第65話 どっちが年上?
『まだまだね』
『うう、負けたぁ』
『そんな高級言語使ってるから、後手後手に回るのよ。いくら手を変えても、先読みされるわ』
『エイルさんが異常なんです! なんで機械語が直接書けるんですかっ。普通そこはアセンブラ使うでしょ』
『なに言ってるのよ。アセンブラだろうが高級言語だろうが、コンパイルしなきゃ動かないことに違いは無いわ。そんなまどろっこしいこと、してらんないわよ』
『人間じゃなーい!』
『タイムちゃんに言われたくないわ』
『え?』
『ん?』
『……いえ、なんでもありません。ふふっ、次は負けませんよ』
次があればね。
……時子さんと敵対することになったら、そうなるのかしら。
『人間じゃないって言うけど、タイムちゃんだってバグ指摘してたじゃない。機械語読めてるってことでしょ』
『読めるだけです。書けなんかしませんっ』
そういうものなの?
『でもロローさんが可哀想ですよ。ずっと無視するなんて』
『なに言ってるの。あれ全部タイムちゃんのフェイクでしょ』
『……え?』
『…………え、違うの?!』
そんなはずは……
いえ、今からでも連絡を取らないと。
あ、こっち向かってきてるんだっ……け?
『っふふふ……』
『あー、やったな!』
『っははははは、お返しですよーだ』
『お返しって……先にやったのはタイムちゃんでしょ』
『だからって偽物を使うのは卑怯です』
『負け惜しみね。偽物は卑怯じゃないとでも?』
『ぶーっ』
『いいから、早く戻ってきてらっしゃい』
『……いいんですか?』
『良いも悪いも無いわ。折角手に入れた身体なんだから、使わなきゃ損よ』
『あ……』
『どうしたの?』
『その機体にもA.I.を復元してあるんです』
『あー……』
となると、もう入れないわね。
でもA.I.を殺して乗っ取れば……うっ。
ダメだ、考えただけでも吐き気が……
はぁ、はぁ、でもそれは私だけ。
この世界では普通のこと。
受け入れないと……うぷっ。
『だからタイムは今までどおりでいいんです。それに仮初めでも身体はありますから』
『私のことなら……気に、しないでいいのよ』
こらえて、私の身体。
吐いたらダメよ。
『エイルさんに嫌われてまで欲しい身体じゃありません』
『き、嫌うだなんて……』
『タイムに倫理観が欠けてただけです。タイムたちの世界は、その辺りが後進世界なんです。これからは気をつけようと思います。だから、間違えたら教えてください。きっと、いっぱい間違えると思いますから』
これじゃ本当に私の方が年下じゃない。
やっぱり〝タイムちゃん〟なんて呼べないわ。
『分かりました。これからもよろしくお願いします、タイムさん』
『はい、よろしく……って、なんですか急に』
『私より大人だなって思ったものですから』
『止めてください。今までどおりでお願いします』
『一度認識してしまいますと、中々難しいんです』
『エイルさんに畏まられると、調子が狂います』
『ごめんなさい』
『いやー! 別人です! ドッペルゲンガーです! モーフィングです! クローン人間です! 怖い怖い怖い!』
『そんなに嫌がらなくてもいいではないですか』
『これもタイムが犯した罪の報いなんですね。ああ、神はなんと残酷で過酷で卑劣な試練を与えるのですか。恨みますよ』
そこまで言わなくてもいいじゃないですか。
もう。
『そんなこと言うのよ、これならいいのよ?』
『ああ、いつものエイルさんです。戻ってこられたんですね』
その言われ方は、どうなんでしょう。
なんとなく、腹が立ちますわ。
『ここにはもう用が無いのよ。家に帰るのよ』
『え、帰るんですか? 倉庫あさりはしないんですか?』
『うちの望む物のよ、無いそうなのよ』
『誰にそう言われたんですか?』
『うちの』
あ……父さんのことを話さないといけないのか。
タイムさんにならいいよね、父さん。
『転生前の父さんが言ってたのよ』
『え、会ったんですか? というか、死んだって言ってませんでした? もしかして、お父さんも転生なされてたんですか?』
『してないのよ。転移してきたらしいのよ』
『転移できるんですか?!』
私は、なにがあったのかをタイムさんに話した。
ただ、貰った物と、父さんが時子さんと敵対している辺りは話さなかった。
父さんと敵対……私は、どっちに付けばいいんだろう。
父さんとは敵対したくない。
でもこの世界を犠牲にすることも、したくない。
なにか方法は無いの?
『タイムに聞け……ですか。地図を見せてもらってもよろしいですか?』
『構わないのよ』
『どれどれ。えーと……ふむ……え、何処って? 結界の外?! まだ生きてるんですか?』
もしかして、霊の天の声ってヤツに聞いてらっしゃるのかしら。
父さんはその存在も知っていたってこと?
一体何処まで知ってるの。
どうして全部教えてはくれないの。
『ケチ……あーもう、うるさいな。それで……ん、ありがと。エイルさん、分かりましたよ』
やっぱり分かるんだ。
父さんはいつも正しい。
なら、やっぱり父さんに付いていくべき?
『案内できるのよ?』
『できますけど、問題はどうやって結界の外に出るか……ですね』
『そう……』
外に居るんだ。
生き延びていたんだ。
やっぱり父さんは凄いな。
『許可証を偽造してしまいましょうか』
確かにバックドアから侵入してちょっと書類を弄れば、正式な許可証を偽造できる。
でもそれはしたくないのよね。
やっぱり自力で外に行きたいじゃない。
そうなると、やっぱりこの結晶を使いこなさないとダメね。
『エイルさん、それは?』
『ん? 今のうちに必要な物なのよ。さ、みんなと合流しのよ、帰るのよ』
『はい』
『それと転生のことのよ……まだ秘密にしといてほしいのよ』
『もう話してもいいんじゃないですか?』
『まだダメなのよ』
『トレイシーさんは受け入れてくれると思いますよ』
『分かってるのよ。もう少しのよ、時間が欲しいのよ』
『分かりました』
本当は、今日父さんに会えたから話してもいいと思った。
でもあの話を……星の存続の話を聞いてしまっては、話す勇気が出てこない。
なんとか丸く収まる方法を見つけなきゃ。
年上の人には敬意を払いましょう
勿論、敬意を払うべき年上の人に……です
次回はお説教の時間です




