第74話 エンジン点火・3・2・1・0
再びケイボさんに抱えられ、倉庫を出る。
ナームコさんは自分のゴーレムに運ばせてるわね。
あの豪勢な椅子に座ったまま、担がれてる。
御神輿みたい。
ロローさんはガーボさんに乗っての移動だ。
背負われながら、器用に銃を構えている。
『ロローさん、鈴ちゃんが怖がるから銃を下ろして』
『これは失礼したのであります。でありますが――』
『警備ゴーレムに任せておきなさい!』
『了解でありますっ』
責任感が強いのはいいけど、ここだと私たちは守られる対象なの。
ここの保守担当に任せておきなさい。
さて、上に上がらないと外に出られないんだけど、どうしようか。
どう考えても鈴ちゃんは点検用梯子を登れない。
「ナームコさん、エレベーター動かしてもらえないかな」
「エレベーターでございますか?」
「鈴ちゃんが出られないのよ」
「屋上に通じるエレベーターは、全て埋まってるのでございます」
そういえば、入ってきたエレベーターも屋上には行けなかったわね。
困ったな。
「では、わたくしのゴーレム君に運ばせるのでございます」
「ゴーレムに?」
「守君、おふたりを上まで連れて行くのでございます」
すると、1体のゴーレムが御神輿を担ぐのを止め、私の側まで来た。
もしかしてこの流れって……
そんな予感が的中し、ケイボさんから私たちを受け取り、抱えた。
今度は守さんにお姫様抱っこされる羽目になるとは……
どうせなら人間の男の子にしてもらいたかったな。
いや、別にモナカ君にしてほしいわけじゃないわ。
そんなところ、思い浮かべてなんかないんだから。
って、誰に向かって言い訳してるのかしら。
もー、父さんが変なこと言うから……
そんなことより、このままだとエレベーターの天井が抜けられない。
どうするつもりなんだろう。
「功太君、天井を壊すのでございます」
今物騒な命令が聞こえたんですけど。
やはり同じように御神輿を担いでいたゴーレムの1体が、離れてエレベーターの中に入っていく。
左手で右腕の二の腕を掴み、天井に向けた。
右腕の肘関節辺りが光ったかと思うと、轟音と供に肘から先の部分が天井に向かって飛んでいった。
腕、飛ぶんだ……
天井程度なら簡単に打ち抜けるくらいの威力があるみたい。
しかもただ直進するだけじゃない。
飛び回って何度も何度も殴りつけ、打ち抜き、天井を破壊していく。
そして天井が完全に破壊された。
かつて天井だった残骸たちが、床に散らばっている。
もうもうと立つ埃。
「けほっ、けほっ」
「もう少し考えて壊してよ。鈴ちゃんが煙たがってるじゃない! あー、大丈夫? ごめんねー」
「うきゅー」
ベストで覆うようにガードしたけど、苦しくないかな。
少し圧迫する形になっちゃうのよね。
舞い立つ埃を気にも留めずに、守さんが中に入っていく。
この埃って元素よね。
吸い込んだらマズいんじゃない?
鈴ちゃんは大丈夫かしら。
あ、そうだ。
『ロローさん、気をつけて。毒素は元素なのよ。つまり、この埃はほぼ毒素なの』
『なんですと?!』
『エイルさま、毒素が元素とはどういうことでございますか?』
『あなたならどういうことか分かるんでしょ。気づいてないだけだから、理解できるはずよ』
『気づいてないだけ……でございますか』
などという話を気にもせず、守さんは足の裏から炎を吹き出し、上昇を始めた。
「きゃっ、なになに?!」
「大丈夫、オバさんが付いてるから。怖くないわよ」
とはいっても、やはり怖いみたい。
私にギュッとしがみついてくる。
だから私は、鈴ちゃんの頭を抱えて守った。
「みぃー!」
「大丈夫よ」
轟音と供に、徐々に上昇していく。
さながらロケットの打ち上げのようだ。
まさかこのまま天井をぶち破って外に出ないでしょうね。
段々と加速していく守さん。
このままの勢いだと、本当にぶち破りそうだ。
上昇するにつれ、ドンドン加速していく。
加速は止まることを知らず、あっという間にエレベーターシャフトの天井に迫っていく。
そしてそのまま天井を突き破った。
「きゃあーっ!」
「ナームコのバカぁ!」
守さんは天井をものともせず、突き進んでいく。
次の瞬間には、景色が土色に変わっていた。
どういうことなの?!
そして気がついたときには、青空が広がっていた。
なにが起こったのか、すぐには理解ができなかった。
どうして天井が青いのだろう。
そして風が心地いい。
魔素が濃い。
まさか……と思って、恐る恐る下を見ると、荒廃した大地に、ポカリと大穴が開いていた。
どうやら私たちは、あの穴から出てきたようだ。
そしてその穴から続けてロローさんとナームコさんが出てきた。
私たちと同じように、ゴーレムに連れられて。
5・4・3・2・1……THUNDERBIRDS ARE GO!
次回は元気でした




