第67話 甘いか塩っぱいか酸っぱいか苦いか辛いか美味いか
『気味が悪くて悪かったのよ』
どうせ母さんの前ではいつもどおりなんだし、もういいかな。
『もう少ししたら帰るのよ』
『早く帰ってこい。日に日にトレイシーさんのテンションが上がってってるぞ』
『上がってるのよ?』
私が居ないからって母さんが羽目を外す……なんてことは無いと思うんだけど。
そもそも羽目を外してるところをを見たことがない。
『エイルが居ないのを俺たちで紛らわせてるんじゃないか?』
どういうこと?
『今日なんか用もないのに呼ばれたし、さっきも普段しないような雑談してたんだぞ。お前、トレイシーさんに連絡すらしてないそうじゃないか』
そういえばしてなかったわね。
『〝薄情な子ね〟なんて笑いながら言ってたけど、冗談に聞こえなかったぞ』
あははは……
『母さんの相手のよ、任せたのよ』
『お前な! これ以上負担を増やすな! 時子はあんなだし。アニカも腐ってるし。その上トレイシーさんまでって……俺の身体は1つしかないんだぞ』
『モテモテなのよ』
『こんなモテ方はイヤだー!』
『うるさいのよ。細かいことを気にする男のよ、モテないのよ』
『細かくないよっ!』
『そんなことのよ、アニカはどうしたのよ』
『そんなこと……はあ。それがだな………………』
『………………分かったのよ。とにかく任せたのよ。うちもなるべく早く帰るのよ』
『俺が限界を迎える前に、帰って来いよ』
『努力するのよ』
『おい!』
いつ帰れるかはナームコさん次第ね。
今晩だけで満足できるのかしら。
私はその間に、この毒素の塊を解析しないと……そうだ。
「ナームコさん……あれ?」
「ナームコさんなら、ガーボくんを連れて倉庫に行きましたよ」
「ガーボくん?」
「ガードロボットのガーボくんだそうです」
名前付けたんだ。
私はそういうことをしたことがないのよね。
愛着が湧くっていうけど、多分私はそれが壊れたとき、半端なく沈み込める自信がある。
だから名前は付けないわ。
仕方ないわね。
塊については明日にしましょう。
元素のことなら、彼女に聞くのが一番だわ。
私の道具じゃ、なにも分からないもの。
試しに簡易キットで調べたけど、なにも分からなかった。
ただ言えることは、物質として凄く安定してるということだ。
扱いを間違えなければとは言われたけど、ちょっとやそっとでは変質しないはず。
そもそも毒素が結晶化していること自体あり得ない。
持ち帰ってなにかあったら、後悔しても仕切れないもの。
結局、どうすれば利用できるのか、そのリスクはどのくらいあるのか、リスクはリターンに見合うものなのか、回りへの影響は……
そして一番重要なのが、私に使いこなせるのか……だ。
父さんは私なら使いこなせると思って、渡してくれたはず。
つまり、魔素人でも使えるものということ。
この世界の人なら扱えるのか、それとも前の世界の知識があるから使えるのかも分からない。
危険なものに違いはない。
ナームコさんやロローさんたちには悪いけど、犠牲は少ない方がいいもの。
2人には説明しておかないとね。
こうやって見ると、特別感がない。
そこら辺に転がってる石と見分けが付きにくい。
いや、むしろより無価値感が高い。
本当にこれは毒素の結晶?
舐めてみようかしら。
……いえ、ナームコさんに見てもらうまで我慢よ。
携帯食のことを忘れたの!
でも、舐めるくらいなら……いい……よね。
『エイルさん? なにをしようとしてるんですか?』
「ひっ! な、なにもしてないのよ。別に舐めようとなんかしてないのよ!」
『氷砂糖ですか? それとも岩塩?』
そういえば、タイムさんに話していませんね。
「毒素の塊なのよ」
『へー、毒素の……って、そんなもの舐めようとしないでください! 大丈夫なんですか?』
「父さんに貰ったのよ。扱いに気をつけるのよ、問題ないのよ」
『舐めても大丈夫なんですか?』
「それを確かめようとしたのよ」
『確かめないでくださいっ』
「……分かったのよ」
『えっ? 明日は雨が降るんですか?』
「そうなのよ? そんな予定はなかったと思うのよ」
『いえ、そういう意味では……はぁ、なんでもありません』
「明日落ち着いたのよ、ナームコに見てもらうのよ」
『ナームコさんに?』
「彼女のよ、毒素のことが分かるのよ、父さんが言ってたのよ」
『ナームコさんは毒素がなんなのか、知ってるんですか?』
「気づいてないだけらしいのよ」
『そうなんですか』
とにかく、明日にならないとなにも動かないわ。
明日のために、しっかり休息しましょう。
シャワーを浴びて、ご飯を食べて、道具の点検をして、よし、寝るわよ。
どんな味なのでしょう
次回は警備ロボ再び出番です




