第62話 父さん似
いきなり腕を掴まれ、包帯をむしり取られた。
当然、足の包帯も。
「お前たちは毒素の正体も知らないのか」
「毒素の正体……父さんは、うっ……知ってるの?」
なんか、うっすら黒くなってない?
「知ってるもなにも……いいか、毒素の正体は元素だ」
「元素?!」
「そうだ」
どういうこと?
それじゃあモナカくんは毒素の塊だとでも?
でもそんな反応は示したことがないわ。
「洗い流すぞ。しみるが、我慢しろ」
「あぐっ、あああああっ」
しみるなんてもんじゃないじゃない!
むしろ今毒素を塗られてると言われた方が、しっくりくるわ。
液体を掛けられた部分が、焼けるように熱い。
「こら、暴れるな。手遅れになるぞ」
「うぐ、ふっ、うー、も、もう、手遅れ、よ」
「次は足をやる。手遅れとはどういう意味だ」
「2日前に、元素を食べたわ」
「食べただと?!」
「ええ、ふぐっ、あああああ、はぁ、はぁ、倉庫にあったヤツを、一口食べたの」
「倉庫って、5千年前の食べ物をか。食い意地張りすぎだ、馬鹿者」
「モナカくんはぁぁぁぁっ、魔素を食べて、はぁ、栄養にできたのよ。なら私だって元素を、っっく、食べて、栄養に出来るはずだと思って」
「自分で実験したのか」
「誰にも、うっ、迷惑は、掛けてないわ」
「体内洗浄を行う。裸になって横になれ」
「はあ?! なんでよっ」
「異物を除去するんだ。父さんは大雑把だからな。服まで除去しても文句が無いなら、着てて構わんぞ」
「う……変なことしないでよ」
「父さんをなんだと思ってるんだ。娘に欲情などせん」
「もう血なんか繋がってないわ」
「関係ない。エイルになっても、俺の娘だ。誰にも否定はさせん。大体、父さんはもう70過ぎてるんだ。そんな元気は無い」
「その割に、若く見えるわよ」
「肉体的には30前後だろう。さ、術を掛けるぞ。力を抜いて」
父さんが呪文を唱えると、私を中心に魔法陣が展開した。
杖も無しにそんなことができるなんて……
本当に魔術師になったのね。
禁忌とされた魔術に手を染めてしまった。
〝大罪人〟か……
母さんはこのことを知ってたから、死んだことにしたのね。
魔術なんて、禁忌中の禁忌。
一家どころか、一族纏めて死罪だ。
習得できたなんて周りに知られでもしたら大変だ。
下手をすれば、1つの街が地図から消えることになりかねない。
それが分かっていてなお魔術に手を染めた。
母さんも理解を示した。
父さんがやろうとしていることを、応援することにした。
だから止めずに見送った。
本当にそうだろうか。
本当だとしたら、なら何故母さんは泣いてたの。
やっぱり、寂しいんじゃないかしら。
だったら私は……
「余計なことを考えるな。魔力の流れを受け入れなさい」
「父さんは、寂しくないの」
「エイル、余計な――」
「答えて」
「……はぁ。だから、早く終わらせたいんだ」
「30年以上ほったらかしにしてるくせに」
「それはすまないと思ってる」
「父さんがやる必要無いじゃない」
「だが、誰かがやらねばならぬことだ」
「そうだけど……なら、私がやるわ。だから父さんは帰って」
「今の両親に会えなくなるぞ」
「この世界は、魔術は禁忌じゃないわ。会おうと思えば会えるもの」
「そうか……」
「あ、でもデニス父さんをトレイシー母さんのところへ連れて帰るまで待ってほしいわ」
「分かった。なら、その頃にまた迎えに来よう。どうだ、楽になったか」
「うん、凄く楽になったわ。ありがとう」
「元素はあらかた分離できた。だが毒素はまだ溜まってるからな」
「そうよ、毒素が元素ってどういうことなの」
「正確には毒素は魔素だ。元素ではない。元素と同じ振る舞いをしてる魔素が、毒素なんだ」
「どういうこと?」
「確か錬金術師が一緒に居たな。彼女の方が専門だ。聞いてみろ」
「ナームコさんに? 彼女は毒素の正体を知ってたってこと?」
「いや、恐らく気づいてないだけだろう。彼女たちにとって無害な毒素も存在するからな」
「無害な毒素……もしかして、モナカくんたちにとって有毒な毒素もあるってこと?」
「あるかもしれない、とだけ言っておこう。正直、父さんには分からない。彼らとは根本が違うからな」
「根本? 元素と魔素ってこと?」
「いや、簡単に言うと父さんやエイル、それに錬金術師の世界は根っこが一緒なんだ。だが彼らはその根っこが違う。同じ世界樹に実った果実ではない。別の世界樹に実った果実なんだ。だからあの召喚術師でなければ、呼び寄せられなかったんだ」
「アニカさん?」
アニカさんでなければ呼び寄せられなかった?
彼女も転生者よね。
父さんはなにを知ってるんだろう。
「……エイルが欲しがってるものは、この倉庫にはない」
「えっ」
いきなりなに?
私が欲しがってる物……
|MC-DCコンバーター《魔力-電力変換器》。
「そもそも、見つけたとしてもあれは元素だ。今のお前では使いこなせない。だから、代わりにこれをやろう」
「これは?」
透き通った、紫色の鉱石?
「結晶化した毒素だ」
「ぅわあ!」
え?!
毒素って結晶化するの?
そんな話、聞いたことがない。
「っはっはっはっは、安心しろ。扱い方を間違えなければ、無毒なままだ」
「扱い方……」
無毒な毒素ってなによ。
益々意味が分からないわ。
「お前ならできると信じてる」
「私にできるかしら」
「なに言ってるんだ。できるかできないかじゃない」
「やるんだ」
それが口癖だったわね。
「そうだ。分かってるじゃないか」
「子供の頃、父さんたちが言ってたからね」
なんでそんなところが一緒なのかしら。
「父さんたち……か。良い両親に恵まれたな」
「感謝してるわ」
「俺たちよりもか?」
「比べるようなものじゃないでしょ」
「それもそうか。っはっはっはっは」
「でも、父さんは2人ともダメね。母さんを泣かせてばっかり」
「そうか、ダメ親父か」
「ダメ親父よ」
「っはっはっはっは! なら、エイルは父さん似だな」
「えー?! ……そうかも」
私も、母さんを泣かせてばかりだもの。
毒素の正体が明らかになりました
どういったものかは、またの機会にでも
次回は二択です




