第78話 無能の証明
「さて、ウィーラーではありませんが、やはり警備ロボットのことは気になります。お心当たりは御座いませんか」
当然の疑問よね。
それは私も知りたいところだけど、それじゃ納得してくれないわよね。
もっともらしいことをでっち上げるしかないわ。
「警備ロボットのよ、迷子を保護するのよ、当たり前なのよ」
「自ら保護せず、エイル様にお教えしたのは何故でしょう」
「うちが知るわけないのよ。でものよ、食料も無いのよ、職員も居ないのよ。うちたちに引き渡すのよ、正しい判断なのよ」
「なるほど、そういった判断が可能だと仰るのですか」
「それくらいの知能はあって当たり前なのよ」
「当たり前ですか」
ここの常識では、あり得ないでしょうけど。
「その方は――」
「鈴ちゃんなのよ」
「スズ様は異世界人で間違いありませんか」
「断定はしないのよ」
「話されている言語は、勇者語でお間違いないですか」
「おそらくなのよ」
「〝おそらく〟とは、どういう意味でしょう」
「勇者語のよ、誰も話せないのよ?」
「そうですね。その認識で間違っておりません」
「うちも知らないのよ。これがホントに勇者語のよ、誰にも分からないのよ」
「なるほど。確かにそうですね」
確かに勇者の祠は私の世界の建造物だ。
だからといって、それが勇者と同じ世界かは断定できない。
何故なら、単にここの人たちが、この建造物を〝勇者の祠〟と呼んでいるに過ぎないからだ。
物的証拠は無い。
状況証拠だけ。
「わかりました。もう一点。身分証の接続が一時的に切断しておりました。そのとき、なにがあったのですか」
ちっ、やっぱりログが残ってたのね。
さて、デイビーさん相手に、どうやって誤魔化しましょうか。
「うちはその間のよ、気を失ってたのよ。だから分からないのよ」
「確かにバイタル状態を確認すると、気絶していたようですが――」
「医者でもないのよ、勝手に見ないのよ」
「おっと、これは失礼しました。ですが、僕には異世界人に限り、全ての閲覧権限を持っているのです」
「うちは異世界人じゃないのよっ! この世界で生まれてのよ、この世界で育ったのよっ!」
転生者ではあるけど、間違いなくこの世界の人間よ。
「だからそれは証拠にはならないのよ」
「そうですね。ま、いいでしょう。ならば、この世界を裏切るようなことはしない……と誓えますね」
いつものすました顔が、急に険しくなった。
まさか、父さんとのことを知ってるの?
あの話を知ってるとでもいうの?
「何処まで知ってるのよ」
「なんの話ですか」
突然険しくなった顔が、今はいつものすまし顔に戻っている。
やっはり一筋縄ではいかないわね。
だからって、わざわざ私から話す必要は無い。
このままシラを切らせてもらうわよ。
「うちが裏切るのよ、どういう意味なのよ」
「お心当たりは御座いませんか」
「あるわけないのよ。お前のよ、あるっていうのよ」
あるっていうなら、話してもらおうじゃない。
「ふむ。ま、いいでしょう。ご協力、ありがとう御座いました」
「御苦労なのよ」
「それでは、スズ様はお引き取りさせて頂きます。こちらへ」
「そんな話は聞いてないのよ」
「異世界人はすべからく、中央の管理下に置くこととなっております」
「モナカと時子はなってないのよ。……あとナームコもなのよ」
「こちらの依頼をこなして頂くということで、同意されたはずですが」
「あの1回で終わりなのよ」
「そういうことでしたら、スズ様と御一緒に3人とも中央に来て頂くことになります」
くっ、やっぱりあの1回で済ませる気は無かったのね。
「身分証の発行もしなければなりません。こちらへ」
「嫌なのよ」
「力ずくは好みではありません。こちらへ」
どうしよう。
力尽くになったら、絶対に勝てない。
「意思疎通のよ、どうするのよ」
「他の異世界人同様、ここの言葉を覚えて頂きます。他にもいろいろと覚えて頂きます」
「それは戦う方法ということのよ?」
「中央はボランティア施設ではありません。そして異世界人は、この世界には存在しない異能を持っている場合がとても多いのは、実体験からご存じですね」
それは否定できない。
モナカくんも時子さんもナームコさんもアニカさんも……そして私も。
「子供のうちに、きちんと制御できるようにならなければ、必ずお互いが不幸になります。そうならないためにも、訓練は必要なのです。ご理解、頂けますか」
正論だ。
反論のしようも無い。
万が一暴走してしまったり、誤った力の使い方をした時、私たち一般人ではどうしたって対処に限界がある。
一番怖いのは大きな力を持った悪意ではない。
例え小さな力でも、無制御で無意識な力だ。
周りはその力に怯え、本人も自分がしたことを理解できない。
最悪だ……
「鈴ちゃんのよ、異能なんて持ってないのよ」
「それを調べるためにも、一度お預かり致しませんと」
なるほど。
ナームコさんがいきなり中央預かりにならなかったのは、異能をコントロールする術を知っていたからなのと、モナカくんの存在が大きいのかしら。
なら鈴ちゃんは?
私と同郷なら、特別な力なんて持ってるはずがない。
科学も魔学も、知識を得て、実技を学ばなければ、使うことはできない。
物語みたいに、いきなり大魔法を放ったり、触っただけでありとあらゆる武器を使いこなせたりなんかしない。
ただ、それを証明する手段がない。
私たちと同じで、管理者になにか貰っているかも知れない。
「それとも、エイル様もご同行なさいますか」
「うちも中央に入れってことなのよ?」
「そうなりますね。如何なさいますか」
それが鈴ちゃんのためになるのなら……
私も一緒に居られるのなら……
できないことを証明するのは難しいのですよ
次回はナームコが動きます




