第76話 禁煙ではない
「お久しぶりで御座います」
「よお! ワシがわざわざ来てやったんだ。洗いざらい吐いてもらおうか」
ロローさんと一緒に入ってきたのは、2次試験の後、尋問してきた2人だ。
確かキツネ目の若い方がデイビーさんで、煙草のオジさんがウィーラーさんだったかしら。
「けほっ、けほっ」
「子供が居るのよ! 煙草は止めるのよ」
「はっ! 知るかよ。ここは禁煙じゃねぇ」
あなた、禁煙でも吸ってなかったかしら。
大体なんでこいつらが居るのよ。
確か異世界部門とか言ってたわね。
もしかして鈴ちゃんを引き取りに?
ロローさんが報告したとしても、来るのが早すぎる。
最初からここに居たとしか考えられないわ。
『ロローさん、あなたが呼んだの?』
『我が輩、誓ってそのようなことはしていないのであります』
『鈴ちゃんのことを報告したから来たんじゃないの?』
『我が輩、まだなにも報告していないのであります』
『ならなにをしてたのよ』
『それは……ひ、秘密であります』
秘密ね。
ま、民間人には言えないことなんでしょ。
『ならなんでここにこいつらがいるのよ』
『我が輩にも分からないのであります』
『あの、エイルさん。タイムに心当たりがあります』
『え?』
デイビーさんがゆっくりと拍手をし始めた。
人を小馬鹿にした、癇に障る拍手だ。
「いやはや、まさか中央のシステムに介入できるとは、感心いたしました」
バックドアがバレたの?!
それでここにやってきたのか。
そうだとしても、早くない?
「捕まえにきたのよ?」
「いえいえ、そのようなことは致しません。ただ、その手腕を買って、中央で働いて頂きたいので御座います」
なるほど。
腕のいいハッカーを雇うのは、よくある話だ。
「そんな話をするためのよ、ここに来たのよ?」
「勿論、本題は別に御座います。それで、ご返答は頂けませんか」
「本題を話すのよ」
「せっかちですね。分かりました。分かっておいででしょうが、ここでなにをされていたか、そしてなにがあったのかをお話し頂けますか」
本題って、普通に聴取じゃない。
なんでそれだけのためにこの2人が来たのよ。
とりあえず正直に話しておくしかないわね。
知識に関しては、いつものように勇者小説で片が付く。
後は父さんのことを伏せておけばいい。
「なるほど。お話し頂き、ありがとう御座います」
「なあお嬢さん。お前さん、嘘、ついてるだろ」
それまでデイビーさんの隣で煙を噴かしていたウィーラーさんが、咥え煙草のまま近づいてきた。
そして、ジッと目を見つめてくる。
「けほっ、こほっ」
「子供が居るのよ! 近づいてくるんじゃないのよ!」
「……ふーん。嘘、はついてない……か」
ウィーラーは視線を外して天井に顔を向けた。
そして煙草を吸って、煙を吐く。
吐ききると今度は額が付そうなほど顔を近づけて、食い入るように目を見つめてきた。
「だから近づくんじゃないのよ!」
「けど、なんか隠してる目えしてんな。そうだろ、お嬢さん」
「止めなさい。これから仲間になるかも知れないのですよ」
「はぁー、仲間ねえ。はっ」
ウィーラーは煙草を一気に吸い込むと、思いっきり煙を吹きかけてきた。
「こほん、こほんっ」
「いい加減にするのよっ!」
「警備ロボットが案内した先に子供が居た? なんでそんなところに子供が居るんだ。そもそも警備ロボットは何故そこに案内した。肝心な部分を端折ってるんじゃねぇのか?」
「ウィーラー、その辺にしておきなさい」
「……へいへい」
ウィーラーは両手を挙げておどけてみせると、テントの隅へと退散した。
そして新しい煙草に火を付け、煙を噴かす。
「煙草の件は、上に報告させて頂きます」
「ちょっ。そりゃあ勘弁してくれ! な! ワシとお前の仲だろ?」
〝勘弁してくれ〟といいつつ、煙草を吸うのを止めない。
生粋のヘビースモーカーね。
「ただの同期です。それだけの理由で、貴方と組まされる僕の身にもなってください」
「だったら、報告なんて面倒しねえで、黙っててくれよ、な!」
「貴方がクビになってくれた方が、面倒が無くなるのですが」
「勘弁してくれよ! 都市には腹を空かせた女房と子供とお袋が居んだよ」
「貴方、独身ですよね」
「外縁の嫁が居んだよ。この前話したろ?」
「この前は内縁と言っていませんでしたか? お母さんも先日何度目かのお葬式をしていましたよね?」
「お袋は……殺しても死ぬようなタマじゃねえんだよ! 何度言や分かんだ!」
「何度も言わないでください。はぁー。もういいですから、邪魔だけはしないでください」
「へいへい」
「煙草を吸うのよ、外で吸うのよ」
「そうですね。ウィーラー、外に出ていてください」
「はぁー、へぇいへぇい」
フーッと煙を吐き出すと、テントの外へ出て行った。
言うまでもなく、あちしは煙草が嫌いです
次回は翻訳はとても大事