第93話 相手は誰だ
やれやれ、なんでまたナームコと一緒に入らなきゃならないんだ。
ま、エイルの話だと、この世界の人には猛毒な物質が鈴ちゃんに付着してるから、他に選択肢が無いことになる。
だから今日だけだ。
……鈴ちゃんとは、これから毎日入らないとダメなのか?
「パパー!」
ん?
バンザイして俺を呼んでいる。
「パパ?」
え、もしかして俺に脱がせて欲しいのか?
仕方ないな。
この服、ワンピースと言うより、病院で検査を受けるときに受診者が着ている上着に似ている。
凄くダボダボだ。
とにかく、裾を掴んで服を脱がせる。
「きゃはははは!」
なにがそんなに楽しいんだ?
しかし、服の下はパンツしかはいていないぞ。
寒いだろうに。
「パパー!」
今度はナームコがバンザイして俺を……待て待て。
「俺はいつからあんたのパパになったんだ?」
「呼び方は年少者に合わせるものなのでございます、旦那様」
「誰が旦那様だ! 兄様じゃなかったのか?」
「兄様?! とうとうご自分を――」
「認めていないっ!」
「まだ肝心なことを申し上げていないのでございます」
「言わなくても分かるわっ!」
「ああ、ついに以心伝心の仲になったのでございますね」
「寝言は寝て言えっ」
「パーパ!」
「ああ、ごめんねー、はい」
パンツを下ろしてあげると、ピョンコと飛んで抱き付いてきた。
「きゃあ!」
本当に楽しそうだな。
なんか、俺もちょっと楽しくなってきた。
「こーら、動けないだろ」
「あはははは! シャワー! シャワー!」
「ほら、パパも脱ぐから、少し待ってなさい」
「はぁーい! あははははは」
なんだろう。
あの乗り物? から降りてきたときは、凄く大人しくてオドオドした子だと思ったんだけどな。
凄く元気で、いい顔して笑う子じゃないか。
「よし、じゃ入ろうか」
「パーパ、だっこぉ」
「しょうがないなー、ほら」
「きゃはははは!」
「本当に兄様の御子なのか?」
「そんなわけないだろっ!」
「ひうっ!」
「あ、ごめんね、ビックリしちゃった?」
「鈴、パパの子じゃないの?」
「あ、えっとー」
違うというのは簡単だ。
でも、何故だか否定しづらい。
「鈴、悪いことしたの? ちゃんと謝るよ。ぐすっ。ごめんなさいするよ。だから、うぐっ」
「あー違うぞー、鈴ちゃんは悪いこと、なーんにもしてないぞー。鈴ちゃんは、パパの子だぞー」
ってなに言ってんだ俺。
でもこの子が生まれた頃って、俺が死ぬ前だよな。
つまり記憶が無いだけで、俺は既に童貞ではない……と?
うう、記憶が無いからなにも覚えていない。
相手は誰なんだ!
「嘘だ。パパは鈴のこと、〝鈴ちゃん〟なんて呼ばないもん。ぐすっ。やっぱり鈴はパパの子じゃないんだ、うう」
ええっ?!
じゃあなんて呼べばいいんだ?
俺のお父さんは、俺のことをなんて呼んでたっけ……って、分かるわけないだろっ!
詰んだ?
いや、トレイシーさんはエイルのことを〝エイルさん〟って呼んでる。
つまり、〝鈴さん〟って呼ぶのが一般的なのか?
『呼び捨てにしてみろ』
『えっ? 呼び捨て?』
『そうだ。親は子供のことを呼び捨てにすることが多いぞ』
そうなのか。
……そうなのか?
ええい、悩んでいる場合じゃない!
よし、呼び捨てだな。
「なに言ってるんだよ、鈴。久しぶりだから、ちょっと間違えただけじゃないか。鈴は、パパの子だぞ」
「本当?」
「ああ、本当だとも」
よかった。
呼び捨てで合ってたみたいだ。
「そして、わたくしがママなのでございますのよ」
「ひゃーっ!」
「そんなわけないだろ。鈴が怖がっているじゃないか。あーよしよし」
まったく。
誰がママだよ。
「バカなこと言ってないで、さっさとシャワーを浴びるぞ」
「扱いがぞんざいなのでございます」
「パパ。どうしてナームオバさんと一緒に入るの?」
「ナームオバ……プッ」
「笑うな!」
「あっはははは! そうか、そうだな。ナームコ、妹と認めてやってもいいぞ」
「本当なのでございますか?!」
「ああ、本当だ」
「ああ、やっと認めてもらえたのでございますね。ナームコ、感激で涙腺が緩んでしまったのでございます」
「そうか、よかったな。涙腺が緩んだのは、歳の所為じゃないか? ナーム叔母さん」
「な……んだと」
「俺の妹なんだろ。つまり、そういうことだ」
「くっ、まさかそんな裏があったとは……嵌められたのでございます」
「そう言うな。妹には違いがないんだからさ」
「うう、素直に喜べないのでございます」
「いいか、ナーム叔母さんは、パパの妹なんだ。だから、一緒に入っても、おかしくないんだよ」
「そっかー、パパの妹なんだ。えへへ」
クロスアウッ!
次回は鈴ちゃんのシャワーシーンです




