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第96話 大っきいのちっちゃいの

「パパ! 足を(あや)うの!」

「はいはい」


 言われるままに足を伸ばす。

 太ももからつま先まで、丁寧にゴシゴシ洗ってくれる。

 足の裏が少しくすぐったい。


「パパ立って! 最後はお尻!」

「よし、もう少しで終わりだぞ」

「うんっ!」


 これで全身くまなく洗われたことになる。

 そう、全身だ。

 みなまで言うな。

 頭は座っていても、背伸びして漸く届くくらいだから、ナームコに洗ってもらう。


「やーっ、頭も鈴が(あや)うの!」

「手が届かないんだから、諦めなさい」

「ぶぅーっ!」

「はい、これでよろしいでございますか?」


 なにを思ったか、ナームコが鈴ちゃんを抱えて俺の頭に手が届くようにしてあげた。

 あんなに俺を洗いたがっていたのに鈴ちゃんに譲るなんて、どういう心境の変化だ?


「あ()がとう、ナーム叔母さん」

「ナームコお姉さんでございますわ」

「ごーしごーしごーしごーし」


 そういう狙いか。

 でも残念だったな。

 鈴ちゃんは全く聞いていないみたいだぞ。


「パパ、ちゃんとお目々つぶって()?」

「ああ、つぶっているぞ」

「うん、いいこいいこ」

「ふふっ、ありがとう」

『何故頭を下げなかったんだ?』

『え? ……あ!』


 その手があったかっ!

 何故そんな簡単なことができなかったんだ?

 過ぎたことはよしとしよう。

 最後はナームコにシャワーで流してもらい、サッパリする。

 なんだろう。

 お肌がプルンプルンになっているような気がする。


「よし、じゃあ出ようか」

「うん!」

「兄様、わたくしは洗って頂けないのでございましょうか?」

「え、まだ洗っていなかったの?」


 さっき洗っていたような気がするんだけど。


「いえ、一応1人で洗い終えているのでございますが……その。先ほどスズ様のお手伝いをしてあげたのでございます」

「そのご褒美に洗ってほしい、と?」

「ご褒美と申しますか、その……でございますね、えっと……」

「まさか洗ってもらうことが目的で、あのことを先に言わなかったのか?」

「そ、そのような姑息なことをするはずがございませんことよ」

「そっか、じゃあ――」

「鈴が(あや)ってあげ()!」

「え、鈴がか?」

「うん!」

「んー、だそうだが……まさか断るなんてことは、無いよな?」

「う……あ、ありがとう……ございます。ううっ、くっ」


 鈴ちゃんに洗われながら、サメザメと泣いている。

 そうか、泣くほど嬉しいか。

 よかったな、ナーコム。

 鈴ちゃんに言われるがままされるがまま為すがまま、無抵抗で洗われている。


「ふぉぉぉぉ!」

「ん? どうした」

「おっきい!」

「え? あ、ああ。そうだな」


 子供でもそういうのに興味あるのか。


「むー。鈴、ちっちゃい」


 いやいや。

 鈴ちゃんの年齢で大きい子は、そうそう居ないぞ。


「そのうち大きくなるさ」

「本当?!」

「鈴は大きくなりたいのか?」

「うん!」

「そうか。なら大きくなれるさ」

「わーい! パパ、おっきいの好きなんだよね」

「……え?」


 そんなこと子供に言ってたのか!

 とんでもないパパさんだな。


『マスター、そうなんですか?』

『タイム?!』


 ヤバい!

 とんでもない爆弾だった。


『どうなんですか』

『こ、子供の言うことだぞ。そもそも、俺はパパじゃない』

『じー』


 いや、そんな見つめられてもな。

 てか、そんなことのためだけにわざわざ出てくるな。


「パパ?」

「ああ、ごめんごめん。好きだぞー大好きだぞー」

『やっぱりそうなんですね!』

『違うからな! 鈴ちゃんのパパ像に合わせただけだからな』

『じー』


 だから疑うなって。


「鈴のおっぱいはちっちゃいから(きや)い?」

「そ、そんなことないぞ。ちっちゃくても、これから大きくなるんだから、大好きだぞー」


 って、なに言ってんだ俺。


『大きくならないタイムの胸は嫌いってことですか?』


 だーかーらー!

 いちいち反応しないでほしい。


『どうなんですかっ』

『おっきいのが好きです。でもちっちゃいのは、もっと好きですっ!』


 って、なに言ってんだ俺。


『じー』


 もーいや。


「ふふー」

「さ、早く洗ってあげなさい」

「はぁーい!」


 はぁ……疲れる。

はい、いつものパターンでしたね

次回はシャワー室から出ます

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