第97話 熱い視線
色々あったものの、なんとか身体を洗い終え、脱衣所に戻った。
置かれているタオルを手に取り、鈴ちゃんの頭に被せてワシワシと拭いていく。
「きゃっきゃ!」
「はーい、大人しくしましょうねー」
「はぁーい!」
「んー、良い子だ」
「鈴、良い子?」
「ああ、よしよし」
「えへへー」
鈴ちゃんを拭き終わったから、今度は自分を――
「あー、鈴がやる!」
「お? じゃあお願いしようかな」
「うんっ!」
鈴ちゃんが拭きやすいように、かがまないとな。
またナームコが鈴ちゃんを抱えることになったら大変だ。
今度はなにを請求されるか分かったものじゃ……?
「……」
なんか視線を感じる。
上を向くと、タオルを身体に当てたまま動かないナームコが、俺を見ていた。
「なんだよ。言いたいことがあるならはっきり言え」
「なんでもないのでございます」
「そうか?」
「別に、わたくしも兄様に拭いてほしいとか、思ってないのでございます」
「あんたはなにを言ってるんだ」
「ですから、そんなこと思ってもいないのでございます」
それって思っているってことだろ。
面倒くさいヤツだな。
「ほれ、貸してみろ」
「え?」
「あ、パパ! 立ったら拭けないよぉ」
「ごめんね、ちょっとだけ待っててね」
ナームコのタオルを奪い取り、身体を拭いてやる。
ま、少しくらいはいいだろ。
「これでいいか? 頭は自分で拭けよ……って、なに泣いてんだ」
「なんでもないのでございます。ありがとうございます。わたくし、生きてて良かったのでございます」
そこまでかよ。
本当になにを考えているんだ。
俺は本当のお兄様じゃないんだぞ。
忘れていないよな。
「ごめんな鈴。続きを頼めるかな……鈴?」
「ぶーっ」
「ああ、ごめんね。本当にごめんね」
ギュッと抱き締めて、頭をナデナデする。
まさかそっぽを向いてむくれるほど機嫌を悪くするとは思わなかったぞ。
「もー、しょうがないなーパパは」
「許してくれるのかい? 鈴は優しいなぁ」
「うん、許してあげる。拭き終わるまで、大人しくしてなきゃダメだよ」
「はぁーい!」
「はぁ……」
なにため息吐いてんだよ。
別にこのくらい普通だろ。
違うの?
拭き終わったら、今度は服を着る番だ。
さすがトレイシーさん、鈴ちゃんの服をちゃんと用意してくれている。
これ、もしかしてエイルのお古かな。
あんまり女の子っぽくない気がする。
動きやすさ第一みたいな服だ。
それでも、最初に着ていた病院服? よりはずっといい。
「うにゅ?」
「どうしたの?」
「鈴、こういう服着るの初めてー」
「そうなの? いつもさっき着てた様な服を着ているの?」
「うんっ!」
え、もしかして鈴ちゃんって、なにか病気を患っててずっと病院暮らしなのか?
そんな子を連れてきたのか?
抜け出してきた?
そもそも何処から連れてきたんだ?
聞きたいことは山ほどある。
「パパ?」
「ああ、ごめんね。さ、服を着ようか」
「うんっ!」
パンツをはかせて、肌着を着せる。
今度はちゃんと上下ある。
部屋着は、普段エイルが着ている服を、そのままちっちゃくしたような服だ。
子供の頃からずっとこんな格好だったのか。
というかこれ、作業着だろ。
「きつくないか?」
「平気だよ!」
「そっか」
今度は自分の服を着る。
また〝鈴が着せる!〟って言い出すかと思ったが、じっと見て待っていた。
なんだろう。
股間に熱い視線を感じるんだけど、気のせいだよな。
飴と鞭は大切なのです
次回は先輩は手が早かったかという検証です