俺と母と父は金を搾取され! 精神の健康も損なわれ! 猫に会う権利や実家すら奪われた! それでも弟は使いもしないグローブ一つ俺たちに渡さない!

 ……夢を見るんだ。ここ最近、弟の悪夢ばかり見る。

 なんでか知らないが弟が不死身になり、それを殺さなければならないと使命感を覚えた俺は金属バットで弟を滅多打ちにする。それでも死なない。

 母に、弟の状態が悪いからと今度は東京を追い出されて新潟の父の家で暮らすよう命令される夢を見る。「なんでこんなことになるまで、悠長に弟を放っておいたんだ」と言っても話が通じない。夢の中で俺は「じゃあ明日までにこの町に映画館と東京国立博物館を建てろ! そうしたら新潟で暮らす!」という。すると母は「わかった」という。無理に決まっているのに、母は俺はもちろん、父や妹よりも弟を尊重する。

 何も終わらない。俺たちは日々貧しくなる。父の懐だけでなく、心まで貧しくなっていると感じた。


 ……。

 何も終わっちゃいない。

 最近弟の夢ばかり見ることで、また俺の心を弟が侵食しつつある。また辛くなっていく。




 ……。

 拙作『アブソリュート・トラッシュ』に(ヒジリ)(タスク)というキャラクターが出た。

 非常に強力な怪獣だがニートであり、家族は世間にその存在を隠している。その口止め料、そして「産んだ責任を取れ」という言葉の慰謝料として、ヒジリ・タスクの親はタスクに何でも渡す。

 本当は俺はこいつに弟を投影せず、こいつ自身はそこそこ強く活躍するつもりだったのが、まぁいろんな理由があって噛ませ犬になった。噛ませ犬にしたところまでは想定内かつ問題のない判断だったのだが、タスクが倒された後のタスクの家族のセリフは……。

 タスクに弟を投影してしまった俺の私怨も混じっていた。


 そろそろ、もう一度カウンセリングにかかった方がいいかもしれない。

 1回7000円、有給一日を搾取されて。

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