第72話 パパとママ
『そんなことより、なんなのこの状況は』
『ああ、素材が大量にあったからな。お前たちに壊されたゴーレム君を補充したのだ』
なるほど、それで沢山ナームコさんが居るのね。
『どうして全部自分ソックリなの? 少しは外見を変えるとかしないの?』
『誰のゴーレムか分かるように、自分を模した姿をさせるのは、法で決まってるのだ。勝手に変えることはできん』
意外と真面目なのね。
『異国の地で守っても仕方ないでしょ。ここにそんな法は無いんだから』
〝法は無い〟……か。
人のこと、言えないわね。
『とにかく、家に戻るわよ』
『その子供はどうするつもりだ?』
『連れて帰る……わけにもいかないのよね。かといってロローさんに引き渡すわけにもいかないのよ。言葉が通じないところに、こんな小さな子供を放り込めないわ』
あれは本当に辛かった。
ま、私はこんなに幼くなかったけど。
アニカさんの気持ちが少し分かるわ。
『なら、どうするつもりだ?』
『連れて帰るしかないでしょ。イヤホンを作れば、なんとかなるわ』
『連れて帰って、どうする? 育てるのか?』
『それは……』
私が? この子を?
そういう風には考えてなかったわ。
育てる……つまりシングルマザーになるってこと。
しかも養子よね。
母さんは許してくれるだろう。
だからといって、甘えていいのだろうか。
それにこの子がそれを望まなければ、話が始まらない。
望んでくれるだろうか。
パパを見つける約束でもすれば、付いてくるかしら。
それとも、素直に中央省に引き渡した方が……
いいえ、ダメよ。
とても幸せになれるとは思えない。
なら、私たちと一緒に居れば幸せになれるの?
そうとは言い切れない。
パパを見つける……という意味なら、中央省の方がいいかもしれない。
それをいいわけに手放すの?
いまさら――
『おい、悩むくらいなら関わるな』
『え?』
『悩んでいるのだろう? 関わらない方が、お互いのためだ。覚悟もなく引き取ろうとするな。必ず不幸になる』
『そんなこと……』
『なにが幸せかは、その子が決めることだ。他人が勝手に幸せを決めつけるな』
それはそうかもしれないけど。
どっちの方が幸せかなんて、私には言えない。
それでも私は、この子の手を離したくないと思ってしまった。
『連れて帰るわ。この子はまだ幼いの。だから私がこの子の……鈴ちゃんの幸せを、勝手に決めつけるわ』
『そうか。ならなにも言うまい。好きにしろ』
『いいの?』
『良いも悪いも、わたくしに決定権など無い。その子が嫌がらない限り、お前の好きにするがいい』
鈴ちゃんが嫌がらない限り……か。
あなたが言うと、説得力無いわね。
「ね、鈴ちゃん。オバさんの家に来ない?」
「エイルオバさんの?」
「そう。嫌かな」
「パパは? パパも一緒がいい!」
やっぱりそうなるか。
名前も分からないんじゃ、先輩以上に困難ね。
そもそもパパも転移してきたのかしら。
それさえも分からない。
ママはどうなんだろう。
ママのことはなにも言わないのよね。
「ママはどうしてるのかな」
「ママ? 知らない」
知らない?!
まぁまだちっちゃいから、よく分かってないだけよね。
「何処に居るかは分かる?」
「パパがね、ママは会社を辞めてお家に帰ったって言ってたの」
会社を辞めてお家に帰った?
どういう意味かしら。
「ママは鈴ちゃんちに居るの?」
「居な~い」
え、離婚したのかしら。
聞いても分からないだろうし、知ってもなにもできない。
そっか、父子家庭なんだね。
ということは、父さんが働いてるところにきた?
それとも託児所にでも居た?
それらしい部屋、あったかしら。
そうだとすると、ここで働いてる職員の可能性が高いのか。
それだともうとっくに死んでることになる。
転移した場合、パパは居ない可能性が非常に高い。
探すだけ無駄?
「パパはここで働いてるのかな」
「えっとね、パパはテレビを見るのがお仕事って言ってたの」
テレビを見るお仕事?
あ、監視モニターのことか。
……監視モニター?
まさか私がこき使ったあの人じゃないわよね。
「ケイボさん、この子の父さんは何処に居るか、分かる?」
「情報不足です。検索できません」
そうだよね。
そもそも分かったところで連れて行ってどうするの?
白骨死体を見せて、これがあなたのパパよって言うの?
……馬鹿馬鹿しい。
ここは騙すことになるけど、パパは家に居ることに……
いや、すぐバレる嘘はダメだ。
なんか、誘拐犯がアレコレ考えてるみたいね。
……いっそなにも考えずに誘拐する?
子育て目的の誘拐……実際にあるから怖いよね
次回は誘拐犯が頑張ります




