第68話 名付け親
朝目が覚めると、太陽が真上にあった。
ま、ビルの中だから見えないけど。
1回目が覚めたのよ。
でも暗いから夜だと思って二度寝しちゃったのよ。
補助電源も何もかも落ちてるから、完全に真っ暗なのよ。
勘違いしても仕方がないわよね。
いくらなんでも長くない? と思って時計を見たら……
久しぶりに寝坊したわ。
『おはようございます』
「おはようなのよ。ナームコはどうしたのよ?」
『まだ倉庫あさりをしてますね』
「まだしてるのよ?! え……寝てないのよ?」
『エイルさんと同じですね』
同じってなんですか?
私は日付が変わったら寝てます!
……たまに朝日を拝むことがあるのは否定しませんけど。
「ナームコのところに行くのよ」
『はい。ではケイボ君に案内して貰いましょう』
「ケイボ君?」
『警備ロボットのケイボ君です』
あなたまで名前を付けるんですか?!
「少し安直すぎなのよ」
『ナームコさんに言ってください』
あ、ナームコさんが名付けたのね。
『ケイボ君、ナームコさんのところまで、案内してください』
「お任せを」
暗闇の中から声が聞こえてくる。
近くに居るの?
真っ暗だからなにも見えない。
目が慣れる慣れない以前の問題だ。
「どうぞ、こちらです」
中々礼儀正しいじゃない。
パッと明るくなると、その光源の中心にあの警備ロボが立っていた。
銃を構えて。
思わずビクッと反応してしまった。
「おっと、これは失礼」
銃口を上げ、抱えるように持った。
「今敵は居ないのよ。武装解除してのよ、問題ないのよ」
「では、参りましょうか」
「ちょっとのよ、無視しないのよ」
もしかして、タイムさんの言うことしか聞かないのかしら。
『エイルさん、彼らにはここの言葉は通じませんよ』
あーそうだった。
「ケイボさん、敵は居ないから、もう武装解除しても問題ないわよ」
『いえ、自分、これが、仕事ですので』
そうなんだけど。
というか、5千年前はこんなのが巡回してたの?
物騒ね。
「エイル様、背中にお乗りください」
「え、背中?」
ケイボさんが背中を向けてしゃがんだ。
私にこれに乗れと?
おんぶしてもらうなんて、何年振りかしら。
よっと……思ったより柔らかいわね。
生体金属ってヤツかしら。
「それでは、行きます」
スッと立ち上がると、移動を始めた。
揺れるかと思ってが、全く揺れない。
歩くでもなく、走るでもなく、音も無く移動している。
床から浮いて滑っているのね。
実物を体験するのは初めてだ。
今の時代、このサイズでできるところは無いんじゃないかしら。
少なくとも16年前には無かったわ。
そっか、こうやって移動してたから足音が聞こえなかったのね。
駆動音も静かだ。
そもそも機械的な駆動音がしない。
一体どんな技術の塊なんだろう。
設計図……残ってないかしら。
階段を降りるときでさえ、そのままスッと移動している。
スロープなんじゃないのっていうくらい、滑らかに降りていく。
そういえば、廊下や階段に転がっていた白骨死体が無くなっている。
片付けたのかしら。
1階に降り、倉庫へと入っていく。
私が以前見た光景と、随分変わってない?
これ、ナームコさんの仕業なの?
整然と積み上げられていた荷物の梱包が、かなり剥がされてる。
中身を物色したのだろう。
なにかを探しているのかな。
こんなこと、よくロローさんは許したわね。
あ、でも梱包自体は散らかってるけど、中身自体はきちんと置かれてるのか。
その辺に投げ捨てるようだったら、制裁を加えなきゃいけないところだったけど。
今は本人を探さなきゃ。
といっても、ケイボさん……だっけ。
彼が連れて行ってくれるから、探す必要は無い。
程なくナームコさんの元に着いた……のよね。
えーと……彼女は何処?
「ナームコさん? 居るの?」
返事が聞こえてこない。
疲れて寝てるのかしら。
ネーミングセンスが欲しいところです
次回はエイルが発見します




