第71話 オジさんとオバさん
なにあの椅子。
装飾が細かいわ。
しかも金?
宝石なんか何処から持ってきたのよ。
背もたれもゆったりしてて。
布張りも真っ赤で趣味悪っ。
うわー、あれは真っ赤なルビー? が付いてる王冠まで被ってる。
なんでティアラじゃないのかしら。
しかも真っ赤なマントをはおって、金色の玉が付いた変な杖まで持ってる。
あれはどう見ても魔法杖じゃないわね。
なのになんなのあの服装。
灰色のノーカラージャケット。
カットソーの白いTシャツ。
黒地に白の膝上丈チェックスカート。
そしてストッキングに青のパンプス?!
確かに普段からそういう格好の子だけど、アンバランスすぎるでしょっ!
「なにやってるの?」
「エイル様、おはようございます。起きてこられ……お子さんでございますか?」
「違うわよっ! おはよう、ロローさん。この子に見覚えはあるかしら」
「おはようなのであります。はて……我が輩、見かけたことは無いのであります」
「やーっ!」
「こら、厳つい顔で覗き込むんじゃないの。鈴ちゃんが怖がってるじゃない」
「や! これは失礼したのであります。スズ殿でありますか。良い名でありますな」
「オジさん……誰? 悪い人?」
「オジさんはロロー・フロッケなのであります。ここの保守を任されているのであります」
「ひぅ! 怖いよー」
「ああ、よしよし。大丈夫よ」
あ、そっか。
この子はここの言葉が分からないわよね。
イヤホンのスペアはもう無いし、困ったわ。
「このオジさんはね、ロローさんっていうのよ」
「ロローオジさん? こ、こんにちわ」
「こんにちはであります」
「ひゃー!」
『ロローさん、この子も異世界人みたいだから、言葉が通じないのよ』
『そうなのでありますか? 我が輩はスズ殿の言葉が分かるのでありますが……』
『あなたはイヤホン付けてるでしょ!』
『そうでありました』
まったく。
『だから、ナームコさんも同じよ』
『そうなのでございますね。……どうしてエイル様の言葉は通じるのでございますか?』
『それは私――』
と同郷だから……なんて言えるわけないじゃない。
『えっと、勇者語で話してるからよ』
『なんと! スズ殿は勇者殿と同じ世界の人間なのでありますか?』
『多分ね』
「オバさんたちは誰?」
「エイル様、自己紹介をなされておられなかったのでございますか?」
「私は済ませたわよ」
「では、オバさんとは、誰のことでございましょう?」
あなたは私よりオバさんでしょ!
「このオバさんはね、ナーム・コカトス・プリスコットっていうのよ」
「エイル様、何故わたくしのことを紹介なされるのでごさいますか?」
「あなたがその〝オバさん〟だからよ」
「……なんだと?」
「ナームコさん、言葉遣い」
「こほん。スズ様、〝お姉さん〟はナーム・コカトス・プリスコットと申すのでございます」
「ひぅ!」
「怖がらせないでよ」
「間違いを訂正しただけでございますわ」
「私だってオバさんなのよ。あなたはオオオバさまでも間違ってないわ」
『おいエイル、わたくしはまだそこまで年寄りではないぞ!』
うわ、器用ね。
もう私にだけ聞こえるように話せるようになったんだ。
早いわね。
まさかモナカくんと話してないわよね。
……聞くのが怖いわ。
『私より年上なんだから、オバさんで合ってるわよ。それにこの子はあなたの言葉が理解できないの。小さな子が異国の言葉で捲し立てられたら、そりゃ怖いでしょうよ』
『くっ、乙女であるこのわたくしが、オバさんなどと……』
乙女……ね。
『子供の言うことでいちいち腹を立てないの!』
まったく。
もう少し大人になりなさいよ。
「ナームオバさん?」
「そうよ」
「ナームコお姉さんでございますわ」
「ひゃっ」
「だから、怖がらせないでよっ。あーよしよし、ここは怖いオバさんがいるから、あっち行きましょうねー」
「誰が怖いオバさんなのでございます!」
「あなたよ、あ・な・た」
「心外なのでございます」
ならもう少し子供に寄り添いなさいよ。
こんなちっちゃい子に分かるわけないじゃない。
色々な年代の人が集まった時、一番年下に合わせるのですよ
次回はエイルが悩みます




