第64話 A.I. vs 人間
『……殿! エイル殿! 聞こえたら返事をするであります。エイル殿! 何処に居るのでありますかっ』
気がつくと神社や木々は消えてなくなり、廊下に立ち尽くしていた。
私は夢を見ていたのだろうか。
イヤホンからロローさんが私を呼ぶ声が聞こえてくる。
ふと右手を見ると、父さんがくれた毒素の結晶を持っていた。
夢じゃなかったんだ。
父さんはこの星を壊そうとしてる。
それは父さんたちの星を守るため、守人を解放するためだという。
私がまだ父さんの娘だったら、同じようにできただろうか。
『エイル殿!』
『ロロー? どうしたのよ』
『おお、エイル殿、ご無事でありましたか』
『ええ』
『身分証の反応が消えたので、もしやなにかあったのでは……と心配したのであります』
『ごめんなのよ。少し待つのよ。復旧させるのよ』
『了解であります』
復旧させる……か。
それはつまり、あの殺人鬼と再び繋がるということ。
いいえ、それはオオネズミを狩り続けてきた私も同じ。
それでも、やはりあの子が怖い。
悪気が無いからといって許されることではない。
でもここでは父さんの言うように、恒星間条約は無い。
あの子は罰せられないし、非難されるようなこともしていない。
私の感情の問題だけだ。
大丈夫、今までどおり接すればいいんだ。
あの子にとって、あの子たちにとって、A.I.は人じゃない。
ただのプログラムで、人権なんて無い。
オオネズミに人権が無いのと同じ。
深呼吸をして、気分を落ち着かせようと試みる。
1回……2回……3回……何度やっても、胸のモヤモヤが晴れない。
グルグルして気持ちが悪い。
父さんは、私が機械の人権を認めてないと言ってた。
どういう意味だろう。
私はちゃんと人権を認めてるのに。
あの子の人権だって、尊重してる。
でも機械は機械よ。
A.I.はA.I.。
ちゃんと区別をしなきゃダメ。
それがいけないの?
だからあの子は最後、少し悲しそうだったのかしら。
『エイルさん』
『えっ!』
不意にあの子の声が聞こえてきた。
おかしい。
接続は切ったままなのに。
『ど……どう……して』
『セキュリティの突破方法を教えてくれたのは、エイルさんですよ。このくらい、簡単です』
『そ、そう……』
ちょっとした隙を突かれたのか。
でも向こうから来たのなら好都合。
このまま仲直りを……しなきゃ。
うう、いきなりだったから、心の準備が……
『あの……』
『ごめんなさい』
『え?』
私が言わなきゃいけないことを、あの子に言われてしまった。
あの子は悪くない。
そう、なにも悪くない……
『機械にも一部人権があるって言ってたのに、タイムはそれを無視して初期化してしまってたんですね。それにタイム自身も、その……同じA.I.なのに』
〝同じじゃない〟……って言っても、説得力無いわね。
陳腐だわ。
『同族殺しって思われても、仕方ありません』
そんなこと思って……なかったと言えば、嘘になるかも知れない。
でも……
『せめてもの罪滅ぼし……ってわけではありませんが、バックアップからA.I.を再生してインストールし直しました』
『バックアップ? 全員分残ってたの?』
『え……全員分?』
まさか、1人分を全機体に再インストールしたの?!
それってクローンじゃない。
クローンだって……いえ、あの子はそんなこと知らないわ。
ここでは罰則もない。
手間を考えれば、間違った選択じゃない。
あの子は悪くない。
そう、なにも悪くない……悪くないのよ。
『ごめんなさい。タイムはまたなにかをやらかしたんですね』
『あ……いや、そんなこと……』
『えっと、一応エイルさんたちは味方だって言い聞かせてありますから、もう襲ってくることはないと思います。それもマズかったですか?』
『そんなことないわありがとうあなたは間違ってないわ』
『そうですか……ほっ』
って、なに気を遣わせてるのよ。
思わず早口になっちゃったじゃない。
謝ろうと思ったのに、完全にタイミングを無くしてしまったわ。
あんな小さな子に……
これじゃどっちが大人だか、分からないわ。
『それから、勝手に繋ぎ直してごめんなさい』
『そんなの……別に』
『話はそれだけです。さようなら』
『……え?』
そう告げられ、気づくと既に切断されていた。
……あの子はぁぁぁ!
自分が言いたいことだけ言って、はいさよなら?!
あーそーですかそーですか。
そっちがその気なら、今度はこっちから乗り込んでやろうじゃないのっ!
モナカくんの携帯にアクセスして……って、アクセスが拒否られてる?!
管理者権限が剥奪されてる……
あっそ。
なら諦めるしかないか……なんて言うと思ったのかしら。
私とタイムちゃんの勝負ね。
まずは正攻法で……ま、無理よね。
だったら脆弱性をつついて……あ、もしもの時のために開けておいた穴が塞がってる。
やるわね。
だったら新しく開けるまでよ!
久しぶりに手応えがありそうだわ。
『エイル殿、翻訳機能が回復したのであります』
む、中々やるわね。
ならこれはどうかしら。
『エイル殿? どうかしたでありますか?』
よし、1枚突破ね。
って、攻め込まれてる?!
確かに攻撃は最大の防御って教えたけど。
厄介ね。
『エイル殿! なにかあったでありますか!』
でもまだまだね。
前ばっかり見て、側面が疎かなのよ。
んー、この程度の攻撃力なら、防衛は既存に手を加えてほっとけばいいかな。
『生体反応は……移動してないのであります』
よし、後は攻め込むのみよっ。
ふふっ、不慣れな攻めなんてするから、防御が疎かになってるわよ。
『今行くであります。ジッとしてるであります!』
私から逃げようなんて、100年早かったわね。
はい、開通っと。
多分終章が始まりました
開幕はセキュリティ合戦です
ぽく見えなかったでしょうけどw
次回は仲直りです




