第81話 従順な犬ほど扱いやすい
先端が無数に分かれた鞭が覆い被さってくる。
しかし、その全てが私たちに届く前に、はじけ飛んだ。
魔力弾の攻撃を受け、全てが撃ち抜かれたのだ。
ありがとう。
信じてたわ。
貴方の言葉を、貴方の腕を。
デイビーさんが魔力弾の撃ち主を見る。
「僕に刃向かうのですか」
「我が輩の任務は、客人の安全を確保することであります。いかなる者が相手でも、それは変わらんのであります」
「兵長風情が。僕が報告しないとでもお思いですか」
「報告は無意味であります」
「無意味……とは、どういう意味でしょう」
「我が輩に送られてきた指令書を身分証に送信するであります」
「指令書……」
デイビーさんが身分証で受信した指令書を|フロートウィンドウに表示して《開いて》確認する。
すました顔が、段々と崩れていく。
っはは、良い眺めね。
頑張った甲斐があるというものだ。
「こんなものが……こんなものが本物だとでも言うのですかっ」
「正式な指令書なのであります」
「だとしても、僕の邪魔が出来ると思っているのですか」
「最後まできちんと読むであります」
「最後……なっ、そんな馬鹿なっ」
「異世界部門の構成員風情では、覆せないのであります」
うわっ、言うわね。
いくら指令書の出所が本部長だからって、強気すぎない?
お互いの関係まで変わってるわけじゃないのよ。
余程〝兵長風情〟と言われたのが、腹に据えかねたのね。
「そんなもの、偽造に決まってますっ」
「誰が偽造したっていうのよ?」
「貴方以外に、誰ができるというのですかっ」
「見つけたバックドアのよ、そのままにしたのよ?」
「既に排除済みです」
「ならのよ、うちには不可能なのよ」
「馬鹿な……」
大方、ダミーのバックドアを削除して、本体に気づかなかったんでしょ。
見つかることなんて、普通想定しておくものでしょ。
ま、こんなに早く見つけられたのは想定外だけど。
それでも問題になるレベルじゃないわ。
見つかってもなお生き残ってこそ、バックドアの意味があるのよ。
そんなことも分からないの?
素人もいいとこね。
「バックドアは排除した筈です。侵入できるはずが……貴様、まだなにか隠しているな!」
おお、ここまで感情をむき出しにしてるデイビーさんが見られるとは。
ふふっ、今夜はご飯が進みそうね。
「自分で見つけるのよ」
「っっっ!」
っはははは!
歯ぎしりして悔しがってる。
っくくく、いいわぁその顔。
久しぶりに子宮が疼いてしまいそうよ。
「貴っ様ぁぁぁ!」
私をたたき殺す勢いで鞭を振るい続ける。
それじゃ鈴ちゃんもただでは済まないでしょ。
まったく。
切れると見境がなくなるのね。
そんな鞭の連打も、全てロローさんが打ち落として防いでくれる。
凄いな。
これだけの能力を持ってしても、ナームコさんのゴーレムには勝てないのか。
デイビーさんはそのゴーレムを倒してここに来たんでしょ。
相性問題?
ロローさんがもう一丁短銃を取り出すと、デイビーさんの持っている鞭を撃ち落とした。
あれだけ激しく振り回してるのに、持ち手だけを撃ち抜いたんだ。
しかも利き腕じゃないはずよ。
相手を無傷のまま無力化するなんて、よくそんな真似ができるわね。
「無駄な抵抗は止めるであります」
「無駄? この僕のしていることが無駄だというのですか。兵長の分際で、図に乗るなぁ!」
そこへ、デイビーさんの身分証に通知が来た。
差出人は勿論私。
中身は私たちから手を引いて、中央に戻ること。
さて、どう出るかな。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なっ。あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないそんなこと本部長が、あのお方が仰るはずが無いっ! こんなものっ、偽物ですっ! 貴様の作った偽造文書ですっ!」
「本当に偽物なのよ?」
勿論、偽物よ。
私が偽造した、デタラメな指令書よ。
誰も見分けなんかつかないわ……本部長以外は。
本人に確認しても無駄。
代わりにタイムさんが出て答えるだけよ。
対面して確認しない限り、全て無駄なのよ。
「そんな……ここまで来て、手を引けと仰るのですか……」
漸く理解できたみたいね。
ま、相手が悪かっただけよ。
力尽くなら、私に勝ち目はなかったわ。
ちょっとだけど、楽しかった。
ありがとう。
「御苦労なのよ。また遊ぶのよ。さよならなのよ」
「くっ……必ず引き渡してもらいます」
「お断りなのよ」
デイビーさんを置き去りにして、埋め立て地へと向かう。
武器を構えた兵士たちの居る場所へと向かう。
その中心にはナームコさんが立っていた。
よかった。
こっちのデタラメも間に合ってたみたいね。
皆さんのパソコンに、バックドアは仕掛けられてませんか?
次回は第2戦目です




