第79話 揺れる心、固い決心
「分かっ――」
「お断りするのでございます」
ナームコさん?!
一言も喋らず大人しくしてたのに、いきなりなにを……
「エイル様はお父様を連れて帰るという使命がございます。中央に赴いておられる暇など、ございません」
そうだ、父さんを早く迎えに行って連れて帰らなくちゃ。
まさかナームコさんに言われてしまうとはね。
「彼女はなんと……」
「〝うちは結界外に居る父さんを迎えに行くのよ、中央に行く暇はないのよ〟って言ったのよ」
「デニス様のことですか。既に亡くなられたと記憶しておりますが」
「父さんは生きてるのよっ。今も外で生き延びてるのよっ。うちが迎えに行ってのよ、連れて帰るのよっ!」
「では、スズ様はお預かりしていきなす。よろしいですね」
「ダメなのよ」
「困りましたね。それでは、スズ様をお渡し頂けるなら、外へ出る許可証を発行してさし上げましょう」
「え……」
許可証……
それがあれば、父さんを迎えに行ける。
それにここで生活していくなら、言葉や習慣などは学んでいた方がいい。
だったら……
「お前はバカなのか! 許可証とスズと、どっちが大切なんだ。そんなことで迎えに来ても、お前の父様は喜ばないぞ!」
私は今、一体なにを考えてしまったの……
まさか、ナームコさんに咎められるとはね。
弱みにつけ込まれてしまったわ。
正々堂々、試験を合格すればいいだけよ。
「許可証は要らない。鈴ちゃんも渡さない。この子は、私が守るわっ。貴方たちになんか、渡してやるものかっ!」
「オバさん、痛いよぉ」
「あ、ごめんなさい」
思わず強く抱き締めすぎてしまったわ。
なにを感情的になってるんだか。
落ち着け……落ち着くんだ、私。
『逃げるぞ』
『え、逃げる?!』
『スズを奪われたいのか?』
『そんなわけないでしょ。でも、ロローさんに迷惑が掛かるわ』
『ロローもあっち側の人間だ。気にするな』
『そんなわけには……』
『イヤホンの代金だと思えばいい。かまわんな?』
『了解であります』
『ロローさん?! 聞いてたのね』
『我が輩、客人を守るのが仕事なのであります』
『それが通るとでも?』
『気にしなくていいのであります』
気にしなくていい……か。
なら、遠慮無くお言葉に甘えましょう。
覚悟を無下にするのは、失礼だ。
『分かったわ』
『でもどうやって?』
『お前はスズを抱いて守っていればいい。後はわたくしに任せろ』
『分かったわ。信じるわよ』
『その代わり、兄様と……その……』
あーそういう下心があるのか。
その前までの勇ましさは何処へ行ったのやら。
急に女になるんだから、もー。
仕方ないわね。
『いいわよ。1回だけ協力してあげる』
『ケチくさいぞ』
『それ以上言うなら、協力しないわよ』
『くっ、それで手を打とう』
『契約成立ね。言っておくけど、成功報酬だから』
『わかっている。お前こそ、遅れるな』
『絶対にこの子は渡さないわ』
人の好意は素直に受け取っておきましょう
次回からバトルパートに入ります




