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第86話 人類の進化は何処で行われるのか

 う、うーん、はっ!

 いけない、私気を失って……え?

 なに、これ。

 何処、ここ。


「気がついたか」

「ナームコさん?! ここは一体……」

「あの倉庫だが、あれはカモフラージュだ」

「カモフラージュ? なんの話よ」

「まあ聞け。実は3階と4階の間に隠し階があったんだ」

「隠し階?!」


 そんなものが?

 なんのために?


「ああ。どうやらそこでは非合法なことをしてたらしいぞ」

「非合法……」

「そうだ。あの子は、そのひとつだ」

「! そうだ、鈴ちゃんは?」

「勇者世界は科学の進んだ世界だったみたいだな。そしてとうとう物理限界を迎え、発展は滞ってしまった」

「ねぇ、鈴ちゃんは何処?」

「安心しろ。ちゃんと乗ってる」


 乗ってるって……

 多分ここはこの乗り物のコックピットだと思うけど。

 私とナームコさんしか座ってないわよ。


「そんなとき、古い技術が見直されることになった。そう、魔術だ」

「ちょっと待って。どうしてあなたがそれを知ってるの?」

「ああ、記録を見た」

「記録?!」

「話を戻すぞ。その魔術を効率的に使うには、大量の魔力が要る。だが魔力は持っていても、そこまで強力な魔力を保有する者は居なかった。そうだな」

「どうしてそれを私に聞くの?」

「今更だろ」


 う……

 分からない方がおかしいか。


「だから、居ないのならば作ればいい。彼らは人類の進化を試験管の中で行ったんだ」

「試験管の中で?!」


 体外人工授精は不妊治療でよくある話。

 でもそれは、あくまで不妊治療。

 進化?

 つまり遺伝子操作もしてるってことよね。

 国際法で禁止されてるヤツじゃない。


「やれることは全てやったんだろう。それでも、成果はあまり得られなかった。にもかかわらず、(がわ)だけはできあがった」

(がわ)?」

「今わたくしたちが乗っているこれがそうだ。一般人でも魔力はある。動かそうと思えば動かせるからな。使い捨てのカートリッジとして」

「使い捨て……」

「改造人間でさえ耐えられないんだ。一般人に耐えられるはずもない。それでも、兵器としては使い物になる。ここはその改造人間の工場だったのさ」


 工場……

 でも、それなら警備の厳重さも理解できる。

 いくらなんでもただの倉庫にしては、コストを掛けすぎだと思った。


「さて、聡明なお前なら、ここまで言えば分かるだろう。あの娘が何者なのか」

「嘘よね」

「事実だ。だからこいつが動いている」

「……どういう意味?」

「おいおい、話を聞いてなかったのか? 後ろを見てみろ」


 後ろ?

 振り返ってみると、液体で満たされた円筒状の透明な筒があった。

 その中に、鈴ちゃんが浸かっていた。

 焦点の定まっていない、虚ろな目をしている。


「鈴ちゃん!」


 駆け寄って筒越しに呼びかけたけど、私をチラリと見ただけで返事をしてくれない。

 筒を叩いてみたけど、反応してくれなかった。


「止めろ。水槽は叩くなと教わらなかったのか?」

「ナームコ! お前ーっ!」

「お前だなんて、そんな、わたくし、貴方と夫婦(めおと)になった覚えはないのでございます」

「ふざけないでっ! 今すぐ鈴ちゃんを出しなさいっ!」

「ふざけてなどいないのでございます。こほん、まぁ慌てるな。その娘はさっき話したようなことにはならん」

「どういうことよっ」

「その娘は、唯一の成功例だ」

「成功例? 魔力の?」

「そうだ。そしてこの船の中央制御装置としてプログラムもされている……らしい」

「らしいってなによ」

「わたくしにソフト面が分かるわけなかろう。全て書いてあったことの復唱だ。おい、エイルにもマニュアルを見せてやれ」

了解(いょうかい)

「鈴ちゃん?!」


 舌っ足らずなところは変わらない。

 でも、喋り方に感情があまり感じられない。

 言われたことに従順なだけの機械のように。

遺伝子組み換えではない……とかプロフに書く時代が来るんだろうか

次回は鈴ちゃんについてです

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