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携帯は魔法杖より便利です 第3部 親子  作者: 武部恵☆美
第6章 世界を超えた再会
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第61話 オオネズミの人権

「父さんは今、何処に居るの?」

「目の前に居るじゃないか」


 あー、そうだったわね。


「デニス父さんは、何処に居るの?」

「会ってどうする」

「トレイシー母さんの元に、連れて帰るわ」

「連れて帰って、どうするんだ」

「父さんを、母さんの元に……連れて帰るわ」

「それは父さんを手伝ってくれる……ということでいいんだな」

「そうすれば、世界は正常に、保たれるのよね」

「ああ。守人は解放される。誰も犠牲にならない世界になる。父さんと供に来い」

「今は無理よ。デニス父さんを、連れて帰らなきゃ」

「そうか。そうだな。ならここを目指せ」


 1枚の地図が、身分証に送られてきた。

 父さんも身分証を持ってるの?!

 でもあれは、元の世界の携帯(スマホ)よね。

 モナカくんと同じ?

 詮索は後にして、地図を確認する。


「ここ?」

「そこにデニスは居る。行くなら早くしろよ。連れて帰れなくなる」

「何処の……地図なの?」

「あの妖精に聞け」

「妖精……ひっ。む、無理よっ」

「何故だ? あんなにも仲良くしてたじゃないか」

「あんな子……だとは、思わなかった……のよ」

「おいおい、自分の価値観を相手に押しつけるな。ましてや相手は異世界人。自国民ならまだしも、国どころか世界が違う。それに、そういうことならデニスやトレイシーも同じだ。彼らもゴーレムに人権があるなんて考えてない」

「ゴーレムはただの操り人形よ。知性ある人形じゃないわ」

「5千年前には自立思考型のゴーレムも少なからず居た。彼らに対しても無かったと言ってるんだ」

「あ……う……む、昔の話よ」

「私たちの星では既に簡易人権が認められていた時代だ。いいか、自分の価値観を相手に押しつけるのは、正義の味方がすることだ。那夜(なよ)はあんな連中とは違うだろ」

「そうだけど……でも!」

「間違えるな。那夜(なよ)は……いや、エイルは今何処で暮らしてる。みんなはどんな価値観を持って生きてる。合わせろとは言わない。だが、ここではエイルが異端児だということを、忘れるな」


 私が異端児……

 周りとの価値観のズレは、生きていく上で大きな足かせになる。

 それでも自分の価値観を貫ける人は、多くない。

 私は……合わせられるだろうか。


「はい」

「いい子だ。ちゃんと〝ごめんなさい〟するんだぞ」


 頭をワシワシと撫でられる。

 大きな手。

 微かに感じられる、懐かしい感触。

 デニス父さんやトレイシー母さんとはまた違った、少し乱暴な撫で方。


「子供扱い……しないでよ」

「バーカ。親にとって、子供は幾つになっても子供なんだよ。エイルも親になれば分かる」

「そうかな。でも私、あの子に……酷いことを言って、しまったわ」

「なにを言ったんだ」


 あの子がしたこと、私がしたことを、簡単に話した。

 父さんはただ黙って、全てを聞いてくれた。


「なるほどな。エイルになっても、なにも変わってないのか。1つ忠告をしてやろう。エイルは機械を一度たりとも人間扱いしてなどいない」

「当たり前よ。人権はあっても、機械は機械よ。人じゃないわ」

「それでは本当に人権があるとは言わない。確かに条約違反にはならない。だが、根本の部分では、エイルは妖精となんら変わりがない」

「私は、あの子みたいに150人も……殺して、平然としてられないわ」

「エイルはオオネズミを殺した数を覚えているか?」

「なによ、突然。そんなの」


 身分証で確認すれば簡単に……


「おっと、身分証で確認するのは無しだ」

「……覚えてないわ」

「150匹以上は殺しているな」

「そのくらいは……それが、なんだっていうのよ」

「お前は知らないだろうが、オオネズミにも人権がある」

「なにを突拍子もないことを。あいつらに、知性なんて――」

「意思疎通ができないからといって、知性が無いと決めつけてはいけない。条文にあったな」


 そんな一文(いちぶん)、あったかしら。

 法律家じゃないから、全文なんか読んだこと無いわ。

 でも、父さんが言うのなら、あるのだろう。


「……ええ」

「彼らはそれに当たる」

「そんなことで、騙されると、思ってるの」

「騙してなどいない」


 そんなことは分かってる。

 でも、どうしても信じられないわ。


「原始的ではあるが、社会を形成し、独自言語で意思疎通を行ってる」

「そんなこと……誰も、言ってないわよ」

「ああ、この星の者は、オオネズミに対してそっち方面の研究をしてないからな」

「なら、なんでそんなことが、言えるのよ!」

「父さんが調べた」


 意味が分からない……

 調べた?


「なんの……ために?」

「こんなこともあろうかと思ってな」

「〝こんなこと〟?」

「大切な娘が、いずれは当たるであろう壁を越えるために……だ」

「そんな不確定なことで……」

「だが実際に当たってる。父さんの読みも、悪くないだろ」

「信じ、られない……そんなこと」


 そもそもオオネズミにそういった社会性があることを、どうやって予測したの?

 私はそんな可能性、これっぽっちも感じなかったのに。


「エイルは父さんが信じられないのか……悲しいな」

「違うの、ごめんなさい。父さんのことは……信じてるわ。でも……なら、私は……なんてことを」

「過ぎたことだ。そしてエイルはこれからも狩り続ける」

「私は……」

「エイルが狩らなくても、大勢の人がこれからも狩る。勿論(もちろん)、モナカ君もだ」

「と、止めな……きゃ!」

「止められるのか? 今の食糧事情を知らぬわけではあるまい。食料だけじゃない。様々なところで余すことなく使われている素材でもある。止められるわけがない」

「そう……だけど」

「ここには恒星間条約なんてものはない。どんな生き物でも、他者の犠牲の上で生きている。動物を犠牲にし、植物を犠牲にし、生きとし生けるものを犠牲にし、生き続けるしかない」

「私は……どう……したら」

「どうもしなくていい。今までどおりでいいんだ。我慢できないなら、命に感謝するんだ。そして奪った命を背負って生きていけばいい。生き物はあらゆるものの犠牲の上で生きていくしかできないんだ」

「はぁ……はぁ……」

「ん? どうした。さっきから少し変だぞ」

「う……ちょっと、気分が……それに痒くて」

「そういえば腕と足の包帯をずっと掻いてたな……! エイル、それは元素か?」

「あ……そういわれると、そうね。最初は、凄くしみて、痛かったけど、今はちょっと……痒い程度よ」

「バカッ、今すぐ取れ!」

「えっ?」

正義の味方は、民衆の味方ではありません

次回は消毒液ってしみるよね

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